サウナももちろん、正義でした
浴場に入った二人は、まず頭と体を綺麗に洗った後、軽く湯船につかり、それからサウナへと向かった。
「サウナは入ったことある?」
「いえ、実は初めてなんです」
モルトにも浴場はあるのだが、サウナはついていないため、シエラは実際に利用するのはこれが初めてだった。
「サウナの入り方?は前にルー……同僚から聞いたことがあるので、なんとなくはわかるんですが」
ルーから前に聞いたサウナのお作法。それは、サウナ室の出入りは素早く行い、中に入ったらできるだけ熱を出している魔石に近い場所に座り、あとは黙ってひたすら自分の限界と戦い、もう、これ以上は無理だ!と思うところまできたら外に出て、冷たい水を浴びて、さらに水風呂に入って体を冷やし、またサウナに入る、というのを5セット程続ける、という内容だった。
「……えぇっと……」
ルーから聞いた内容をミュシカに伝えると、ミュシカは少し困惑した表情を浮かべる。
「そう、ね。そういう風に入る人もいるんだけど、シエラさんは今日初めてなわけだし、もう少し、気軽な感じで入りましょうか」
「気軽、ですか?」
そもそも、お風呂で気軽とはいったいどういうことなんだろうか?とシエラが首を傾げると、ミュシカはうーん、と少し考えて、口を開く。
「そうね、サウナは通常のお湯の入った湯船とは違って、室温と湿度を通常よりかなり上げた状態にした部屋の中に入るのよ。それは知ってるわよね?」
「はい、温かめの部屋に入って、汗をかき、体内の血のめぐりをよくして、老廃物を流しだす効果がある、と聞きました」
シエラの言葉に、温かめ、かぁ、とミュシカは苦笑いする。
「サウナ室内はそれなりに温度も湿度も高く設定されているから、通常とは異なる空間になっていて、最初から何度も通いなれた人と同じような入り方をするのは危険なの。さっき言ってたような、自分の限界も、初めてじゃわからないでしょう?だから、まずは短い間隔で入ってみて、まだいけそうなら少しずつ時間を延ばしていく、っていうのがいいんじゃないかなと思うんだけれど」
「なるほど……そうですね、わかりました」
確かに冒険者も初心者はまず薬草採取やスライム討伐等、簡単で無理のない範囲のやれることからやるものだし、自分がサウナに入るのも、同じようにする必要があるのだろう、とシエラはミュシカの言葉に頷いた。
「それじゃ、入ってみましょうか」
「はい!」
ミュシカが扉を開けて中に入ると、シエラもその後に続いた。
「うわ……なにこれ、あっつ!」
サウナ内に一歩足を踏み入れた瞬間、ムワっとした空気と共にべったりとまとわりつくような湿った空気が、シエラの全身をつつむ。
「思ってたようなのと、違った?」
空いているところにミュシカが座ったので、その隣にシエラも座る。
「はい、もっとこう……温室の温度をちょっと上げたくらいのものを想像していました」
まだ入ってすぐだというのに、すでにじんわりと皮膚の表面に汗が滲み出てきている。
「あら、あなたサウナ初めて?」
突然、隣に座っていたおばちゃんに声をかけられたので、シエラは少し驚くも、はい、そうなんです、と頷いて答えた。
「初めてなら無理はしちゃだめよ?しっかりと水分もとって、休み休み入るといいわよー」
「そうそう、いきなり無理しちゃったら、倒れちゃうことだってあるからねぇ」
「いくら美容と健康にいいからって、やりすぎちゃったら意味がないからねぇ」
楽しそうに笑うおばちゃんたちの言葉に、シエラは気を付けます、と頷く。
「それにしても、大盛況ですね」
浴場の方には子供からお年寄りまで、様々な年齢層の人たちで溢れており、サウナ内もあまり座るスペースに空きはなく、常に人でうまっている状態だった。
「そうね、やっぱり家にお風呂があるところなんて貴族の屋敷くらいだし、ここは値段もそう高くないから、通いやすいっていうのもあるかしら」
ミュシカが頬を流れる汗を拭いながら答える。
「あと、ここのサウナは少し面白い仕掛けがあって……あ、そろそろね」
ミュシカがそう言うと同時に、部屋の真ん中に置かれていた魔石に突然水が噴射された。
「え!?」
突然噴き出したその水は、高温状態になっていた魔石に当たるとその熱で一気にジュワっと蒸気に変化する。そして、その魔石の下からゴォっという音と共に風が一瞬流れ、その風に乗って、蒸気が一気に室内をめぐった。
「あっつ!」
突然の出来事に、シエラは思わずしかめっ面になる。
「ふふ、ここのサウナ独特の仕掛けでね、一定時間が過ぎると、こうやって室内の湿度を保つために自動で水が出る仕掛けになっていて、それを室内にめぐるように設計されているのよ」
「こ、これ、すっごい熱いんですけど……」
シエラは周りの人はこれ平気なの?と見回してみるが、みんな慣れた様子で、気持ちよさそうな表情を浮かべていた。
「初めてだし、一回外に出ましょうか」
「はい……」
入ってまだ数分ではあるが、流石にこれはキツイ、とシエラはミュシカと一緒に一度サウナの外に出た。
「気持ちい―……」
外に出ただけで、サウナ室内よりも温度が低いので、ひんやりとした感じがして心地よい。
シエラがはぁっと大きく深呼吸をしていると、ミュシカは水風呂の方へとシエラを連れて行く。
「はい、ここで掛水して、入れそうなら水風呂に浸かるともっと気持ちいいわよ」
水の入った桶を受け取ると、シエラは頭からバシャっと一気に水をかぶる。
「冷た!……でも気持ちいい!」
シャキッと体が目覚めたような感覚を覚えつつ、シエラは思い切って水風呂の中へと進んで行く。
「ひゃー!!」
サウナで火照った体が一気に冷やされて、シエラは何とも言えない感覚にブルブルと体を震わせる。
「ふふ、気持ちいわよね。これだからサウナってついつい入りたくなっちゃうのよねー……」
ふぅ、と肩までしっかりと水風呂に浸かってミュシカが呟く。
「わかる気がします……」
軽く体を水で冷ました二人は、もう一度サウナ室へと戻る。
「モルトの浴場にも、サウナ作ってくれないかなー……」
シエラは中央に置かれたサウナの装置をじっと見つめながら呟く。
流れ落ちる汗をぬぐいつつ、じんわりと体の芯が温まるのが心地よい。
「そうね、常に魔石を使用するから魔石の供給が安定して行えるところじゃないと難しいと思うけれど、モルトなら大迷宮もあるし、冒険者もたくさんいる分、需要もそれなりに見込めそうだから、作ってもうまくいくんじゃないかしら」
「そうですよね!!戻ったらお風呂屋のおじさんにダメもとで言ってみよう~」
ふふっと嬉しそうに笑うシエラを見ながら、ミュシカはこうしていると、どこにでもいる普通の女の子なのよね、と彼女を見つめる。
「……どうかされましたか?」
ミュシカの視線に気づいてシエラが聞くと、ミュシカは何でもないわ、と小さく頭をふりながら答えた。
(一緒に仕事をしてる時のイメージが強すぎてうっかり忘れちゃうんだけど、いってもまだ彼女は私の4分の1も生きてないのよね。彼女がトラブルに巻き込まれないよう、こちらでも細心の注意を払っておかなくちゃいけないわね)
すでにエディとの交流が、社交界では話題になってしまっているため、若干の手遅れ感は否めないのだが、ミュシカはできる限りのことはしてあげなくてはね、と、サウナの暑さと戦いつつ、いつの間にか周囲のおばちゃんたちとすっかり仲良くなって溶け込んでいる彼女を見つめながら、心の中でそう、決めたのだった。
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