油断大敵ー2
無事に解体のお仕事を終えたシエラが、少し早めに上がれるとなったら、ゆっくりお風呂に入れるから、王都にしかないと言われる、噂のサウナとやらを試してみようかな?なんて思いながら、職員更衣室で上機嫌で着替えている時だった。
「ねぇ、こっちにシエラさんいる?」
更衣室の入り口の方で、誰かが彼女を探していることに気付いたので、シエラはいます!と返事をした。
(え、なに?もしかして提出した素材に何か問題あったかな……?)
慌てて着替えを終えて、シエラがパタパタと入り口の方へ向かうと、すぐにギルドマスターの執務室まで行ってほしい、と言われた。
「え?ギルドマスターの執務室、ですか?」
何かやらかしたっけ?思い当たることはないはずだが??と不思議そうな表情を浮かべていると、彼女は、お客さんがきてるみたいだよ、と続けた。
「…………お客??」
一体だれが来てるんだ?とさらに首を傾げつつも、呼び出されているのなら急がないと、と、慌てて荷物を手に取り、執務室に向かった。
ドアをコンコン、とノックすると、中からどうぞ、という声がして、すっと扉が開いたので、シエラは小さく、失礼します、と頭を下げて中に入る。
「……………………」
何じゃこれ。
正直で素直な、シエラの感想だった。
部屋に入った瞬間、目と耳に入ってきたのは、まるで付き合いたての恋人同士か何かか?と言ってやりたいトーカスとエディの会話に、さらに、人たらしといってもいいようなトーカスの言葉、そしてその言葉にうっとりとした乙女のような表情を浮かべるエディの姿だった。
「……二人の世界を作るなら、よそでやってもらっていいですか?ていうか、家に帰ってからやってください」
思わず口をついて出たのはその言葉だった。
正直、こればっかりはシエラがそう言ってしまうのも無理はない、と思われる状況である。
「あれ?シエラ?他の部署で仕事中じゃなかったのか?」
少しだけ恥ずかしそうな顔をしながらも、コホンと咳ばらいをして平静を装ったエディが聞いてきた。
(いやいや、今更さっきのをなかったことにはできませんからね)
「そうですよ、今朝もその話をしたじゃないですか、今日は解体部署での仕事になるので、戻りが遅くなりますっていうのと合わせて」
帰りは公共浴場へ寄るつもりにしていたので、事前に遅くなる旨をきちんと申告していたはずだ、とシエラが首を傾げながら言うと、あ!とエディは、今思い出したかのような表情を浮かべて、そうだったな、と目を泳がせながら、ハハハ、と笑う。
「そ、それはそうと、もしかしてアオに会いにきたのってポーションの件か?それなら今、俺の方からお願いしておいたぞ」
エッヘン、と少し胸を張っていうエディに、シエラはありがとうございます、ととりあえず頭を下げて、でも違います、とスパッと答える。
「お客さんが来ているから、ギルドマスターの執務室に行ってほしいって言われたから来たんですけど」
「あぁ、それは実は口実でね。ジェルマからこちらに連絡があったから、その情報共有の為にこっちに来るように伝言してもらったんだよ」
アオに言われた瞬間、シエラはなぜか、背筋がゾッとする感覚を覚えた。
(え、なに?なんか、嫌な予感が……する!?)
何かを察知したと思われるシエラを見て、アオはにっこりと微笑みながら、危機管理能力は中々高そうだね、と呟いて言葉を続ける。
「こちらにモルトから冒険者が来るらしいから、到着した後の対応をシエラ嬢にお願いしたいんだ」
なんだ、そんなことか、とシエラはホッと胸を撫でおろして、わかりました、と二つ返事で頷く。
「ちなみに、冒険者の名前はフィーヴ君。例の彼だよ。滞在先は……って、どうかしたのかい?」
信じられないことを聞いた、と言わんばかりに、目を見開いてあんぐりと口を開けているシエラに気付いたアオは、少し驚いたように、彼女に声をかける。
「はっ……!?い、いえ、なんでもないです。大丈夫です」
内心、何も大丈夫ではない、心臓もバクバクうるさい、とシエラは思いつつも、鼻息が荒くなりつつも、そう、答えた。
「そうかい?……では、話を続けるけれど、例の討伐訓練の際に、シエラ嬢の護衛兼助手として同行させてくれ、とのことだ。彼が同行してくれるなら、だいぶ討伐訓練の監督も楽になるんじゃないかい?」
「それ、は、まぁ、はい、そうですね、助かりますね……」
アオの言葉に間違いはないのだが、なんとなく、それ以上に気苦労が発生しそうで嫌だな、と思ったことはシエラの胸の内に留めて置く。
「討伐訓練には間に合うように来るということだったから、もし到着したら、連絡だけすぐにくれるかな?」
「わかりました」
通常、モルトから王都までは馬車でゆっくり行けば約1週間ほど。今日連絡がもしあったのであれば、まだ到着するのは数日先だな、と思いながら頷く。
「帰る前に呼び止めてしまってごめんね?ちょうど帰るくらいの時間だよね?」
アオが時計をちらりと見て言う。
時刻はすでに18時を回っていた。
「……いえ、大丈夫です。もうあとは帰るだけなので」
(そうよ、もう帰るだけ。仕事はもう終わったんだもの!気を取り直してお風呂に行こう!)
うんうん、とシエラが一人でそんなことを思っている時だった。
「あ、もう帰るのか?それなら、一緒に馬車に乗って帰ればいい」
ちょうどよかった、とにっこりと笑ってエディが提案してくる。
「え?いや、あの、今朝も言いましたけど、私、今日は解体業務だったので、お風呂に寄ってから帰ろうかと」
「え、シエラ風呂に行くの?そこ、従魔も入れたりする??」
「は?」
急に会話に参戦してきて、あまつさえ一緒にお風呂に行こうとするトーカスに、シエラは思いきり眉を顰める。
「お風呂、ってあの最近人気の大型浴場のユートピアかい?」
アオに聞かれて、シエラははい、と頷く。
「大きくて、いろんな種類の浴槽があって、サウナもあるって聞いたので、一度行ってみたいなと思っていたのもあったので」
「うんうん、あそこは人気なだけあって、僕も何度か行ったことがあるけどお勧めだよ。ちなみに、従魔もきちんと料金を払えば一緒に入れるよ」
アオが言うと、トーカスがやった!と喜ぶ。
「エディ、俺たちも寄って帰ろうぜ!」
「え!?ちょ、トーカス!?」
いきなり何を言いだすんだこいつは!?とシエラが慌てて止めようとするが。
「いいな!よし、みんなでユートピアに寄って帰ろう!」
「わかりました。では帰りが遅くなる旨、使いだけ出しておきますね」
時、すでに遅く、エディが満面の笑みを浮かべながら即行で了承をし、できる従者のハルがすぐにその決断への対応を開始した。
シエラはその様子を見て、心の中で小さく、『終わった……』と呟いたのだった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字につきましても、適宜修正いたします。いつもご報告いただきありがとうございます。
感想、いいねいただけると嬉しいです!
また、TOブックス様より、書籍化されることとなりました!
これもひとえに、皆様が読んで下さり、応援してくださったおかげです。
本当にありがとうございますm(_ _)m
なお、イラストはれんた様です!(コーカスとトーカスが特にめちゃくちゃ可愛いですw)
是非、お手に取っていただけますと幸いです☆




