業務部 解体作業課 2
一心不乱にシエラが持ち込まれた魔物たちを捌いていると、突如、ビーっという大きな音が辺りに鳴り響いた。ちょうど、トレーに捌き終えた素材たちを並べていた彼女の手が止まる。
「ごめんごめん!そういえば説明してなかった!」
一体何事だろう?とシエラが辺りの様子を伺っていると、サーシェが慌てた様子で駆け寄ってきた。
「あのね、解体場って結構広いうえに、作業が割と単調でしょ?だから、うっかりお昼の時間に気付かないって職員が多くて、それを改善するために、お昼の12時が来たら、ああやって大きな音を鳴らして知らせるようになってるのよ」
「あぁ、なるほど!だからみんな、持ち場を離れ始めたんですね」
残っているのはあと少しで作業が完了する人たちばかりで、まだ手を付けていない人たちは、道具を片付けて、そのまま出入り口の方へと歩いて行っていた。
「シエラさんも……お、切りよく終わったところみたいだし、私がすぐにチェックしちゃうから、完了窓口に持って行って、そのまま一緒にお昼に行きましょか!」
「はい、わかりました」
完了窓口に素材と書類を戻すと、シエラはサーシェに連れられて、中央ギルド前に出ている屋台へとやってきた。
「あそこにある屋台がすっごく美味しいパンとスープ売っててお勧めなんだけど、どうかな?」
聞かれてシエラは、楽しみです!と目を輝かせた。
「美味しそうなサンドがいっぱい……どれも捨てがたい……」
前の人たちが買っていくサンドを見ながらシエラが唸っていると、その様子を見たサーシェが笑う。
「シエラさんは、嫌いな食べ物とかは特にない?」
「え?あ、はい。特にはないですね、なんでも食べます!」
シエラの答えに、いいね、とサーシェは頷く。
「よし、それじゃ今日は頑張ってるシエラさんに私がお昼は奢りましょう!サンドは日替わりがいろんな具材がたっぷり入っててお勧めなんだけど、それはどう?」
「え!?いいんですか!?」
シエラが驚くと、いいよいいよ、と言って、サーシェはひらひらと手を振る。
「すいませんー、日替わりサンドとスープのセット2つお願いしますー」
「はいよー、2つで銀貨1枚ね」
ちょうど順番が来たところで、サーシェがそのまま注文してお会計まで済ませてしまう。シエラはありがとうございます!と頭を下げると、手渡されたサンドとスープを持って、サーシェについて、中央ギルドの中庭にあるテーブルへと一緒に向かった。
「あぁ……おいひぃ……」
「まぁ、解体できるから問題ないとは思ってたけど、やっぱりちゃんとご飯、食べられるね」
野菜とお肉がたっぷりと挟まれたサンドを口いっぱいに頬張りながら、幸せそうな表情を浮かべて、もしゃもしゃと食べるシエラの姿を見つめながら、サーシェがにっこりと笑って言う。
「あー……解体には慣れてますし、あの程度でご飯食べられなくなることはないですねー」
初めて自分で解体した後は、それを思い出して食事ができなくなる、ということが多いというのはよく聞く話。
だが、シエラは仕事として解体を覚えてからもう何年も経過しているので、今更そんな初々しい反応はでないなぁ、と苦笑いする。
「いいねいいねー。……ね、ほんとに解体課にって話、真剣に考えてみない?お昼までであの解体件数もなかなかのもんだし、向いてると思うんだよね」
野菜がたっぷりと入ったスープを飲みながらサーシェが言う。
「割と小型の魔物が多かったとはいえ、すでに10件以上終わらせてるって、なかなかのスピードだよ?解体の職員はほんとに人が少ないから、素質があると思うんだけどなぁ」
「あはは、ありがとうございます。でも、私は受付課が気に入ってますので」
解体の作業自体は黙々とできるので、シエラ自身嫌いではなかったりする。それに、受付と違って、取り扱うものは喋らないので、ストレスも少ない。
なので、対お客様という点でのストレスの少なさは圧倒的に解体課に軍配が上がる。
だが、モルトの職場のことを考えると、やはり、受付課に配属されてそれなりの年数が経過しているので、やはり、職場内の人間関係という点でいえば、一番受付課が落ち着くのも事実だ。
こればかりは、どちらがいいとは天秤にかけられない部分ではあるが、やはり、今の職場はそれなりに気に入っていたりする。
「それに、私、回復系の魔法しか使えないので、属性付与ができないんです」
「え、そうなの?あー……そうなると確かに、うーん……」
シエラの答えに、サーシェは残念そうに唸る。
仮にもし、解体課へ異動することを希望した場合、属性付与ができるかどうか、という点は、大きな判断基準の一つとなる。
解体は特殊なものを除いて、基本は道具を使って行われる。解体に関しても、それぞれの魔物や魔獣に対してランクが定められており、そのランクが上がれば上がるほど、解体は難しくなるのだが、このランクは、単純に皮が硬いとか、大きくて解体が大変である、という点の他に、特殊な処理方法を取らないと、解体がそもそもできない(もしくは素材がダメになる)という点も、考慮されて設定されている。
この解体ランクについては、一般的には外に出ている情報ではないのだが、冒険者が討伐した魔物たちを自分たちで綺麗に解体することが難しい魔物、というものがこれに当たることが多いため、中央ギルドのように多くの冒険者たちが集まる場所だと、そう言った解体ランクが高ランクに当たる魔物たちの比率も高めだったりする。
「属性付与ができないとなると、ランクC以上は難しいから、そうなると数こなしたとしてもそんなに追加ボーナスは出ないしなぁ」
「あはは……まぁ、私、受付の仕事自体は、定時になかなか上がれないことを除けば、嫌いではないですし、せっかくお誘いいただいたのにすみません」
シエラが答えると、サーシェはそっかぁ、と肩を落とした。
なんとなく、社交辞令だったとしても、そう言ってもらえるのは嬉しいな、とシエラは照れ笑いをする。
「まぁでも、今後ちょっと興味がでてきたな、とかあったら、いつでも言ってくれていいからね?あ、そうだ、植物系がちょっと溜まってきてるから、午後はそっちをメインでお願いしてもいいかな?」
サーシェに聞かれて、シエラは問題ないです、と頷く。
植物系は、解体というよりは処理に近いので、力が必要な物が少ないので、魔物の解体より数段楽なのである。
「あ……そうだ、あの、聞きたいことがあるんですが」
「うん?」
齧り付いたパンを飲み込んで、にっこりと笑ってなんでもどうぞ?とサーシェが言う。
「最近、バジリスクが素材で持ち込まれたりしましたか?」
「え?バジリスク??」
とある令嬢が口にした魔物の名前をだしてみたが、サーシェはうーん、と首を傾げる。
「バジリスクは特殊解体対象だから、目撃情報が上がってきた時点で、受付あたりから回ってくるはずだけど、特にそんな情報は受けてないなぁ。あ、もちろん、解体もしてない。解体するとなったら数人掛かりになる筈だから、もし、私が休みの時だったとしても、絶対に話題に出てるはずだし」
彼女はそう言って、それに、と続ける。
「この辺りでそんな高ランクの魔物が出たりするなら、こぞって冒険者達が狩に行こうとするはずだから、シエラさんが受付やってる間に情報確認を絶対受けてると思うよ」
言われてシエラは、確かに数日しか対応していないとはいえ、バジリスクなんて単語は一度も就業中に聞いていないな、と、頷く。
「それにしてもバジリスクなんて、急にどうしたの?もしかして、目撃情報が受付にはいったの!?」
ハッとした表情を浮かべるサーシェに、シエラは慌てて、ブンブンと横に頭を振った。
「あ、いえ、そういうわけじゃないんです。その、この辺りなら、それくらいの高ランクの魔物が出たりするのかなって思って」
我ながら苦しいか?とシエラは思いつつも、必死で誤魔化そうとする。
「あ、もしかして、高ランクの従魔をもっと増やしたいとか?」
「いえ、もうこれ以上は大丈夫なんで」
サーシェにパチンと指を鳴らしながら、したり顔で聞かれたので、即座に否定する。
(これ以上従魔が増えたら面倒見切れない。て言うか、そもそもコーカス達だけでも頭が痛いのに)
つい最近仲間入りを果たした彼の事を思い出して、シエラは思い切り眉間に皺を寄せた。
「ごめんごめん、てっきり、ね。……あ、そういえば、今日は彼らは連れてこなかったんだ」
サーシェはシエラの表情を見て、これは話題を変えた方がいいな、と慌てて別の話に切り替えた。
「あぁ、はい。大人しくできるので問題ないとは思うんですが、相手がどう思うかわからないので、今日は留守番させてます」
「そっか、配慮してくれてありがとう。それにしても、ちゃんと留守番できるなんて偉いね」
「……ちゃんと大人しくできてるかはわからないですけどね。そうだ、留守番といえば、今回、モルトで留守番してる従魔がいるんですけど」
深く刻まれた眉間の皺が取れたのを確認したサーシェは、ほっと胸を撫で下ろしたものの、残りの昼休憩時間は、シエラのプルプル&ポチ自慢に付き合うこととなったのだった。
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