業務部 解体作業課 1
後半に少し、解体に関する描写があります。
詳細に書いているわけではないので、そこまでではないと思いますが、念のため嫌いな方は数行飛ばして読んでいただければと思います。
「それじゃ、ちゃんと大人しくしててね?」
「わかっている」
「お気をつけて」
留守番組のコーカス達にしっかりと念を押して、シエラは公爵家を出た。
ギルドまでの道すがら、公衆浴場の場所もきちんと確認し、道を忘れないよう、目印になりそうな建物や店を覚えながら歩いていく。
「公爵家で入ればいいじゃないかってエディ様には言われたけど、流石にそれはできないからなぁ……」
分かっているのかいないのか。
いや、あの提案をしてきた時点で、わかっていないんだろうな、とシエラは小さくため息をついた。
解体の仕事が不人気である理由の一つ。
それは臭いだ。
毎日毎日、大量の魔物や魔獣を捌いている解体場は、常に血の臭いが充満している。
換気したいところではるのだが、大っぴらに換気をしてしまうと、その異臭が周辺に漏れていくので、苦情が来る。
現在、ギルドの解体場で取られている対策としては、消臭効果のある薬草を使ったポーションを定期的に振りかけて臭いを抑えてから、作業がない時間帯のみ空気を入れ替える、という対応を取っている。
だが、これでとれるほど、魔物たちの血の臭いは甘くない。
「この臭い、建物だけじゃなくて、人や服にも染み込んでいくから厄介なんだよね」
「確かに。毎日きちんと丁寧に洗わないと、ほんとに暫く取れなくなるからねぇ、あの臭いは」
ギルドに到着して更衣室で作業用のつなぎに着替えていると、サーシェが出勤してきたようで、シエラの独り言にうんうん、と頷きながら同意してきた。
「あ、サーシェさん、おはようございます」
「おはよう。帰りはどうするの?公衆浴場に行くの?それとも、帰ってお風呂?」
聞かれてシエラは思いきり頭を横に振る。
「帰ってからとか、絶対無理です。もちろん、公衆浴場に行く予定です。なので、今朝も出勤前に公衆浴場の場所を確認してきました」
着てきた服を片付けて、忘れ物がないかをもう一度チェックする。
「今日は上り時間、確か一緒だったよね?それなら一緒に行く?」
「え、良いんですか!?お願いします!」
サーシェの申し出に、シエラは是非!と大きく頷いた。
*****
「今日は、モルト第一ギルドから研修で来ている受付係のシエラさんが、解体係の仕事を一緒に行います」
始業時間になり、作業場で夜間勤務だった職員から引継ぎを受けた後、サーシェがシエラを昼勤務の職員に説明を行うと、ちらほらと、なんで受付嬢がわざわざ解体作業を?とひそひそと話している声が聞こえてきた。
「えー……シエラさんは受付係ではありますが、解体スキルを持っていて、すでにレベルは3だそうです」
その声が聞こえたからか、サーシェがそう説明を付け加えると、ざわざわしていた声がぴたりと止む。
「モルトの方でも、手が足りない時は一緒に作業をしたりもしているらしいので、特に問題はないと思います。ちょうどうちの課からも1人交換に行ってるわけだし、しっかりシエラさんにはうちの解体現場も体験していただきたいと思います。とりあえず、今日は私が一緒に組んで、作業の流れなんかを説明しながら仕事してもらうことになると思うけど、何か急ぎのことや問題が発生した場合は、気にせずに声をかけてください。他に何かありますか?」
サーシェの問いに、特に返答がなかったので、彼女はそのまま「解散」と続けた。
その言葉を聞いて、集まっていた職員は、各自持ち場へと移動し始めた。
「それでは、本日はよろしくお願いします」
シエラは彼女の方を向いて小さく頭を下げると、彼女はこちらこそよろしく、とにっこりと笑った。
「とりあえず……初日に軽く見てまわったと思うけど、改めて作業場の説明をまずはしましょうか案内するから、ついてきて」
サーシェはシエラを連れて、中央ギルドの各解体場を回りながら説明をする。
中央ギルドの解体場は主に、食肉解体場、属性解体場、その他解体場の3つに分かれている。
食肉解体場はその名の通り、食べることができる素材が取り扱われる場所で、これは、食用の素材がうっかり汚染されたりしないようにするため、食用にできない素材の取り扱い場所と区別をされている。
属性解体場は、素材に属性が付与されているもの、もしくは、解体するにあたって属性付与された道具を使用する必要がある素材を解体する場所になっている。これは、素材に属性がある場合、解体時にうっかり他の属性素材と接触させたために素材を傷めたりしないようにする為である。
ちなみに、属性解体場は各属性ごとにパーティションで区切られていて、指定属性以外の素材を持ち込もうとすると、設置してある魔法道具が反応して、アラームが鳴る、という仕組みが導入されているそうだ。
「……あ、そうだ、シエラさんは属性付きの素材の扱いは?」
聞かれてうーん、と少し難しい顔をする。
「一応、やり方は知識として知っている、っていう程度になります。一応、解体自体もいくつかはしたことはありますが、正直、冒険者の方の貴重な収入源を最高の状態で解体する自信はないので、できれば属性付き以外の物でお願いができればと思うのですが、大丈夫ですか?」
シエラが答えると、サーシェはケラケラと笑って、何も問題ない、と答えた。
「というか、話の流れで聞いただけで、流石に属性付きの素材をシエラさんにお願いすることはないよ。一応、うちではそれぞれ、属性付き素材に関しては、対応するには事前に試験を受けて、それに受からないと対応してはいけないって規則があるから」
サーシェの答えに、シエラはホッと胸を撫でおろした。
ちなみに、モルトのギルドでは、特に試験はなく、できる人間が対応する、という方法を取っているが、属性付き素材の対応に関しては、追加手当が出るので、どちらかと言うと、みんな我先に、と取り合いになっている状況だったりする。
「とはいえ、解体自体はやったことあるんだね」
少し驚いたようにサーシェに言われて、シエラは苦笑しながら答えた。
「最初にいたギルドが物凄く小さいギルドだったんで、そこにいた時、解体担当してたおじいちゃんに、時々手伝い頼まれてた時に何度かやったっていう程度です。まぁそれも、大体はロックリザードの解体か、ウォータースライムを締める作業でしたけど」
シエラの言葉に、サーシェはそれはまた大変なのばっかりじゃない、と驚いた顔をする。
「そうなんですよー……ロックリザードは外皮が堅くて解体するのに力がいるし、刃の通りやすいところを覚えてないと解体道具がダメになるし。ウォータースライムは一発で締めないと使い物にならなくなるしで……あれはほんとに大変でした」
思い出しながらシエラはうぅ、と小さく呻いた。
「でも、その辺の解体ができるくらいなら、スキルレベルが3っていうのも納得だわ」
うんうん、と頷きながらサーシェが言うと、最後にやってきた解体場の扉を開けた。
「さて、ここが最後。食用、属性、それぞれに該当しない素材の解体場。薬草なんかの植物系もここの一角で対応してて、今日はここで仕事をしてもらおうと思います。問題ない?」
聞かれてシエラはわかりました、と頷く。
「よし、それじゃ流れを説明するね。うちではあそこのカウンターのところに素材がどんどん置かれていくので、まずはそこで素材を受け取ります」
カウンターへ移動すると、そこにはすでにカウンターいっぱいの素材が、紙と一緒に置かれていた。
「紙にいつの受付で、どういう内容での対応になるか。例えば、皮は解体対応ので返却、肉はそのまま買取、とか、そんな感じ」
近くに置いてあった素材を一つ手に取り、紙の内容を見せながら説明してくれる。
「一応、素材については基本は受付が早い順番に対応するから、向こう側へいくほど、受付が後の物になるので、こっち側から取るようにしてね」
「わかりました」
シエラはメモを取りながら頷く。
「それじゃ、まずはこの素材から対応しよう。今日は、あそこがシエラさんの作業場所になるので、そこに社員証を置いてくれる?」
ちょうど社員証と同じサイズくらいの板が置いてあったので、そこにシエラは自分の社員証を置く。すると、板が光り、少しして、認証が完了しました、と声が聞こえた。
「これは……?」
シエラが不思議そうに聞くと、サーシェは凄いでしょ?とにやりと笑った。
「うちってほら、作業場も多いし、作業する人間もそこそこいるから、誰がどれをやったのかをチェックするだけでもかなりの時間がかかってたの。それを解消するために、導入された魔道具がこれなんだけど、ここに社員証を置くと、その社員証の内容をチェックして、問題がなければ認証されるの。んで、この箱にさっきついてた用紙を置くと……」
素材と一緒についていた内容が書かれた紙を置くと、置いた紙のところに、『解体場所:その他解体倉庫 対応者:シエラ 確認:済(魔道具No5)』の表記が自動的に記入された。
「え、凄い!!」
「でしょー?魔道具で自動判別して自動記入までさせてるから、今はもう、魔道具にエラーが出ない限り、他の人にチェックやうっかり記入漏れなんかもなくなって、大助かりなのよ!」
目を輝かせているサーシェを見ながら、シエラはモルトに戻ったら、すぐに解体担当のルーカスに教えてあげよう、と思った。
「というわけで、これでもう書類記入は今はもう不要だから、解体始めようか。シエラさん、いける?」
差し出された素材の元、ラージマウス2匹を受け取り、シエラははい、大丈夫です、と頷いた。
「それじゃ、やってみて」
解体の仕方は人それぞれだが、取れる素材や分け方は基本的には決まっている。
ラージマウスは、肉は食用に適していないが、肉に微量の毒が含まれているので、害獣の駆除剤の素材として使用される。
まずは手足としっぽの部分を切り落とし、次に切り込みを入れながら皮を剥いでいく。
頭を取り、お腹を開いて内臓を取り出して、皮を綺麗に広がるように切ったら、後は中と皮を丁寧に綺麗になるまで洗っていく。
「結構手馴れてるわね」
「ラージマウスはどこにでもいるんで、ギルドでの初心者向けの解体講習でよく使うんです」
「え、モルトではそんな講習もやってるの?」
解体の仕方なんて、誰かに教えてもらわなければもちろんわからない。なので、モルトのギルドで受けられる講習の中に、解体ももちろん存在する。
「はい、冒険者同士で教えあったりとか、そうやって覚えていくっていうのもあると思うんですけど、それだと、教える側の知識量によって、せっかくの素材をダメにしてしまってたり、捨ててしまってたりすることもあったり、逆に教えてもらった人が間違って覚えてしまってたことが原因でトラブルが起こったりと、色々あったので、それならギルドできちんと講習という形をとってみたらどうかってことで始めたんです」
もう一匹のラージマウスをサクサクと解体していきながらシエラは答える。
「よし、こんなもんかな。すみません、確認はサーシェさんにお願いしたらいいですか?」
解体し終えた素材たちをトレーに素材ごとに置いていき、サーシェに聞くと、今回は私がチェックするね、と言って、トレーの中を確認していく。
「うん……大丈夫、問題なし。すごいね、かなり手馴れてたし、このスピードと解体技量なら、受付じゃなくて解体担当でも十分やっていけるんじゃない?」
書類の素材項目部分にそれぞれ記入し、最後に確認者欄にサーシェのサインを書いて、トレーの上に乗せる。
「いえいえ、本職の方に比べたら全然です。よくある魔物なんかの解体くらいしかできませんから」
あはは、と苦笑いするシエラに、解体担当になることも、検討したらいいのに、と残念そうに呟いた。
「とりあえず、解体が終わったら、トレーに確認サインまでもらった書類を置いて、そこの完了の窓口のところに置けば、対応は完了。ちなみに、解体の確認に関しては、今日はあそこにいる2人が確認担当者になるから、終わったらあの2人のどっちかに声を掛けたらいいよ」
「わかりました」
サーシェが指さしたほうにいた2人がこちらに気付き、手を小さく振ってきたので、シエラはぺこりと小さく頭を下げた。
「で、完了窓口に返却が終わったら、またさっきのカウンターへ行って、次の素材を持ってきて、解体して、を繰り返すって感じ。ここまではどう?」
聞かれてシエラは、問題ありません、と頷いた。
「なら、お昼休憩まで、ジャンジャン行ってみようか!」
言われてシエラは、わかりました、と頷き、カウンターに置かれていた依頼物を取り、移動した。
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