シエラが歩けば……?
「で?その後、たまたま通りかかった露店で、詐欺まがいの商売してる店を見かけて、買い物しようとした客を止めたら店主と揉めて?移動中にひったくりの現場に遭遇して、サクラに犯人取り押さえさせて?ようやく戻ってきたと思ったら、貴族街にある宝石店から飛び出してきた強盗とうっかりぶつかってそのまま捕まえた、と?」
エディに聞かれたシエラは、こくこくと頷いた。
パン屋を後にしてからも、事件に遭遇し続けた為、不審に思った警備隊の一人が、ボルトン家にシエラの身元確認を入れた為、エディが今日の出来事をシエラに聞いていた、というわけだった。
「最初、話を聞いた時、そんなことあるか?と思ったんだが、ほんとにそんなに巻き込まれてたんだな」
「言っておきますけど、好きで巻き込まれたわけじゃありませんので」
エディが驚いた様に言ってくるので、シエラはキッと彼を睨みながら答える。
「その、どの現場でも、シエラさんやその従魔が助けてくれたのだ、ということを皆さん仰っていたので、問題はないことは間違いないと思います」
「ただ、その……如何せん、騒ぎがあると言われて駆けつける度に、現場に彼女がいたものですから」
「……我々としても、念のため、身元であったり、王都に来た経緯を流石に確認しないわけにはいかなかったんです」
王都内で発生した揉め事含む対応事案は、今日1日で8件ほど。その内の5件にシエラが絡んでいた、となると、流石に警備隊としても、運悪くたまたま遭遇しただけ、と処理することができず、カミラとセオ、そしてイギーは、こうしてシエラと一緒にボルトン家に訪問している事情を説明した。
「なんか、ほんとにすみません……」
自分が悪いことをしたわけでもないのに、なぜかいろいろな人が確認やらで手間を取らせてしまっていることに、なんだか申し訳なさを感じたシエラは、しょぼんとなりながら謝る。
「いえいえ、こちらこそ、色々とトラブルを解決していただいたというのにすいません」
「気にしないでください、理解はできるので。私がもしカミラさんの立場だったとしても、いくら何でも巻き込まれ過ぎじゃない?って間違いなく思いますから。……というか、正直、すでに思ってますし」
シエラは小さくため息をついた。
「まぁとにかく、彼女が王都に来た理由は先ほども伝えた通り、中央ギルドでの研修の為で、そのついでに、俺の通っている学園の恒例行事に、彼女含めて監督官として参加してもらう関係で、ボルトン家の方で身元保証もしている。なので、心配はいらない」
にっこりと笑って答えるエディに、わかりました、とカミラは小さく頷いた。
「今後もし何かあった場合は、私かセオ、イギーの誰かを呼ぶように言ってもらったらと思います。お時間いただき、ありがとうございました。それでは、私たちはこれで」
「はい、わかりました」
彼女たちはそういいって小さく頭を下げると、シエラにごめんね?と苦笑いを浮かべながらささやいて、部屋を出て行った。
「……いやぁ、シエラ、マジですごいな?え、もしかしてシエラの父親は有名な推理小説家だったりする?あ、それか、おじいちゃんが名探偵とか?」
「ちょっと、何言ってるかわかんないんだけど」
目をキラキラと輝かせ、わくわくしながら聞いてくるトーカスに、何それ、とシエラは冷たい視線を送りながら答える。
「前から、巻き込まれ体質ってやつじゃないかな?と薄々思ってはいたんだけどさ、まさかここまでとは思わなかったぜ。まさに、シエラが歩けば事件に当たる」
「ちょっと、そんな変な体質じゃないから!なんてこと言うのよ、全く。不吉なこと言わないで」
げんなりとした様子で答えるシエラに、悪い悪い、とトーカスは笑った。
「でも……正直、トーカスの言ってることは間違ってないんじゃないか?だって、現にこうして今日だけでも……ってひぃ!!」
シエラから思いきり殺気を感じたエディは、思わず口を手で押さえて、言葉を飲み込んだ。
「もう、終わったことはどうでもいいと思うんですが?それよりトーカス、今日、学園に行ってどうだった?何かあった?」
シエラに聞かれて、トーカスはそうそう、と翼をポンと合わせて話始めた。
「今日、学園について行ったらさ、シシィ嬢とルディア嬢がまた揉めてたんだよ!」
「お、おい、トーカス!?」
思わぬ方向の話をし始めるトーカスに、エディは慌てる。
「……その話って討伐訓練に関係あるの?」
「うーん……たぶん?」
「え、あるの?」
エディを取り巻く恋愛事情になんてこれっぽちの興味もないんだけど、という表情を浮かべていたシエラだが、トーカスの思わぬ回答に、少し驚いた。
「いや、二人が揉めてるのはまぁいつも通りらしいから、そこは別にそんな重要じゃなくて。その揉め事の後に、シシィ嬢が怪しげなフードかぶった奴と、話をしているところを目撃してよ。何話してんのかなって思ってちょっと盗み聞きしてみたら、それが今度の討伐訓練の話だったんだよ」
「え?」
トーカスの言葉に、今度はエディが驚く。
「……なんでエディ様がそこで驚くんです?トーカスから聞いてるんじゃないんですか……?」
怪訝な眼差しを向けるシエラに、エディは慌てて、俺も初耳なんだよ、と弁明する。
「あれ?言ってなかったっけか?まぁ、今言ったしいいよな?」
悪びれた様子もなく、トーカスはそのまま話を続けた。
「で、その時に、シシィ嬢が『バジリスクが出るはずだから、猛毒も解毒できるポーションをできるだけ用意しておいて』ってそのフードの奴に言ってたんだよ」
「「はぁ!?」」
トーカスの言葉に、思わずエディとシエラは大きな声で叫んだ。
「ちょ、ちょっとエディ様!?今度の討伐訓練の場所、そんな危険地帯になってるんですか!?」
元々エディから聞いていた討伐訓練の場所は、王都からは少し離れた場所にある森で行われることにはなっているが、シエラがギルドで事前に集めた情報では、基本はDランク前後の魔物が出てくる場所で、時々、Cランクの魔物が出てきたという情報がある程度だった。
トーカスから出てきたバジリスクというのは、大きな蛇のような見た目をして、毒を使って相手を攻撃してくることで有名な魔物だ。しかも、大きなその体型とは裏腹に、動きも俊敏な為、ギルドでは推奨討伐ランクは、個体でもAランクに設定されている。
「いやいやいやいや!そんなわけないだろ!?そもそも、実践すらまだの学生の集まりで行くんだぞ!?そんなヤバいのが出るような場所を選ぶはずがないだろ!それに、討伐訓練の場所は事前に学園側でも調査を行ってるはずだし、俺も個別に調査させたが、そんなのがいたなんて話は聞いてない」
そう言ってエディは、後ろに控えていたハルとニュークの方を見た。
「はい、その通りです。学園側の調査とは別に、私とニュークで念のため、森の確認はしてきましたが、その時、バジリスクの痕跡なんてどこにもありませんでしたよ」
バジリスク自体がそこそこ大型の魔物なので、森の中であれば、地面にその痕跡が残っていることが多く、また、バジリスクの出す毒のせいで、不自然に木や草なんかが枯れている場所があったりするので、その痕跡をエディの護衛である2人が見逃すとは確かに考えにくかった。
「てことは……そのシシィ様が、場所を勘違いされている、とか……?」
シエラが聞くと、エディはうーん、と考えるも、可能性は低いと思う、と答えた。
「討伐訓練に関しては、日程と場所しか学生には伝えられないんだよ。事前にその場所にどんな魔物が出てくるかを調べておくことも、討伐訓練の一環ってことでな。彼女がもしその場所を勘違いしてたとしても、そもそも、調べる段階で……彼女だけで調べることはないだろうから、誰かしらが指摘しているはずだ」
エディの言葉に、トーカスが、なるほど、と頷いた。
「そうか。マーカス殿下と一緒に調べてるはずだから、流石に殿下まで間違えるってことはまず考えにくいな」
あえて個人名をふせたエディの気遣いを思いきり台無しにして、トーカスがケロッと続けた。
「……えぇと、もしそれが間違いないなら、なんでシシィ様はバジリスクが出るだなんて言ってたの?解毒ポーションまで用意するってことは、それなりの確信があるってことじゃない?」
シエラが首を傾げて言う。
「まぁ、バジリスクと言っても所詮は少し動けるだけの毒蛇だ。我らがいれば問題は無かろう」
それまで黙って、まるで自分は関係ありませんとばかりに、優雅にマイスを啄んでいたコーカスが口を開いた。
「それに討伐にはシエラも一緒に行くのだろう?なら、厄介事を引き付ける体質で、シエラがバジリスクを引き寄せる可能性も高いだろうし……なんなら、別行動でシエラが動けばそっちで釣れるんじゃないか?」
「……怖いこと言わないで、そんなこと、あるわけないじゃない」
顔を引きつらせながらそう言いつつも、不安がどんどん膨らんできたシエラは、明日、ギルドに出勤したら、忘れずに上級解毒ポーションを用意してもらえるよう、ギルマスに申請しよう、と、心の中で誓ったのだった。
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