休日の過ごし方ー2
「一体何の騒ぎだ!?」
どうやら事の成り行きを見ていたギャラリーの誰かが、街の警備隊を呼んできてくれたようで、軽く武装した男女数名がわらわらとやってきた。
「……えっと、これってどういう状況……??」
やってきた女性の隊員がシエラと彼女に抑え込まれている状態の男性を見て、状況が飲み込めずに首を傾げながら呟いた。
「あ、あの、彼女は」
ハッと我に返ったお店の姉妹が、慌てて状況を説明する。シエラは抑え込んでいた手をパッと離して、男性から離れると、一緒にやってきた男性隊員の一人が倒れていた男性に、大丈夫ですか?と声をかけながら、体を起こすのを手助けし、別の一人が、一体何があったんですか?とシエラに声をかけてきた。
「あぁ、実は」
シエラが事の成り行きを説明しようとすると、起き上がった男性が大声でその女を捕まえろ!と叫びだした。
「…………」
思わず漏れそうになったため息をなんとか飲み込み、シエラは喚く男性を無視して、声をかけてきた男性に事の成り行きを説明した。
「なるほど」
「たぶん、向こうの方の話と食い違うんじゃないかと思うんですが、お店の方と、あと、その辺りにいる野次馬の方にも話を聞いていただければわかると思うので」
シエラがそう言って話を閉めると、目の前のウサギ耳を垂らした男性隊員は、ちらりとわめき散らしている男性を見た後、思いきり面倒くさいな、という表情を浮かべて、シエラの身分証などを確認し、もう行っていただいて大丈夫です、と伝えると、わめき散らしている男性の対応に苦慮している同僚の所へと移動して行った。
「あ、あの」
移動するか、とくるりと向きを変えたところで、姉妹の妹の方と思われる少女が、シエラに声をかけてきた。
「助けていただき、ありがとうございました!」
深々と頭を下げる彼女に、シエラは慌てて気にしないでください!と頭を上げさせる。
「むしろ、私がうっかり変な反応したせいで、危うく値下げさせちゃうところだったと思いますし。うまく穏便に済ませられなくてごめんなさい」
ポリポリと頬を掻きながら言うと、彼女はふるふると頭を振った。
「いえ、あそこでお姉さんが出てきてくれなければ、たぶんまだ、ずっと居座られてたと思いますし、私やお姉ちゃんじゃ、あんなふうに投げ飛ばせなかったですから」
「いや、投げ飛ばさないですむのが一番ですからね?」
えい、と投げ飛ばす真似をする彼女に、シエラは慌てて訂正を入れる。
「まぁでも、世の中何があるか分かりませんし、簡単な護身の技とかは身につけておいて損はないと思いますので、興味があるなら、一度ギルドで講習受けられないか、聞いてみることをお勧めします」
(講習をこなした件数も、評価に直結するから、受けてもらえるとありがたいんだよねー)
にっこりと笑ってさりげなく営業をかけることを忘れない。
「え、ギルドでそんな講習があるんですか!?」
「ありますよー。自衛って大事ですからね!あぁ、でも、ちょっとこっちのギルドでの講習にかかる金額はわからないので、窓口で確認してもらわないといけないんですが、良かったら一度、問い合わせしてみてくださいね」
知らなかった、と驚く少女に、シエラが答えると、彼女は今度聞いてみます!と目を輝かせて言った。
「あの、ちょっといいかな?」
少女と話をしていると、姉の方と話していた女性隊員が声をかけてきた。
「私はこの街の警備隊に所属しているカミラ。少し話を聞かせてもらいたいんだけど」
「あ、では、私はお姉ちゃんのところに行きますね。お姉さん、本当にありがとうございました!」
少女はぺこりとお辞儀をすると、姉の方へと駆けて行った。
「さっき、セオが話を聞いたと思うんだけど、ちょっと彼、あっちの対応から抜けられそうにないから、申し訳ないんだけど、もう一度私にも何があったか聞かせてもらってもいいかな?」
カミラがちらりとわめき散らしている男性を宥めている二人を見て言う。
「はい、かまいません」
シエラはそう答えて頷くと、セオに伝えたのと同じように、事の経緯を順を追って説明していった。
「と、言う感じです」
「ありがとう。うん、彼女から聞いた内容と違いもないし、間違いないかな。あ、念のため、お名前、聞いてもいい?セオが聞いたとは思うんだけど、念のため。あと、もし今、ステイタスボードを持ってたら、それも確認をさせてほしいんだけど」
カミラに言われて、シエラは頷くと、名前を名乗りながら、ウエストポーチからステイタスボードを取り出して渡した。
「名前は、シエラさんで間違いなし……あ、モルトのギルドで働いてるんだ。こっちには休暇で?」
カミラが、賞罰欄に何も記載がないことを確認して、ステイタスボードをシエラに返しながら聞いてきたので、シエラはあぁ、と首を横に振った。
「いえ、実はこっちには研修で来てるんです。今日は休暇だったので、せっかくだから、街を見てみようと思って出歩いてたところだったんです」
「あ、そうだったんだ。せっかくの休暇を台無しにしちゃって、ごめんね?」
カミラが両手を合わせて頭を下げてきたので、シエラは気にしないでください、と苦笑した。
「そもそも、カミラさんのせいじゃありませんから」
そう言ってシエラは、セオ達に連れられてどこかへ移動していっている男性を見ながら、すべてはあいつのせいだしね、と心の中で呟く。
「そうだ、ここを少し行ったところにパン屋があるんだけど、そろそろ午後の焼きたてが出来上がるころだと思うから、良かったら行ってみて?サクサクして結構変わった食感だけど、妙に癖になるし、味もすっごく美味しいからお勧めなんだ!」
カミラの言葉に、シエラは目を輝かせる。
「わぁ!ありがとうございます!行ってみることにします!」
「うん、それじゃ、良い一日を!」
カミラはそう言って、セオ達の後を追いかけていく。
「シエラはほんとに、歩くとトラブルに巻き込まれますね」
大人しくしていたサクラが、ぽつりとつぶやく。
「……いやいや、好きで巻き込まれてるわけじゃないし、そもそも、巻き込まれたくないんだけどね?」
大きく伸びをすると、シエラはさっさとこのことは忘れよう、と、サクラを連れて、カミラに教えてもらったパン屋を探しに移動したのだった。
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