お休みの時は、何をしますか?
「誠に、誠に、大変、たいっへん!申し訳ございませんでした!」
正座の姿勢から、床にと両手をつけて深々と頭を下げて、シエラは使用人たちに謝罪していた。
「あ、あの。大丈夫ですから!」
「はい、頭を上げてください!」
「気にすることなどないですから!」
シエラを起こしにやってきていたメイド3人娘たちは、困り果てた表情で何とかシエラを立たせようと、必死で気にしなくていい、と伝えるが、自分の失態に対する羞恥心と、相手に迷惑をかけてしまった自己嫌悪から、どうしても頭を上げることができずにいた。
「いえ、本当に……あんな遅い時間に戻ってきておきながら、自分の従魔の食事の用意をするのを忘れて、皆さまのお手を煩わせるだなんて……」
「いつまでやっているんだ?逆に困らせていると思うんだが」
やれやれ、といった風にコーカスがシエラに言う。彼女はハッと我に返り、顔を上げて彼女たちを見ると、激しく同意しているかのように、コクコクと頷きながら、本当に、気にしないでください、と三人は顔を見合わせながら、ね?と言って、シエラをじっと見つめてきた。
「うぅ……本当にすいませんでした。このようなことの無いよう、次からは気をつけますので……」
シエラが肩を落としながらそう言うと、彼女たちは気にしなくて大丈夫ですので!と言いながら、あっという間にシエラの着ていた寝間着からワンピースに着せ替えて、食事の用意ができておりますので、と、食堂へと連れて行った。
「お、シエラ。やっと起きてきたのか?」
食堂に入ると、ちょうど食事を終えて席を立とうとしていたエディに出くわした。
「……はい、少し前に起きたところデス」
彼が宿として家を提供してくれている以上、居るのは当然なのだが、今は顔を合わせたくなかった、と、シエラは思わず顔を背ける。
「あ、シエラ。俺、今日はエディについて学園に行ってくるから」
「え!?」
「必要な書類とかは、全部セバスチャンが用意してくれてるらしいから、確認よろしくな?」
「今日は代休で休みになるんだろ?だから、トーカスについてきてもらって、ちょっと気にしてもらった方がいい人間を覚えてもらうことにしたんだよ。あぁ、それから、こっちにいる間、毎度毎度申請手続きしてたら手間だろうから、アオに相談して、トーカスが自由に動ける書類内容にしてもらっておいたから、シエラが後はサインしてくれれば問題ないそうだぞ」
「こちらがその書類になりますので、目を通していただけますか」
あれこれいきなり言われて、若干パニックになっているシエラに、1枚の書類を執事のセバスチャンが差し出してきた。シエラは反射的にそれを受け取ると、内容を確認するが、その内容に思わず絶句する。
「な、ナニコレ!?」
書類の内容を簡単に要約すると、
・王都にいる間、シエラの後見としてボルトン家が付く
・コーカス、トーカス、サクラ、ラピの4羽はボルトン家の人間に限り、主人が傍にいなくても、連れ歩くことが可能
・従魔が原因で何らかの損害等が発生した場合、責任はすべてボルトン家で持つ
というような内容のもので『シエラのバックには公爵家が付いてるからね(だから彼女の従魔を公爵家の人間が連れててもおかしくないんだよ)』ということだった。
「いやいやいやいや!こ、これは流石にちょっと!」
ただの一庶民がこんなのにサインできるわけないじゃないか!と、抗議しようとしたのだが。
「シエラの従魔なら、そんな故意にものを破壊したり、人を傷つけたりしないだろ?」
「それに、これがあれば、トーカスが一緒に行動してもおかしくないしね」
「シエラも毎度、俺がエディについてくたんびに申請上げるの面倒だろ?今回みたいに、急に決まったりしたときについていけない、ってなったらそれこそ困るしな」
エディとコーカス、そして側にいたハルまで説得しようと畳みかけるようにシエラに言う。
「この内容に関しては、ボルトン家当主、および、中央ギルドマスターのアオ様双方に、問題がないかどうかを確認いただいており、了承も得ております」
セバスチャンが指さす先には、確かにボルトン家当主であるショーン・ボルトンと、中央ギルドのギルドマスターのアオ・ハルライド2名の署名がすでに記載されていた。
「シエラ様のサインをここにいただければ、こちらの書面については契約完了となります」
そう言って、セバスチャンはシエラにペンを差し出した。
「…………はぁ、わかりました」
元々、こちらに来た理由の一つである討伐訓練に、トーカスを付けることになっていたので、そのための書類作成を代わりにやってもらって、後はサインするだけでいいところまでお膳立てしてもらえたのだ、とシエラは自分を納得させると、ペンを取り、書類3枚すべてにサインを行った。
「ありがとうございます。それでは、こちらは私の方でギルドへ提出しておきますので、控えの1枚はまた後日お渡しいたしますね」
「わかりました」
至れり尽くせりだな、なんてことを思いつつ、シエラは小さく頭を下げた。
「よし、それじゃ書類もそろったことだし、そろそろ行くぞ、トーカス!」
「あぁ、わかった。それじゃ、そろそろ出発の時間らしいから、俺はエディと一緒に学園に行ってくるわ!ここにはジェルマもいないんだし、シエラはちゃんと、ゆっくり休めよー?」
まるでこれからデートにでも出かけるかのように、うきうきとした表情でエディ達は食堂を出て行った。シエラはその後ろ姿を見つめながら、小さく乾いた笑いを浮かべる。
「それで、シエラ?今日はどうするんだ?」
コーカスに言われて、シエラはうーん、と唸った。
「代休につられて、昨日残業したものの、なんにも考えてなかったんだよねー」
お休みが欲しくないわけではないのだが、急にお休みがもらえたとなると、何をしたらいいのかがわからず、シエラは腕を組んで悩む。
「何も決まっていないのなら、この周辺で狩りで」
「あ、買い物しよう!」
コーカスがきらりと目を光らせて、狩りを提案しようとしたところを、すかさずシエラが遮った。
「王都にしかない魔道具とかもあるはずだし、今日は一日ショッピング!決定!」
シエラがそう言うと、コーカスは大きなため息をついて、仕方がない、と頷く。
「ならば、我は留守番でもしておくことにする。……そうだ、久々に、ラピに稽古でもつけるか。シエラの護衛はサクラでいいな?」
「「かしこまりました」」
こうして、それぞれの今日の予定が決まった。
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