イッツ・残業タイム-4
「それにしても、こいつを使った奴は一体何を考えてたんだろうな」
トーカスは道すがら出てくるスライムたちを倒しながら、うんざりしたような声で呟いた。
「ほんとにね……いくら何でも、こんな小さな迷宮で使うような代物じゃないんだけど」
時々遭遇するクイーンからも集積玉が出てきており、迷宮の半分まで戻ってきたところで、すでにシエラの手元には20個ほどの集積玉が集まっていた。
「普通、こういうのって、大量の魔物なんかを計画立てて一斉に討伐したりするときに使ったりするもので、こんな小さな迷宮で何個も使うようなものじゃないのに」
それに、この集積玉は普通に一般人が作ろうと思って作れるものではなく、職人がきちんと設備が整った場所で安全を確保して作らないといけないという指定がされている代物で、うっかり作成中に呼び寄せてしまう場合があるため、国に届け出なしでこいつを作成した場合、場合によっては捕まることもあるようなものなのだ。
「それなりにお金もかかるから、まず、普通の冒険者たちが、こんな小さな迷宮で使うことは考えられないし……これを置いていった人は一体、何の目的があって、こんなことしたんだろ」
「さぁ……まぁ、そんなよくわかんねーことするような奴の思考回路なんて、たぶん、どんだけ考えても俺らにはわからねーし、理解できないんじゃね?あ、また出てきた」
トーカスがまた、クイーンを一体倒して出てきた集積玉をシエラにほい、と渡す。
「とりあえず、半分まで戻ってきたけど、結局、まだ3人の誰も見つかってないんだよね」
駆け込んできた冒険者の仲間であるバイザー、そして、迷宮に入る時に、まだ出てきていないと聞いたユメとサント。入れ違いですでに2人は迷宮を出ている、ということであればいいのだが、ここまで捜索しても遭遇しないという時点で、嫌な予感しかしなかった。
「元々、ここに出てくるって言われてた魔物のランクを考えたら、そんな重装備はしてきてないだろうし。そんな状態で、こんなスライムクイーンや特殊個体なんかに出会ったりしたら、いくらCランク冒険者でも危険だろうし……生きててくれるといいんだけど」
「まぁまぁ。ぶっちゃけ、だいぶ時間が経ってるし、可能性は低いと思うけど、その可能性にかけて進むしかねーって」
小さくため息をついていたシエラは、トーカスに励まされて、そうだね、と頷いた。
「それにしても、こんなに大量に使って、何したかったんだろうな?魔物のスタンピードでも起こしたかった、とか?」
ハハハ、と笑ってトーカスが言うと、シエラはまさか、と乾いた笑いを浮かべる。
「確かに、最初その可能性もちょっと頭をよぎりはしたんだけど、こんな小さな迷宮でコレを使ってスタンピードを起こしても、たかが知れてるし、それならもっと別の迷宮でやった方がこんなこと言うのもあれだけど、効率がもっといいはずなのよ」
迷宮で魔物が想定外に増えた為、その魔物が外にあふれ出てきてしまい、それがスタンピードとなって近隣の村や町が被害にあった、という出来事が、過去にも発生したことはある。
「あんまり冒険者がいない村や町の近くならまだしも、スプマンテ迷宮みたいに、王都に近くてそもそも冒険者もたくさんいれば、スタンピードが起こったとしてもすぐに対処できるわけじゃない?正直、どういうつもりでそれをやろうとしたのかはわかんないけど、少なくとも人為的にもしスタンピードを起こすぐらいだから、きっと何か良くない思惑があってのことだとは思うけど、すぐに解決されるようなスタンピードにこんな高価なものを大量に使っても、思惑通りのことができる可能性なんて限りなくゼロに近いと思うんだよね」
シエラが言うと、なるほどな、とコーカスが頷いた。
「それならもっと別の高ランクの迷宮でやった方が、被害やらなんやらが大きくなる可能性が高いから、そっちの方が効率が良い、というわけか」
コーカスの言葉に、シエラはこくこくと頷いた。
「まぁ、どういう意図でこれをこんなところに置いてるのかがわかんないから、何とも言えないけどね。少なくとも、大きな被害を出したいってことであれば、この迷宮を選択するのはどう考えても効率が悪いとしか言いようがないんだよね」
そうこう話をしながら5階層を歩き回ってみたが、やはり冒険者3名の痕跡を見つけられないまま、4階、3階と進み、とうとう2階まで戻ってきた。
「結局、探してるやつらはどこにもいないし、出てくる魔物もずっとスライムばっかりだな……」
うんざりしてきた、といった風にトーカスが言うと、シエラは困った、という表情を浮かべる。
「なんでこんなにスライムばっかり出てくるんだろ。というか、見たことない形したスライムもいるし」
スライムと言えば、丸くてぽよぽした見た目なのだが、なぜかアメーバのように、まるで液体がそのまま動いているかのような状態のスライムを、シエラは時々目撃していた。
「はぐれみたいな形してるやつ、あんまりこっちでは見かけないのか?」
トーカスに言われて、シエラは首を傾げた。
「さっきから言ってる、そのはぐれってちょっと何かわからないんだけど、こんな形したスライムは初めて見た。なんか、鑑定したら、コーカスが教えてくれた、ゼリースライムって種族名が出てきたから、スライムの一種なんだろうけど……こんな形のスライムの目撃情報なんて聞いたことない」
また、ギルドで未確認の情報が出てきたなんて、と、シエラは大きくため息をついた。
「ゼリースライム自体は攻撃があまり得意ではないからな、そこまでの脅威はない。が、こいつらの消化能力は凄まじくてな。手あたり次第、奴らが食べ物だと認識したものはどんどん吸収して消化していくから、見つけたらすぐに狩っておかないと、最悪、寝ている間に消化されてしまう、なんてこともあるくらいだからな」
「……しょう、か?」
まさか、とコーカスの言葉にシエラは顔をひきつらせた。
「ギルドに駆け込んできた奴の感じからして、少なくとも冒険者の1名はここで何かがあったのは事実だろうが、ゼリースライムがもし近くにいたのだとしたら、息があったかどうかは別として、最悪、すべて消化されていてもおかしくはない」
「うそん……」
コーカスの言葉に、シエラは思わず膝をつく。
「ち、ちょっと待って、そうなったらもう、3人がどうなったか、確認のしようがないってことじゃ……」
シエラがそう呟いてコーカスを見ると、そうだな、とこくんと彼は頷いた。
「一体、ほんとに、何がどうなってんのよ……」
シエラはガシガシとまた頭を掻く。
「とにかく、こことこの上と、しっかりと確認しながら出てみようぜ。もしかしたら、案外あっさり、探してたやつらが先に出てました、なんてオチかもしれねーじゃん」
トーカスがポンポンとシエラの肩を叩くと、シエラはそうだね、と望みは薄いけど、なんて頭に浮かんできたことをフルフルと追い払い、頬をパンパン!と叩いて自分を奮い立たせて、諦めずに、行方不明の3名を探しながら、地上へと向かって行った。
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