避けたい気持ちと下げたい気持ち
更新遅くなりすみません!
「それじゃ、説明してもらいましょうか。なんでこんなところに連れてこられているのか」
シエラが腕を組み、鬼の形相で仁王立ちして、目の前で(なぜか)床に正座して小さく縮こまっている男性を睨みつけながら、低い声で問いただす。
「いや、えっと、その……」
これまでの人生で、そして多分、これからの人生でもきっと、こんな姿を見ることはないだろうと、従者たちは皆、笑いを必死でこらえながら、しどろもどろになる男性を見つめていた。
「まぁまぁ、いいじゃん。公爵邸なんて、滅多にこれねーんだし」
シエラ達を気にすることなく、用意されたご飯をガツガツと食べながらトーカスが言う。
「シエラもほら、せっかく用意してくれた飯が冷めるぜ?あったかいうちに食べた方が絶対うまいって」
「そうそう。今回は完全に、連絡も事前確認もなくやらかしたエディ様が悪いのはわかってるけど、ほら、飯に罪はないんだし」
そう言ってシエラの肩をポンポンと叩いて、ほらほら、と、エディの後ろに控えていたニュークがシエラを椅子の方へと連れて行く。
「ほら、一応、依頼主だし、依頼の打ち合わせのこととかも考えると、ここに居てもらえた方が俺たちとしても助かる部分があるんだよ」
椅子を引きながら、苦笑しつつフォローを入れるニュークに、シエラははぁ、とため息をつきながら、促されるままに椅子に座った。
「……ニュークさんの言うことも一理あるとは思います。ただ、一応、仮にも公爵子息ですよ?考えが足りてないとしか思えません」
テーブルに並べられているナイフとフォークに手を伸ばし、シエラは諦めの表情を浮かべながら、お皿に盛りつけられているお肉を切って、口に運んだ。
「……くそぅ、美味い」
思わず顔が綻ぶシエラ。
公爵邸で出てくる料理なので、美味しくて当たり前といえば当たり前なのだが、イライラしていた気持ちが若干薄まるのが気に食わないシエラは、慌てて眉間に皺を寄せて、流されまい!と次の一口を食べるかどうするかを悩んでいると、シエラのさらにのっていた残りのお肉を、トーカスが食わないのか?と言ってひょいっと食べた。
「あ、ちょっと!」
「お、肉も思ったよりいけるな」
トーカスが目をキラリと輝かせながら言う。
「え、ちょ、人用に味付けされたものだけど、食べて大丈夫なの?」
一般的に、犬や猫、牛や馬などに、人用に調理されたものを食べさせると、具合が悪くなることがあるため、避けた方がいい、と言われているので、少し心配になる。
(いや、まぁ、一般的な動物と、魔物や魔獣は違うわけだし、大丈夫なの、か……?)
普段、生の野菜しかあげていなかったシエラが少し焦ったように聞くも、問題ない、とケロッとした様子で、コーカスが答えるので、ホッと胸を撫でおろす。
「そ、そう?ならいいんだけど」
正直、今回のこれで味をしめて、今後調理されたものが食べたい、と言われたらどうしようかと、内心ドキドキしつつ、下手に突かないでおこう、と、シエラは他のお皿に手を付ける。
「まぁとりあえず、簡単に説明をすると、来週から始まる討伐訓練の打ち合わせをするのに、時間が足らない部分を補える、という点、それから、ギルド側でも職員1人とはいえ、丸っと一か月の滞在費の削減につながる、という点で、両者それぞれに都合が良い、と判断された結果、今回、研修で王都にいる間、シエラちゃんはここに滞在することが決定したんだよ」
「ぶふぉ!!!!」
「ケェェェェ!!!」
「うぉわ!!!!」
口に含んでいたスープが変なところに入って思わず吹き出すシエラ。向かいで食事をしていたコーカスがもろに直撃を受け、シエラの隣にいたトーカスが驚いて思わず叫ぶ。
「お、おい、シエラ……?」
噴き出したスープの残りがつぅっと口の端から零れ落ちる。
状況を目の当たりにしたメイドたちが、ササっとシエラの横に来て、一人はシエラの口をナフキンで綺麗に拭き、もう二人は目にもとまらぬ速さでササっとテーブルの上を元通りに片づけ、後から駆け付けた年配の執事はコーカスに魔法をかけて、あっという間に体を綺麗にして、その場を去っていった。
いつものシエラなら、確実に恐縮したり、お礼を言ったりするはずなのだが、脳がフリーズしてしまっていて、全く動かない。
トーカスが声をかけても反応がなく、ひらひらと目の前で翼を行ったり来たりさせていると、突然、ガシッとシエラがその翼を掴み、まるで魔王でも降臨したかのような雰囲気が当たりを包んだ。
「待って。エディ様がトーカスと食事がしたいから、強制的に疲れているところを連れてこられたのだと思ってたんですけど、今、なんておっしゃいました……?」
「「「ひぃ!!!」」」
エディ、コーカス、トーカスの悲鳴がハモる。
「うん?だからね、シエラちゃんの滞在先は、ここ、ボルトン公爵家だよ?」
そんなシエラを楽しそうに見つめながら、ニコニコと答えるニュークに、シエラは思わずダン!とテーブルに拳を叩きつけた。
「一介の、それも平民の、ギルドの一職員に、一か月もの間、滞在先として公爵家を提供するって……馬鹿なんですか!?」
「痛い痛い痛い痛い!翼がもげる!!!」
思わずトーカスの翼を握っていた手の方にも力が入ったせいで、トーカスが泣きながら叫んだ。
シエラがあぁ、ごめん、と手を離すと、トーカスは慌ててその場から離れようとしたが、シエラの恐怖に耐えられなくなったエディに、そのまま掴まれて「助けてくれ!」と懇願される。
「百万歩譲って、今日1日、夕食に呼ばれただけなら、以前護衛したトーカスとの食事に、私が同行しただけと言えますが、一か月も滞在となったら話が変わってくるってことくらい、わかりますよね!?そもそも、貴族様の家に平民が簡単に出入りなんて普通はできないもんなのに、見たことない顔の奴が急に出入りするようになったら、噂になるでしょうが!しかも、エディ様、婚約者の方がいらっしゃいますよね!?その気がお互いにまっっっっったくないって言っても、相手の方は気分悪いでしょうし、誤解されたらどうするんですか!ていうか、こないだ今回の経緯をお話してくださったときに、すでに誤解されてるらしいことをちらっとこぼしてましたよね!?なんで火に油を注ぐようなことをするんですか!」
エディに比べて爵位が落ちるとはいえ、相手は伯爵家のご令嬢である。
飛ばそうと思えば、シエラの首くらい、簡単に(物理的に)飛ばせるだけの力はある。
「私はまだ、死にたくありません!!」
ダン!とテーブルを叩くシエラに、顔面蒼白になったエディはトーカスに何とかしてくれ、と潤んだ瞳で助けを求めてくるので、仕方ないな、とエディの肩をポンと叩いた。
「なぁ、俺たちって今回、どういう名目で屋敷に滞在するんだ?まさか、ギルド職員への宿の提供ってだけじゃねーんだろ?」
「あ、あぁ、はい。今回の名目は、依頼の打ち合わせの名目の他に、エディ様へのテイムに関する講師、という名目が含まれています」
トーカスに聞かれて、慌てて側に控えていたハルが答える。
「……………………テイムに関する講師??」
言葉の意味が全く分からず、シエラは首を傾げる。
「はい。テイムに関する技術や詳細は全く分かっていないというのが現状ですが、現在、シエラさんはかなり高位の魔物や魔獣をテイムされているので、従魔術を学ばれているエディ様の特別講師も兼任、という名目があります」
「…………え、聞いてないんですけど」
初耳ですが、と、シエラが目を丸くする。
「確かに、未婚の女性が公爵家に一か月も滞在する理由として前者だけでは流石に無理がある。だが、事実、シエラがこちらに来ている名目が研修となっている以上、実際の研修はしないといけないだろう?」
「当たり前ですよ」
何言ってるんですか、という風に答えるシエラ。
普通に会話ができる状態に、シエラが落ち着いたことに、エディが少しほっとした様子を見せながら続ける。
「だが、今回の本命である討伐訓練への参加の件だが、そもそも、シエラは討伐訓練がどんなものか、同行者がどういうことをするのか、詳しくは知らないだろう?」
「まぁ……確かにそうですね」
簡単な説明は受けているが、実際にここまで大規模な討伐訓練(しかも相手が学生)の同行は、今回が初めてだ。
「しかも、今回はそれに暗殺情報まで加わってくる。そうなると、本題に対する打ち合わせを、軽々しく外ですることもできないし、それに何より、圧倒的に打ち合わせする時間がないんだ」
「う…………」
エディの言葉に、シエラは確かに、と言葉に詰まる。
「どこか安全な場所を確保した前提の話にはなるが、仕事が終わった後にそこまで来て、さらに打ち合わせするか?その後帰って、食事をして、寝てって、しんどくないか?」
=残業確定するよ?
という声が聞こえた気がしたシエラは、無理!と思わず身震いしながら叫んだ。
「それに、もうすでにこのことはアオの承認も得ている。ギルドとしても、やはり長期滞在時の滞在場所や滞在費は思ったよりかかるから、研修に当たって、その点は見直しが必要だ、と言っていたぞ」
「ぐぬぬ……」
経費削減はいつでもどこでも言われることなので、一雇われ職員としては、滞在場所を確保してくれている以上(しかも、安宿に比べて安心安全、清潔快適)文句は言えない。
「……わかりました」
できればこの事態は避けたかったが、避ける方法は思い浮かばず、自腹で一か月、宿生活は流石に懐に大ダメージの為、シエラは諦めて、この状況を受け入れることにしたのだった。
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