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初日-2

「まずは、明日は受付業務の対応をお願いすることになると思いますが、何か心配なこととか、気になる点はありますか?」


昼食を終えた後、残っていた部署を見て簡単な挨拶を済ませたシエラ達は、明日の業務予定場所である受付の側へと戻ってきていた。まだ陽も高いうちではあるのだが、すでに戻ってきている冒険者たちがいるようで、何人かの職員が対応をしているのが見えた。


「そうですね、明日私は、特にまだ担当が決まっていない冒険者の方たちの受付対応をする認識で問題ないですか?」


大きな街では、ある程度のランクに到達した冒険者に対して、担当の職員というのがつく仕組みになっている。専属として付くことで、職員側は冒険者の細かい性格や事情などを把握できるようになり、無理のない依頼を渡しやすくできるというメリットがあり、また、冒険者側も、きちんと自分が信頼できる相手に、仕事の斡旋をしてもらえるというメリットがあるからだ。


「そうですね、そちらをお願いすることになるかと思います。……まぁ、うちの場合は少し特殊で、担当職員をつけているのはBランク以上からなので、ほとんどが担当無しの冒険者になるんです」


「え、そうなんですか?」


シャオの言葉に、シエラは少し驚いた表情になる。


「普通は、Dランクくらいから冒険者に対しての担当を検討し始めて、Cランクになるころには、担当がついていると思うんですが、うちの場合は、まず、うちのギルドに所属していない冒険者の方が半数以上なんですよ」


シャオによると、中央ギルドに来る冒険者は、ほとんどの人間が他の街で冒険者になった人間たちで、所属変更なしで、数か月滞在した後、またいなくなることがほとんどだという。


「モルトの場合は迷宮があるので、長く腰を据える人も多いと思うんですが、うちの場合は長く定住というよりは、腕試しの為に来る、という人が多いんで、高ランカーの確保の方に力を入れているんです」


「腕試し?」


シャオの言葉に、トーカスが首を傾げる。


「この辺にも迷宮みたいなのがあるのか?」


聞かれてシャオはうーん、と少し首を傾けながら、それに近いですね、と答えた。


「この近くに森があるのはご存じだと思うのですが、この森、なぜか時々、迷宮ができるんですよ」


「「なに!?」」


シャオの言葉に、トーカスだけでなく、コーカスも反応した。


「あぁ、そういえば時々、掲示板にのってますね。ここ数年は出てないって話だったかと思うんですが」


シエラが思い出した、と手をポンと叩いて聞く。


「はい、短いときは半年に1つできることもあるんですけど、ここ2・3年は迷宮ができていた、という報告は上がってきていないですね。ただ、いつできるかわからないものでもあるので、冒険者の方々は、休息がてら、王都に遊びに来て、あわよくば、迷宮ができればそこで腕試しをして、名前を上げたい、という方が今でも多いんですよ」


迷宮といっても様々で、モルトのように巨大で、何十階と攻略を進めているにもかかわらず、いまだに最下層に到達していない、というような迷宮もあれば、スライムしか湧いて出てこない、1・2階層しかない小さく、下手をすれば、子供の訓練に使用されているような迷宮まで、様々なものが存在している。


「トーリッシュの近辺にできる迷宮にも、もちろん当たり外れはあるんですが、割と当たりであることが多いみたいで、一攫千金を夢見たり、名前を後世に残したい!という思いで、やってくる冒険者の方も少なくないんです」


シャオの言葉に、トーカスが思いきり目を輝かせている(ように見えた)ので、シエラは、行かないからね、と釘をさす。


「今はもう、最下層まで攻略されたものばかりですし、民間の方に管理も委託できるくらいのものも多いので、実力確認にと、やってこられる方も増えてきているので、明日の受付に関しては、これ関連がメインになるのではないかと思います」


シャオがそんなやり取りを見て苦笑しながら、付け加えた。


「わかりました。では、残りの時間は、迷宮の資料を確認させていただくのにあててもいいですか?」


シエラが聞くと、シャオはにっこりと笑って頷いた。


「ええ、構いません。ギルドのご案内も、各部署への顔出しも終わってますので、定時まではゆっくりとしていてください」


「ありがとうございます!」

(ひゃっほぅ!!!!これは定時上りコースじゃーん!!)


シエラは、心の中で思いきりガッツポーズを浮かべながらも、にこっと笑みを浮かべるにとどめて、お礼を言いながら頭を小さく下げた。


「では、資料をお持ちしますので、そちらの空いている場所をお使いください」


「はい、ありがとうございます」


上機嫌でうっかり鼻歌でも歌いそうになるのをぐっとこらえながら、シエラはシャオが資料を持ってきてくれるのを椅子に座って待つ。


「……定時上りが出来そうで、浮かれておるな」


「ギク」


コーカスが机の上にとんと上がり、ジト目でシエラを見てくる。

別に悪いことをしているわけでもないのに、思わず目をそらすシエラ。


「まぁ、確かに毎日遅くまで仕事をしているのだし、たまにはこういう日があってもいいのかもしれんな」


「でしょう!?そうでしょう!?この後に待ってる仕事のことを考えたら、こういうご褒美の日があってもいいと、私は思うのよ!」


目を輝かせながら言うシエラに、トーカスが小さくため息をつきながら、抑えて抑えて、とシエラの肩に乗って言う。


「……あんまし期待しない方がいいと思うぜ?そういうの、フラグって言うんだからな?」


ちょっと何言ってるかわからない、とシエラが顔を顰めていると、お待たせしました、とシャオが資料を持ってきてくれた。


「えっと…………これ、全部、ですか……?」


持ってきたのは分厚い辞書のようなもの10冊ほどの本だった。


「そうですね、これが今、中央ギルドの方で管理している迷宮が載っている資料になります」


にっこりと笑うシャオに、シエラは顔をひきつらせる。

その表情を見て、あぁ、とシャオは慌てて言葉を付け加えた


「よく冒険者の方が行かれるのは、この付箋がつけてある迷宮になるので、ここさえ押さえておいていただければ問題ないかと思います。全部見る必要はないので、心配しなくて大丈夫ですよ」


その言葉に、シエラはほっと胸を撫でおろす。


「それでは、通常業務に戻りますので、また定時になったら声をかけに来ますね」


「ありがとうございます」


シャオがいなくなるのを見届けると、シエラは資料を手に取りながら、定時、と一人ニタニタと笑いながら呟く。


「……どんどんフラグが立っていく」


そんなシエラを、トーカスは心配そうに見つめながら、小さな声でぼそっと呟いた。

いつもお読みいただきありがとうございます。

誤字脱字につきましても、適宜修正いたします。いつもご報告いただきありがとうございます。

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