初日-1
午前中、シャオの案内で中央ギルドの中を一通り、挨拶をしながら見て回ったシエラは、彼に連れられて、職員食堂で少し早めのお昼を食べていた。
「中央ギルドには食堂が併設されてるんですね、羨ましい」
シエラはお皿にのっていた丸くて少し硬いパンをちぎると、スープに浸して口の中にひょいと放り込んだ。隣でコーカス達も山のように積まれた野菜盛をむしゃむしゃと一心不乱に食べている。
「……モルトのギルドは隣に食堂があるんですけど、一般の方が営業されているお店で、やっぱりお昼時はお店が混雑してて、従魔連れてると、迷惑になる気がして利用がしづらいんですよね。ここみたいに、ギルド内にあれば、こうやって気兼ねなく連れて来て食べられるんですけど。それにやっぱり、どうしても職員向けの割引価格になってるここより、値段も高くて、懐事情的にも、ほんとに羨ましい……」
職員向け、ということで作られているギルド内の食堂なので、周辺のお店の価格に比べると、料金設定が良心的なものになっていて、モルトの定食屋と比べて、量は同じくらいだが、値段は2割ほど安かったのだ。
「コーカス達にもお給料が出てるんで、大丈夫になってきてはいるんですけど、まぁ、今後、食費以外にも何かかかるってなってきたら、話は変わってきちゃいますし、やっぱり、安いに越したことはないじゃないですか」
なくなったお皿を嘴で持ち上げて、おかわり!と叫ぶトーカスをみて、シエラは小さくため息をついた。
「あはは、やっぱり従魔がいると、そう言う悩みが出てくるんですね」
苦笑するシャオに、笑い事じゃないですよー、とシエラは項垂れながら答える。
「ところでシエラさん、午前中、一通り回ってみてどうでした?」
シャオは食べ終わったお皿をテーブルの隅に避けると、食後に用意されたお茶を飲みながら、シエラに聞く。
「そうですね、とにかく、ギルド自体が大きくてびっくりしました!正直、覚えるまでは大変だろうな、とは思ったんですけど、羨ましくもありますね。小さいと移動は楽ですけど、やっぱりいろいろと弊害もありますから。特に、解体場なんかはほんと、うちの職員がここを見たら絶句するかもしれませんね」
モルトのギルドも、国内にあるギルドの解体場の中では大きい方ではあるのだが、ここに比べるとやはりかなり狭く思えた。
「あぁ、解体場はそうですね。数年前にようやく予算が下りて、念願だった冷凍保管庫と解凍保管場所が出来ましたから」
「そうですよねー。実際にちょっと拝見させていただいて……、はぁ、ほんとに羨ましい」
基本的には受け取った素材はすぐに解体を行うのだが、大型のギルドになればなるほど、持ち込まれる素材の量が増えてくるため、その分、どうしても時間がかかってしまう。預かった素材をギルドでダメにするわけにはもちろんいかないので、解体ができるようになるまで、氷漬けにした状態で、冷凍保管庫で保管をする、ということなのだが、冷凍保管庫を安定して動かすためにはそれなりの質と大きさの魔石が必要になるため、王都くらいでしか運用ができず、基本は各ギルドで魔法が使用できる職員が、一時的に氷魔法で氷漬けにし、とにかく寝る間を惜しんで解体を進める、という方法をどこもとっている状況なのだった。
「マジックバッグとかで保存はできないのか?」
おかわり3杯目を完食したトーカスが、上向きになってお腹をさすりながら聞いてくる。
「……マジックバッグで保存できる量なんてたかが知れてるし、時間停止機能が付いた超大容量のマジックバッグなんて、下手したら戦争が起きるわよ」
コッカトリスとは思えない姿をさらしているトーカスに、若干顔を引きつらせながらシエラが答えると、たかがそんなもので?と少し驚いたように聞き返してくるので、たかがなんて代物じゃないから、とシエラは返した。
「あのね、マジックバッグの性能って、見た目じゃわからないのよ。そんなすごいもん、もしあったとしたら、よからぬものをそれでどんどん持ち込めちゃうでしょ」
「あー……人間ってアホだからなー……」
「そうよ、人間は力を持っちゃいけない種族なのよ」
残っていたスープを、パンで綺麗に拭って、最後の一口を頬張り、美味しかったぁ、とシエラは満足そうに手を合わせた。
「……噂には聞いてましたが、ほんとに普通の人間と変わらないように喋れるんですね」
シャオが少し驚いたように、トーカスを見ながら言った。
「そうですね、やっぱり知能が高いからなんだとは思うんですけど」
シエラがあはは、と苦笑しながら答えると、シャオは凄いなぁ、とトーカス達を見つめていた。
「なんだ?なんか聞きたいことでもあるのか?」
トーカスに聞かれて、シャオは慌てて首を振る。
「あ、いえ!従魔として連れられている魔物達を見たことはあるのですが、言葉を話したりここまでしっかりと会話しているのは見たことがなかったので」
見過ぎですいません、と謝るシャオに、かまわない、と今度はコーカスが答えた。
「まぁ、我も驚いている部分もあるのだ」
「「驚いている?」」
コーカスの言葉に、シャオだけでなく、シエラもどういう意味がわからず反応した。
「喋りはじめた辺りから、妙にトーカスが人種臭くなってきている気が」
「え!?人化してきてる!?」
トーカスが嬉々とした声をあげたため、シエラは顔を引き攣らせ、コーカスはこれだよ、と小さくため息をついた。
「……主人に似る、と言うことを、聞いたことが無いわけではないんだがな、ここまで変わるものなのか、と、正直、驚きを隠せないのだよ」
「……言いたいことはわかった」
「ははははは……」
シエラは確かにね、と遠い目をし、シャオはどう反応したらいいのかわからず、ただ、困った様な表情を浮かべて、乾いた笑いを漏らしたのだった。
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