研修初日
「……正直、依頼に関しては気乗りが全くしてなかったけど、そのおかげでゲートを使用させてもらえるのは助かったなー」
通ってきたゲートが閉じたのを確認すると、シエラは持っていた鞄を床に置いて、大きく伸びをする。
「こんな便利なもんがあるなら、エディもこれ使って帰ればよかったんじゃねーのか?」
トーカスが閉じたゲートの枠の部分を嘴でコツコツと軽く突きながら言うと、シエラはフルフルと小さく頭を横に振った。
「そんな簡単に使えないのよ、本来は。固定ゲートと違って、指定ゲートは事前申請と上の承認が必要で、設定も結構ややこしいのよね。今回は、重要度の高い案件の開始時期が近いってこともあるから、使用させてもらえたってだけで」
「公爵家の人間でもダメなのか?」
「……そんな、貴族だからって好き放題できるわけないでしょ。緊急事態とかなら話は別だけど。それに、馬車でいろんなところに寄るのも、お金を使ったりだとか、視察だったりだとか、それなりに理由がちゃんとあるのよ」
「あぁ、なるほどね」
「……随分とあっさり納得されるのですね」
シエラの言葉に素直にうんうんとトーカスが頷いていると、後ろから女性が会話に入ってきた。
「おはようございます。お迎えに上がるのが遅くなり、申し訳ございません」
ミュシカが小さく頭を下げると、シエラが手を振っていえいえ!と慌てて答える。
「さっそく、ギルドへご案内させていただきますね」
「よろしくお願いします」
シエラの言葉を聞くと、こちらです、とミュシカは微笑みながら歩き出し、扉を出て、ギルドへと向かった。
「あ、そうだ。研修期間中の日程についてなんですが」
シエラが声をかけると、ミュシカは小さく頷いて答える。
「はい、研修期間は1か月、本日はこれから、中央ギルドのメンバーへ朝礼時に紹介をさせていただきます。その後、簡単に中央ギルド内を案内させていただいた後、簡単に各部署の紹介をして終わる予定です。明日からは、事前にお伝えしていた通り、1週間は1日ごとに違う部署を体験していただきます。本来は、所属部署の仕事と、それに関連する部署での仕事を体験していただくのですが、シエラさんの場合は受付業務以外にもこなされている仕事があると伺っておりますので、お試し、ということで、一通り体験していただこうかと思っております。ここまでで何かご質問はございますか?」
「大丈夫です」
シエラの言葉を確認し、ミュシカは続ける。
「来週からは、ボルトン家からの依頼が開始となりますので、シエラさんには中央ギルドからの職員枠の監督官として、同行をしていただくことになります。そのころまでには、フィーヴさんもこちらに到着されている予定なんですよね?」
ミュシカが足を止めて振り返ってシエラに聞くと、シエラは、はい、と頷いた。
「フィーヴさんは、冒険者枠の監督官に含めさせていただいております。職員枠3名、冒険者枠5名で参加していただくことになり、期限は2週間となります。名目上は、こういった外部訓練への随行研修、という形を取っています。なかなか、この手の依頼については、小さなギルドになればなるほど、依頼発生件数は低いのですが、できないと困る業務の一つではあるので、特に不自然には思われないのでご安心ください。……あぁ、到着しました、こちらです」
ミュシカがこちらへどうぞ、と扉を開けて、シエラに中へ入るよう促す。
シエラは緊張した面持ちで、部屋の中へと入った。
「あぁ、ちょうどいいところに来たね。今から朝礼を始めるところだよ。こっちに来てくれるかな?」
扉が開いた瞬間、中で整列していた職員百数十名の職員たちが、一斉にシエラ達の方へ向いてきたので、シエラの頭の中にあった恥ずかしいの感情はどこかへと消え去っていき、今度は緊張で少しカチコチになる。
「先日話をした、交換研修の第一弾として、モルト第一ギルドからやってきた受付職員のシエラ嬢だ」
ミュシカに促されるまま、アオの隣まで行き、中央ギルド職員に紹介されたシエラは、よろしくお願いします、と頭を下げる。
「事前に説明をしていたと思うが、傍にいるこの4羽は彼女の従魔なので、捕まえたり、通報したりしないように気を付けてくれ」
ちゃんと従魔タグがついてるから、そんな事をする奴はいないと思うけど、念の為ね、とアオはにっこりと笑って付け足す。
見た目、鶏の彼らがコッカトリスだとは思わないよねぇ、と思いながら、シエラはもう一度、頭を小さく下げた。
「事前に伝えておいた通り、まずは明日から1週間、日替わりで各部署の業務を体験してもらう。お互い、他所のやり方を学んで、改善すべきところなんかがないかをしっかりと検討してもらいたい」
『はい』
全員の返事に、アオは満足そうに頷いた。
「それじゃ、朝礼はこれで終了です。本日も一日、よろしくお願いします」
『お願いします』
職員がゾロゾロと移動し始めたところで、ミュシカが一人の男性を連れて、シエラのそばへやってきた。
「シエラさん、紹介します。彼はシャオ、受付業務担当のリーダーです」
そう言うと、彼女の隣に立つとんがり耳を持つエルフと思しき男性は小さく頭を下げた。
「初めまして、シャオと言います。今日と明日、シエラさんの研修を担当させていただきます」
シャオの言葉に、シエラはよろしくお願いします、と頭を下げる。
「それではシャオ、私はこれから会議があるので、後のことはよろしくお願いすますね」
ミュシカに言われて、シャオは任せてください、と頷く。
「それではシエラさん、頑張ってくださいね」
ミュシカはそう言って、その場を離れていった。




