新人冒険者‐9
ゲートをくぐり、森に到着したシエラは、目をつむり、深呼吸を一つすると、自身の持つスキル、索敵を展開し、森の中の様子を確認していく。
「……いた!」
ゲートから到着した場所から、北東の方向へ少し進んだ場所に、いくつかの生物の反応を確認した。おそらく、少年冒険者5人と、魔物か何か数匹が対峙しているようで、シエラは急いでその反応地点へとかけていく。
(間に合って!)
対峙している魔物がレベルの低い魔物でありますように。
そう祈りながら走ること数分。
そこには、仲間をかばうようにして、震えながら武器をもって対峙するターナーと、大きな白銀の鶏と、真っ黒な小さな鶏の姿があった。
(…嘘でしょ。まさか、よりにもよって…)
目の前の光景に、軽い眩暈を覚えつつ、シエラは「待ってください!」と叫びながら、彼らの間に割って入り、ターナーたちをかばうようにして立ちふさがった。
「シエラねーちゃん!」
見知った人物の登場に、ターナーは思わずその場にへたり込んだ。
「大丈夫!?ケガはない!?」
シエラが聞くと、ターナーは大きな声で泣き出した。
「た、ターナー君!?」
ターナーにつられて、他の子達も泣き出す。
突然のことに、シエラは動揺するも、視線を目の前の鶏たちから外すことはできなかった。
「…また、お前か」
目の前の白銀の鶏、コッカトリスが呟くと、シエラは、彼がまだ自分たちのことを覚えていることに、少しだけ思案し、お久しぶりです、と頭を下げた。
「すみません、状況が少し、飲み込めないのですが、彼らがもしかして、何かしてしまったのでしょうか?」
その可能性は薄い、と思いつつ、シエラはまずは確認を、と聞いてみた。
「いや、なに、息子が無事に産まれたのでな。ちょうど、狩りによさそうな獲物が森をうろついてたので、連れてきたところだったのよ」
コッカトリスの言葉に、シエラは脳みそをフル回転させた。
(ターナー君たちは、特に何かをしたわけじゃない。ということはたまたま、運悪く、捕まっただけ。ってことは、まだ帰してもらえる可能性はある。けど、産まれた雛に、狩りを教えるために調達したってことだと、すんなりと帰してもらえる可能性は正直低い。今の私で出せる交換条件、何かないっけ…)
「無事に、あの卵は孵ったんですね。よかったです。おめでとうございます」
まずは会話を引き延ばさないと、と思い、コッカトリスにお祝いの言葉を伝える。
「…はは!娘。お前、面白いな!」
コッカトリスが羽を広げて笑う。
「お前、名はなんという」
「え、私の名前ですか?え、と、私はシエラと申します」
自己紹介をして、頭を下げると、ふむ、とコッカトリスが頷いた。
「シエラ、か。覚えておこう。私の名はコーカス。息子はトーカスだ」
「コーカス様とトーカス様ですね。今後とも、お見知りおきを」
シエラの言葉に、満足げに頷くコーカス。
「今日はもう日が暮れるな。シエラの知り合いのようだし、今回はその獲物たちは見逃してやろう」
コーカスの言葉に、シエラはパッと顔を上げた。
「本当ですか!?」
「ただし、明日、代わりに何か食べ物を寄越せ。よいな?」
コーカスの言葉に、シエラは頷く。
「かしこまりました。ではまた、明日」
小さく会釈をすると、シエラは泣きじゃくっているターナーたちを何とか立ち上がらせ、ゲートまで連れて行った。




