引継ぎしましょうー3
「引継ぎは問題なさそうだな」
「ジェルマさん」
うんうん、と頷くと、ジェルマは1枚の紙をシエラに渡してきた。
「そうだ、お前、今度の研修の間、プルプルは置いていけ。それ、長期のテイム委任状の申請書類と、プルプルの契約職員の書類だ」
「「「「え!?ほんとですか!?」」」」
「え!?なんでですか!?」
シエラ以外の受付嬢たちは歓喜の声を上げ、どの順番でプルプルの世話をするのかをすでにじゃんけんで決め始めている。
「ちょ、ちょっとジェルマさん!?勝手になんでそんな」
「いや、正式に解体部署から依頼が来てんだよ。プルプルを職員として、解体部署で働かせてほしいって」
「か、解体部署……?なんで……ま、まさか!?」
一瞬、なんで解体部署がプルプルを?と思ったのだが、最近ちょくちょく、ルーカスがプルプルを連れて解体場に行っていたことを思い出す。
「プルプルが解体場で出る魔獣なんかの血や内臓、傷んで買取できない処分部位なんかを全部処理してくれてるらしいんだよ」
「やっぱりか!」
シエラは頭を抱えて膝をつく。
「で、それがまた、最近慣れてきたからか、消化後の廃棄場所がかなり綺麗になるわ、消化速度も速くなってるわ処理量もかなり増えてきてるわってことらしくてな。プルプルがお前の休みで居ない日と比べると、明らかに作業場の負担が変わってきてるってことなんだよ。あ、ちなみにこれは感覚値じゃなくて、実際に数字にしてきたぞ?プルプルがいる日といない日のそれぞれの作業員の残業時間や、それにかかってる手間と時間をきちんと一定期間調べて、それらを比べた資料を提出してきてる」
抜かりのない資料を提出されていることを知り、シエラはぐぬぬ、と唸る。
「じゃ、じゃぁ、解体場の誰かがスライムをテイムしてくればいいじゃないですか!」
残業をしたくない気持ちはわかるが、どうしてもプルプルを手放したくないシエラは必死でジェルマに食い下がる。
「あぁ、それはすでに試そうとしてるんだが、解体場の奴ら、どうしてもスライムが見つけられないみたいでな」
「なんで!?」
スライムなんてどこにでもいるじゃん、歩けば会うじゃん!とシエラが言うと、ジェルマが苦笑いを浮かべる。
「あいつら、体にいろんな魔獣なんかの血肉の臭いが染みついてるだろ?だから、スライムじゃない別のがすぐ寄ってくるらしくてな。スライム探すどころじゃねーらしいんだよ」
「嘘でしょ!?」
実際、解体場の職員はその独特の臭いが染みついて取れないから彼女ができない、と嘆いている人間が少なくない。
「人でも認識できる時があるくらいだからな。人より嗅覚が優れてる魔獣なら、すぐに気づくだろ」
「なんてことなの……。そ、それなら、他にスライムテイムしてる人を探せば」
「お前以外にスライムテイムしたままの人間なんて知らねーし、居ねーよ」
他に何か手はないのか、と必死でシエラが脳をフル回転させるが、ジェルマにぴしゃりと切って捨てられる。
「それに、お前、プルプルのスキル、最近確認したか?」
「え?」
「確認してないだろ。見てみろ」
ジェルマに言われて、プルプルのステータスを確認する。
名前:プルプル
種族:スライム
年齢:1歳
スキル:消化 Lv4
掃除 Lv4
吸収 Lv3
浄化 Lv2
毒 Lv2
麻痺 Lv2
固有スキル:擬態、液状化、暴食
テイム:シエラ
「…………は?なにこれ?」
「だろ?」
プルプルを職員に、と言っている理由が理解できたか?とジェルマが頷く。
シエラは、消化と吸収のレベルが上がっているのは理解ができた。
だが。
「掃除Lv4ってなに!?」
「なんでそこだよ!」
思わずジェルマに突っ込まれるシエラ。え?ときょとんとした表情をする。
「プルプルは浄化スキルを取得してんだよ」
「あ、ほんとだ!?」
「え!?掃除より普通そっちに驚かない!?」
「きゃー!さすがぷるぷる!!」
「やっぱりぷるぷるちゃんは凄い子っす!」
無事に面倒を見る順番が決まったのか、じゃんけんをしていた他の受付嬢たちが会話に参加してきた。
「プルプルはどうやら毒や麻痺なんかにも耐性が持てるようでな、しかも浄化スキルも持ってるおかげで、解体場で廃棄物の処理後の安全も確保できるようになってんだよ」
「くっ……!さすがはうちの子、やっぱ天才!可愛い!って声を大にして言いたいけど、今は素直に喜べない!!」
元々、ぷるぷるは浄化のスキルは持っていなかったし、スライムによっては、耐性が取得できず、毒で死んでしまう場合もある。
この条件がそろっているスライムをテイムすることはまず難しいだろうし、たとえ普通の野良スライムをテイムできたとしても、プルプルと同じスキルを発動させられるかどうかは運次第だ。
「ま、そう言うわけで、申し訳ないが、プルプルはうちの職員として、登録させることになったのと、お前の研修にプルプルを連れて行ってもしょうがないから、留守番させろ。すぐにその書類書いて提出しろよ?癒しはトーカスにでもなってもらえ」
「ふざけんなぁぁぁぁ!!」
「諦めなさい、シエラ」
「ちゃんとプルプルちゃんの世話は責任もって私たちがやってあげるから」
「任しておいてください、姐さん!」
「大丈夫、しっかり私たちの方で面倒見てあげるから」
崩れ落ちるシエラに、他の受付嬢たちがとても良い笑みを浮かべながら、ポンポンと肩を叩いて慰める。
「あ、そうそう、プルプルの世話に関しては、基本ルーカスに任せることになってるからな。出勤してるときに面倒見るのはいいが、委任相手はルーカスにしてあるから、お前ら勝手に連れて帰るなよ?」
「な!?」
「嘘でしょ!?」
「ひどいっす!!」
「冗談でしょう!?」
そして、全員の心が一つになる。
「「「「ふざけんなぁぁぁぁ!!」」」」
愕然とし、絶叫する受付嬢たちに、ジェルマは身の危険を感じ、それじゃ、とそそくさとその場を後にした。
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