引継ぎしましょうー2
引継ぎ。
他者が処理していた仕事や作業などの続きを代わりに行うために、必要な情報等を前任が後任に教え、伝えること。
「とりあえず、各冒険者に対する注意事項をまとめた書類がこれです。まぁ、どちらかと言うと、注意点をまとめたものになるので、何か困ったことを言ってきたら、これ見てもらったらいいと思います。って言っても、まぁ、みんな知ってることだとは思うから、今更だと思うんだけど」
定時を過ぎ、まだ戻ってきていない担当冒険者たちを待ちながら、出勤していた受付嬢たちは、シエラから手渡された書類に目を通す。
「後は、私がいつもやってる仕事に関して、もし発生した場合の必要な処理についてと、その時に必要な書類がある場合は書類の保管場所、処理方法がマニュアルのどこに書いてあるかをこれにまとめておいたので、必要な時に見てもらえたら」
そう言って、10数枚の書類をはい、とルーに渡す。
「……この、ジェルマさんの見つけ方とか、ほんとに助かるわ」
渡された書類に目を通していると、ルーが小さく笑いながら途中のページで手を止めた。
「え、何それ」
「ちょっと私にも見せて」
「なんですか?それ?」
他のメンバーがわらわらとルーの手元にある書類を覗き込む。
そこには、シエラの業務の作業内容に続いて、補足としていろいろなことが書き込まれていた。
「……え、うそ、そんな簡単に見つけられるの?」
「いやいや、流石にそれは」
「でも、そう言えば、シエラはすぐにジェルマさん連れてくるよね?」
「え、そんなところにいるんすか?ほんとに?」
それぞれ、驚きが隠せない、といった風に、口々に思ったことを言葉にする。
「どう?特に最近、変更はなかったと思うし、それでいけると思うんだけど」
シエラが聞くと、他のメンバーはみんな、大丈夫、と頷いた。
「いつも引継ぎの書類は作っておいた方がいいってシエラが言ってたけど、ほんとね。正直、これ、マニュアルに足したいくらいだわ」
補足部分を見せながらルーが言う。
「ダメだよ。マニュアルに足すとなると、ジェルマさんのチェックが入るじゃない。そしたら、絶対対策されちゃう。それに、他の人に見られると困るし」
シエラが慌てて言うと、確かにね、とアミットが苦笑した。
「正直、こちら側としてはあらかじめ知っておいた方が対応できるから、必要な内容だけど、本人からしてみたら、そんなこと書かれてるのかって思われちゃうかもしれないものね」
ジェルマのさぼり場所の他にも、各冒険者の注意しておいた方がいい癖や、気にかけておいた方がいい家庭環境なんかも記載されているので、これは完全に部外秘情報である。
「やっぱり、いくら冒険者は自己責任とは言っても、こっちも仕事を斡旋する側である以上、ある程度、こっち側も責任をもって対処してあげないとだからね。本人が良くても、家族が困ることになるのはやっぱり、こっちとしても避けたいじゃない」
眉毛を八の字にしながら、シエラが言うと、そうね、と他のみんなも同意した。
「悪い癖なんかは割とみんなすぐに他にも周知するし、普段から気をつけてるけど、子供が生まれたばかり、とか、そういう情報は時間が経つと気を付けなくなるからね」
女癖が悪い、という噂がある冒険者に、女性からの護衛依頼や女性のソロ冒険者と仕事をブッキングしたりしないようにはするが、休みなく依頼をこなしていている冒険者がいても、生まれた子供の為に無理をしている可能性がある、とは思うことはほぼない。
「そうなんだよね。一応、各冒険者で気にかけてあげてほしい人たちのその項目を書いておいたから、気に留めてもらえると嬉しいです」
「えぇ、大丈夫。任せておいて」
アミットが微笑みながら頷く。
「それに、王都からは2人も派遣されるって話だし、私たちこそ、シエラには申し訳ないけれど、定時上りができちゃうかも……って、冗談よ、冗談!」
思いきり落ち込んだ表情になるシエラに、慌ててキリルが苦笑いしながら言う。
「いや、定時上りはみんなしようよ……働きすぎなんだよ、大体……いいじゃん、別に、早く帰ったって」
「そう言うのは魔物や魔獣に文句を言ってくれ。あいつらが休まない限り、俺たちも仕事に休みはねーんだよ」
ブツブツと壊れた機械のように文句を言っているシエラの上に、のしっと腕を乗せて体重をかけながら登場したのはジェルマだった。
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