引継ぎしましょうー1
「と、言うわけで、暫くの間、シエラが王都へ研修の為、出張することになった、期間はたぶん1か月くらいの予定だ」
始業前の朝礼時に、ギルドマスターのジェルマが皆に事情を説明する。
「1か月って結構長いですね」
「その間、人員の補充とかはどうなるんですか?」
「暫く、鑑定に関しても難しい物は待ってもらわないようにしないと」
「いいなー姐さん、王都なんて行ったことないっす!」
同じ業務担当の受付嬢たちが、それぞれ思い思いの言葉を口にする。
「この研修の主な目的は、各ギルドにおける業務内容の見直し、及び、作業の効率化を目的としています。何分、初めてのことなので、念のため、期間も少し多めにとっていますが、今回の研修結果次第では、この交換研修の定期開催も検討しています」
ジェルマの隣に立っていたミュシカが補足説明を行う。
「それは、受付業務以外でも予定があるのか?」
はい、と手を挙げて解体担当の職員が聞くと、アオがにこりと笑って頷いた。
「ギルドの業務は受付だけではもちろんないからね。今後、定期開催をすることになれば、その予定だよ。ただ、初回はやっぱり、ギルドの場所によって、そこまで大きく業務内容に差がない物で試してみたかったんだよ。慣れている業務とはいえ、異なる環境で業務をしてもらうことになるからね。だから、忙しさが王都と同じ程度のモルト第一ギルドで、業務内容に大きな差のない受付職員に、白羽の矢が立ったというわけなんだ」
実際は、エディからの指名依頼があったこともあるのだが、そんなことを全く感じさせないアオに、シエラは思わず顔が引きつった。
「もちろん、今回はシエラ嬢の能力諸々を考慮し、中央ギルドからは2人、交換研修としてこちらへ派遣する予定になっている」
「ほんとですか!?」
「よかったー!交代で来るのが1人だけだと正直心許なかったのよね!」
「助かるわ~」
「どんな人がくるっすかね!楽しみっす!」
あぁ、ダメだ、みんなもう、すんなり納得したわこれ、と、諦めるシエラに、アオはにっこりと微笑んだ。
「そう言うわけで、来週からシエラが暫くいなくなるから、必要なことは引継ぎちゃんと忘れずに。あと、シエラ、お前は出発までにできる限りめん……難しそうな鑑定の仕事を終わらしておくように」
「……今、面倒って言いかけませんでしたか?」
ジト目でジェルマを見ると、ジェルマはすっと視線をそらして、解散!と声をかけて、そのまま朝礼が終わった。
「姐さん、いいっすねー、王都!」
オーリが目を輝かせながらシエラに言う。
「えぇ?王都なんて全然興味がないから、できることなら代わってほしい……」
「あらそうなの?でも、今回は研修だから、王都までタダで行けるんだからいいじゃない。この機会に、ゆっくり観光とかしてきてみたら?」
ルーに言われるも、シエラは今回の交換研修と一緒に受注する仕事のことを考えると、そんな暇があるのかな、と思わず顔が曇った。
「まぁ、向こうは優秀な職員もたくさんいるって話じゃない?それに研修で行くわけだし、もしかしたら、シエラの念願の定時上りだってできちゃうかもしれないわよ?」
アヤの言葉に、シエラは思わず目を輝かせた。
「そ、そうか!研修なら確かにそのチャンスがあるかも!?」
「あ、そうだ、ちゃんと担当冒険者達には長期不在になること、伝えておいてね?」
ルーに言われて、シエラは頷く。
「あと、高度鑑定に関しても、時間がかかる旨の告知もしておかないとね」
「あー……確かに。迷宮で手に入れてきた未鑑定の品はこっちで確認できないって、第3にも連絡しとかないとね」
「姐さん、コーカスさん達は今回どうするんですか?」
「そうよ、彼らがもし残るのなら、食事とかどうしたらいいの?」
皆んなが口々に気になっていることを挙げていく。
「告知に関しては、ジェルマさんに全部漏れなくやっといてもらうよう話しておくよ。コーカス達なんだけど、今回、研修の期間も長いから、一緒に連れて行く事になってるから大丈夫。だから、その間はコーカス達の指導はお休みでお願い。念のため、再開予定は戻り次第告知にしようと思うんだけど、それでどうかな?」
シエラに言われて、それぞれ問題ないんじゃない?と頷く。
「……シエラ姐さん。ぷるぷるちゃんも、もしかして連れて行くっすか?」
「うん、スライムとはいえ、魔物だしね」
その言葉に、受付嬢達の動きがピタリと止まる。
「ま、まさか、ポチも連れて行く気じゃないでしょうね……?」
恐る恐るといった風に聞いてくるルーに、シエラがそのつもりだけど、と答えると、一斉に受付嬢達がその場に崩れ落ちた。
「いやぁぁぁぁぁぁ!!」
「お願いよシエラ!ポチかぷるぷる、せめてどっちかは残して行って!」
「仕事の楽しみ、癒しがなくなる!そんなの耐えられない!!」
「ちゃんと世話するっす!必要なら散歩にも連れて行きます!後生です!」
「嫌に決まってるじゃない!私にだって癒しは必要に決まってるじゃない!」
ギャーギャーと受付嬢たちが言い合いを始め、収集がつかなくなってきた時だった。
「うるさいぞお前ら!もう始業の時間過ぎてるんだ、さっさと入口開けてこい!」
「「「「はいぃぃ!!!」」」
二階からジェルマの怒鳴り声がしたため、慌ててシエラたちは入口のカギを開けて、冒険者たちの受付を開始した。




