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ステイタスボードの発行

神殿の中に入ると、大きな半円状のカウンターに、職員と思われる男女数名が立っていた。

ミュシカはカウンターへ向かうと、その中の一人に声をかけ、少し話をした後、小さく頭を下げて、こちらへ戻ってくる。


「再発行は、通常隣のカウンターでの手続きになるそうなんですが、今回は神官長が直接対応されるとのことで、2階に上がって右手にある部屋の前で待機しておいてください、ということでした」


ミュシカの口から出てきた、神官長という言葉に、シエラはピキッと固まる。今回は事情が事情なだけに、それなりに上の役職の人が対応するんだろうな、とは予測していたが、まさか、トップクラスの神官長が出てくるとは思っていなかったからだ。


「今回、裏技をお願いするのが()だからね」


そう言って、苦笑しながらチラリとエディに視線をやりつつ、シエラに小声で伝える。


「あぁ、なるほど」


公爵子息であるが、低いながらも、王位継承権を一応持っている人物からのお願いなのだ。そこそこの役職で対応、というわけにはいかないということか、とシエラは納得した。


「それに一応、ギルド側の代表として、ミュシカと一緒に面接には同席するから安心して」


アオがにっこりと笑ってシエラに言う。


「あ、ありがとうございま」

「面接の方ですか?」


とりあえず、アオたちが同席してくれるのであれば、何かあったとしても、何とかしてもらえると思っておいて大丈夫かな?と、頭を下げたところで、部屋の前にいた女性神官が、声をかけてきた。


「はい、ステイタスボードの再発行の面接がこちらであると伺いましたので」


ミュシカが答えると、女性は小さく頭を下げて、かしこまりました、と答える。


「それでは、こちらで面談を行いますので、呼ばれるまで少々お待ちください」


「はーい」

「わかりました」


フィーヴが手を挙げて元気に返事をするその様子に、シエラを不安が襲う。


(大丈夫なのかな、こんな調子で……)


「とりあえず、俺たちはヘネシーのボードの更新作業に行こうぜ」


トーカスがツンツンとシエラの足を突きながら言う。


「……そうだね、本来は本人と神官さんだけでやることだし、私がいたところで何の役にも立たないしね。フィーヴ、気を付けてね。くれぐれも、()()()()()()()()()()()


「大丈夫だよー」


じっとフィーヴを見つめて念を押すと、彼はへらっと笑ってゆらゆらと左右に楽しそうに揺れながら答えた。


「ほんとに大丈夫かなぁ……。はぁ。まぁいいや。アオさん、ミュシカさん、よろしくお願いします。ヘネシーさん、行きましょうか」


「おい、俺には何もないのか!?」


シエラが他の皆に声をかけて頭を下げると、そのままくるりと踵を返す。

後ろから、エディが何かを言ってきたような気がしたが、気にせずにヘネシーを伴って、その場を後にした。


「……お前、なんかエディに対して、あたりが強くないか?」


「そう?普通でしょ?」


しれっと答えるシエラに、流石だなぁ、とトーカスは笑った。


*****

「それではお入りください」


「失礼いたします」


シエラ達と別れた直後、部屋の中から声をかけられたので、フィーヴ達は声をかけて、扉を開けて、部屋の中へと入った。


「やぁ、これはこれはボルトンのお坊ちゃま。久しぶりでございますな」


「久しぶりだな、ローマン神官長。新年の挨拶をしたぶりか?」


部屋に入ると、白髪のいかにも好々爺、といった見た目の男性が立っていた。笑顔を浮かべながら軽く頭を下げてきたので、エディは微笑み返し、気安い様子で返事をしながら部屋に入っていく。


「どうぞそちらにおかけください」


頭を上げて、アオたちの方をちらりと見た後、椅子に座るよう、促す。

エディはフィーヴに、自分の隣に座るように促して、一緒に椅子に座った。アオとミュシカも、そちらにどうぞ、とローマンに勧められたが、二人とも小さく首を横に振って、エディたちの後ろに移動した。


「それにしても、今は学園の2学期が始まったところではないのですか?」


二人は座らずに、立っていることを選んだのだと理解したローマンは、エディに向き直ると、はて、と首を傾げながら聞いた。エディは少しバツの悪そうな顔をしながら、今はちょっとした休暇中だから大丈夫だ、と小さく手を振った。


「さて、今日はステイタスボードの発行依頼、ということですが……そちらの竜人族(ドラゴニュート)の方のもの、ということで間違いありませんか?」


「ああ。手間をかけて悪いな」


「よろしく頼むよー」


ローマンがちらりとフィーヴを見やる。エディがにっこりと笑って答え、フィーヴもへらっと笑って答えた。


「それで……そちらは、中央ギルドのギルドマスターとお見受けしますが……?」


今度は視線をアオに移して聞くと、アオはにこりと笑って、はい、と頷いた。


「中央ギルドのギルドマスターをしております、アオと申します。こちらは秘書のミュシカです」


「ミュシカと申します」


アオとミュシカが頭を下げると、ローマンは少し考える素振りを見せながら、よろしく、と答えた。


「今回は正規の手続きを踏まずに、ステイタスボードの再発行をしてほしい、ということですが」


ローマンは懐に持っていた魔道具を取り出して起動させ、それを机の上に置きながら話を始める。会話が漏れないよう、音を遮断する結界を張る魔道具であることを確認したエディは、あぁ、と頷いた。


「この申請は、モルトの第1ギルドからの申請となっておりますが、なぜ、中央ギルドのギルドマスターが態々付き添いに来ているのですかな?」


チラリ、とアオを見て問いかけると、アオは笑顔を崩さず、()()()()()ですから、と答えた。


「竜人族なんて、滅多に見かけることがないだろう?場所によっては、獣人たち以上に迫害の恐れもある。あまり大っぴらにできるような内容ではないからな」


現在、サントーリオには人族をはじめ、様々な人種が生活を営んでいる。その種類は多岐にわたり、エルフやドワーフといったほとんど人と見た目がそう変わらない種族から、ラビット族や狼族のように、獣と人とのハーフのような見た目の種族まで、様々だ。

見た目が違う、というだけで、会話もできて意思の疎通が図れるので、もちろん、皆、一緒に生活をしていて、行商などでの交流ももちろんあるのだが、国の半数近くが人族で成り立っているため、場所によっては、人族と違う人種に対して、快く思わない人たちも、少なからず存在していた。


「竜人族は竜種を祖先に持つから危険な存在だ、なんて勝手な理由で、数百年前に大量虐殺が行われたという文献が残っていることは、ローマンも知っているだろう?」


「……そうですね」


昔は竜人族もそれなりの数がいたようなのだが、彼らは皆、性別関係なく屈強で、おまけに魔法まで得意だった為、彼らを軍事的な脅威とみなした当時の王が、彼らを一人残らず捕らえて処刑するように、と指示を出したらしく、今ではもう、竜人族を見かけることは滅多にない、と言われていた。


「大昔のこととは言え、これは王家の汚点だからな。下手な貴族に知られると、フィーヴ自身に何かがまた起こる可能性もある。だから、俺が直接出向いて、()()()()()()()()()でお願いをしたいってわけなんだよ」


真剣な表情でローマンを見つめるエディ。彼は小さくため息をついて、わかりました、と答えた。


「第一ギルドで受付を行った者は大丈夫なのですかな?」


ローマンは書類にサインをしながらアオに問いかける。


「彼女は問題ありませんよ、彼をモルト(ここ)に連れてきた張本人なので、事情は理解しておりますし、なにより、優秀な娘ですので、もろもろ、理解して(わかって)いますから」


「それに、あいつは俺の友人だから問題ない」


エディの言葉に、ローマンは思わず手を止めて顔を上げた。

そこにはなぜか、少し得意げな表情を浮かべたエディがいた。


「……貴方方がそう仰るのであれば、大丈夫でしょう」


少し微笑みながら、小さく彼は頷くと、席を立ち、執務机の方へと移動して、袖机から一枚の小さなカードを取り出した。


「種族の所については、公開制限をかけるのでよろしいですか?」


ローマンに聞かれて、アオが小さく、はい、と頷く。


「わかりました。では」


戻ってきて椅子に座り、机の上にカードを置くと、ローマンは小さく二言三言呟く。

それと同時に、白い光がカードを包んだので、ローマンは、フィーヴの片手を取り、カードに触れさせた。


フィーヴがカードに触れると、光は次第に消えていき、目の前には、彼の名前が刻まれたカードが出来上がっていた。


「これで発行は完了したはずです。確認を」


そう言って、ローマンは出来上がったカードを差し出す。フィーヴはそれを受け取り、カードをじっと見てみる。


「うん、大丈夫なんじゃない?」


正直、カードの内容なんてわかんないし、どうなっていようが関係ないしねー、と、心の中でフィーヴは思いつつ、自分の名前が書かれていることだけ確認して、にっこりと笑いながら答えた。


こうして無事、ステイタスボードの再発行が完了した。

いつもお読みいただきありがとうございます。

誤字脱字につきましても、適宜修正いたします。いつもご報告いただきありがとうございます。

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