書類、多くない?
ステイタスボード。
それは職業や本人の状態など、あらゆる個人情報が表示される薄い板状のマジックアイテム。
身分証明書の代わりとして利用が可能で、持ち主の過去の賞罰の履歴についてもここに表示され、もちろん、犯罪歴があった場合も、その情報がここに載る。ちなみに、この賞罰項目については、情報の公開・非公開は一切選択ができない仕組みになっているので、ありとあらゆる場所で、提示を求められるものである。
「えぇと……再発行手続きの代行の場合、まずは所定の用紙に内容を記入。……あれ?ちょっと待って、この用紙、発行が10年前じゃない!3年前に用紙の内容が更新されたって確か通知が来てて、それに差し替えたはずなんだけど……」
クロードが今なら捕まえられそうだから、先にこの件を報告してくる、とギルドを出て行ったジェルマを恨めしそうに見た後、さっさと帰るためと気持ちを切り替えたシエラは、バタバタと手元のマニュアルを読みながら、あっちへ行ったりこっちへ来たりしながら、手続きに必要なものを探していた。
「あったあった!この用紙が……いや、ちょっと待って。これ、右上に通し番号ついてるけど、3が抜けてる…!?これ、確か魔法板に通達が載ってたはずで、えぇ、と、用紙の元データは……」
虚ろな目をしながらも、忙しそうに動き回るシエラを見つめながら、フィーヴは大きなあくびをする。
「……とりあえず、これ、書いて行って!」
誰のせいでこんなことになってると思っているんだ!と、叫びたかったが、言ったところでどうにもならないこともわかっているので、無駄に体力を使うまい、と、グッと堪え、今手元にある書類をフィーヴの前にペンと一緒に置いて、書くように促す。
「ふーん……。ここに名前を書いて、次が生まれた場所、……生まれた日なんて覚えてないぞ?」
「え、自分の誕生日覚えてねーの?」
ブツブツ言いながら書類を書き始めたフィーヴ。それを興味津々といった様子でトーカスが近づいてみている。
「そもそも、いつ生まれたかなんて、そんなに重要か?」
「えー?だって、誕生日って、人生で一番最初の記念日だぜ?」
「記念日?……そう言えば、人はやたらとそういうものを作って祝いたがる習性があったな」
「え、これって習性なのか?」
「え、違うのか?」
「どうでもいいからさっさと書いてってよ!これ、不足してるところ見つけて複製してきたから、追加でこれも書いてね。書類はこれで全部……じゃない、こっちの確認内容記載書類がいる。えぇ?一緒に保管されてなかったんだけど、どこだー??」
フィーヴとトーカスがあれこれお喋りしているところを、シエラが会話をぶった切って抜けていた書類を置き、またどこかへ消えて行った。
「まぁ、細かい日は覚えてないんだったら、適当でいいんじゃね?いち、に、さん……うわ、書類全部で7枚もあるじゃねーか!これ、ちゃちゃっと書かないと時間かかるぜ、きっと」
「確かに……、んー、産まれたのは暑い日だったって言われた気がするし、夏ごろの日付を適当に入れておけばいいか。後は……」
時々話を脱線させながらも、フィーヴはトーカスとお喋りしながら書類を埋めていく。
「うーん……どうしよう、これ、ステイタスボードの発行だから、ほんとは嘘ついたらダメなんだけど……でも、嘘つかないと、書類提出するときにちょっと厄介なことになりかねないし」
職員側で確認する書類をペラペラとみていきながら、シエラは小さくため息をついた。
「何か困ってるのか?」
「ひぃ!ってトーカス、びっくりするじゃない!」
フィーヴの側にいたトーカスが、いつの間にかシエラの側に来て声をかけてきたので、シエラは小さく悲鳴を上げた。
「悪い悪い。いや、何か困ってるみたいだったからちょっと気になったんだよ」
言われて、シエラは苦笑しながら、ありがとう、と答えた。
「代行処理するのにこの確認書類を埋めないといけないんだけど……ここ、どうしたものかと思って」
シエラが指さす先には「種族:」と書かれていたので、なるほど、とトーカスは頷いた。
「これ、発行してもらうのにどっかに提出する書類なんだよな?」
「そうだよ」
頷くシエラに、だよなー。とトーカスも頷いた。
「馬鹿正直に『龍種』とは書けねーよな」
「当たり前じゃない……こっちの正気を疑われると思うし、万が一にも信じたとして、それはそれで何が起こるか想像もできない(したくない)し。でも、ここに嘘書くのは犯罪だから、どうしたもんかな、と」
「なら、とりあえず後回しにしとけばいいじゃん」
シエラがこまった、とため息をつくので、それなら、とトーカスはビシッと右翼を差し出して、まるでサムズアップしているかのようなポーズを取って、ドヤァと答えた。
「……後回しにしてどうするのよ」
必須項目になるので、空欄のまま提出するわけにはいかないので、後回しにしたところで意味はない、とシエラが言う。
「わかってるって。たださ、ジェルマが今、クロードんところに行ってるわけだし、そこらへんとか、他にちょっと記載に悩むところについては、もしかしたら、領主様権限で何とかしてもらえるかもしれねーじゃん?」
「おぉ、なるほど?」
トーカスの言葉に、シエラは少し感心したように声を上げる。
「どっちにしたって、俺らがここでどうこう考えたところで、たぶん解決策なんて見つからないんだから、他の埋められる無難な項目を先に全部めてっちまった方がいいんじゃね?」
「……トーカス、すごいね。それ、採用」
シエラはそう言って、よし、と腕まくりをすると、手元にある十数枚の確認書類を問題なさそうなところを、何とか埋めていった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字につきましても、適宜修正いたします。いつもご報告いただきありがとうございます。
感想、いいねいただけると嬉しいです!




