街の治安維持と、ジェルマの懐と
「とりあえず、俺が手続きしてくるから、トーカスはシエラを起こしておいてくれ。フィーヴは俺と一緒に来てくれるか?」
「わかった」
「おう、早く頼むぜー」
(正直、こいつが龍種である、なんて、見た目では全く分からない。これでも元Sランクの冒険者だったんだ。相手の力量がどの程度か、なんてのはぱっと見でもなんとなく読み取れるという自負もある。なのに、この俺でも、そこらにいる普通の人間と、感じる気配が全く変わらんってのは、どういうことだ……)
小さく息を吐きながら、駆け寄ってきたフィーヴを伴って、門番の方へとジェルマは歩いて行った。
「よう、警備ご苦労さん。時間外で悪いんだが、対応をお願いできるか?」
ジェルマが片手をあげて声をかけると、二人の姿に気付いた門番が小さく頭を下げた。
「ジェルマさん、外に出てたんですね。遅い時間までご苦労様です」
「あれ?そっちの人は……?」
ジェルマの後ろにいるフィーヴに気付いた門番が、ちらりと彼を見てジェルマに聞く。
「あぁ、こいつはフィーヴ。俺の遠い親戚なんだ」
ジェルマに紹介されて、フィーヴは小さく頭をぺこりと下げた。
「ジェルマさんのご親族ですか。じゃ、ちゃちゃっと手続きしてしまうんで、ステイタスボード出してもらってもいいですか?」
門番に言われて、ジェルマはあー、と頬を掻きながら苦笑いする。
「それがな、実は、ここに来るまでにどうも荷物を盗まれちまったらしいんだよ」
「え?」
「天気が良くて、ついうとうとと居眠りしてたら、気づいたら荷物がすべてなくなってたらしくってな」
そう言ってフィーヴの姿を門番に見せる。鞄はおろか、水筒すら持っていない状態のフィーヴを見て、門番二人はほんとに全部盗られたんだな、と、憐憫の目を向けた。
「まぁ幸い、襲われたとかじゃなかったようで、怪我とかはなかったんでよかったんだが……ただそう言う理由で、ステータスボードも何も持ってないんだよ」
ジェルマに言われて、門番の一人がわかりました、と頷いた。
「それじゃ、簡易検査するんで、こっちに来てもらっていいですか?身元保証はジェルマさんってことでいいですよね?」
聞かれてあぁ、とジェルマは頷き、フィーヴと一緒に、門番の後について行く。
「それじゃ、ジェルマさんはこっちに記入をお願いします。えぇとお名前は……」
「フィーヴだ」
フィーヴが答えると、門番はすいません、と小さく頭を下げながら、1枚の板を彼の前に差し出した。
「ここに手を置いてもらっていいですか?」
「こうでいいか?」
すっと右手を板の上に置くと、板がパッと白く光ってすぐに消えた。
それを見たジェルマは、とりあえず、書き終えた書類を手に取りながら、ほっと胸をなでおろす。
(……正直、この簡易検査がどう反応するのかは俺も賭けだったからな。おかしな反応が出たりしたら、どうしようかと思ったが、問題なくてよかったぜ)
「はい、ありがとうございました。もう大丈夫です。……ジェルマさん、書類はかけましたか?」
白い光は罪人ではないことを示しているので、門番はそのまま板を片付けて、ジェルマに書類が書けたか、声をかけた。
「これでいいか?」
「…………はい、大丈夫です。では、これ、通行証明書です。1週間以内にステイタスボードの発行を、って、ジェルマさんには説明、必要ないですよね」
あはは、と笑って門番が言うと、ジェルマは苦笑した。
「流石に、ギルド職員で知らない奴がいたら、ちょっと説教だな」
ジェルマが答えると、ですよね、と門番は笑った。
大きな街の場合、中に入るときにステイタスボードの提示は絶対条件となる。そして、ステイタスボードをなくしてしまったり、盗まれてしまったりなどで手元にない場合は、基本、中に入れなくなる。
だが、今回のように、身元保証人がいれば、一時的に一定期間だけ中に入ることができるようになっている。でないと、ステイタスボードの再発行ができないからだ。ただし、この方法で中に入るのは、あくまでも一時措置の為、もちろん、期間内に再発行の手続きを取る必要がある。期間内に再発行の手続きを取らなかった場合は、強制的に街の外へと出されることとなり、次回以降、街へ入るのに制限がかけられ、また、この情報は他の街へも共有され、他の街へも同様に入りづらくなるのだ。
何故、ギルド職員がこのことを詳しく知っている必要があるかというと、よく、街の外からやってきた冒険者が、討伐依頼中などにステイタスボードをなくしてしまい、その状態で街に入ったが、再発行を面倒くさがって後回しにした結果、期限が来て、強制的に街から退去させられる、ということが年に数回起こっているからだった。
モルトでは、所属外の冒険者が初めて依頼を受けに来たときや、登録をしに来た時には、必ずステイタスボードを確認することが義務付けられており、もし、ステイタスボードを所持していなかった場合は、まずはステイタスボードの再発行手続きをさせてから、依頼や登録などの手続きを行う様に、ギルド内でルール化しているおかげで、滅多に発生することがないのだが、そう言った事情があるため、モルトのギルド職員で、もし知らない人間がいたら、ギルドマスター直々のお説教が待っていても仕方がなかったりする。
「通行税はもうここで払って行かれますか?」
「あぁ、頼む。えーと……いくらだったか?」
普段、自分の住んでる街で通行税を払うことはまずないので、いくらだったかすっかり忘れてしまったジェルマが聞く。
「えぇと……今回は身元保証で、かつ、時間外で入るんで、中銀貨5枚ですね」
「おぉー………」
懐への大ダメージだな、と思いながら、ジェルマは中銀貨5枚を取り出して渡した。
ちなみに、この通行税は、ステイタスボードを持っている場合は、問題がなければ、大体、銅貨5枚~10枚になる。身分証明書がない状態の人間を街に入れるというのは、それなりのリスクを伴うことなので、当然、身元保証人がいたとしても、通行税は割高になる。
「はい、確かに。それじゃ、再発行手続き、忘れずにお願いしますね」
「おう、通行税の差額も戻ってくるしな、絶対忘れずにさせるよ」
ただし、きちんとステイタスボードを期日内に再発行し、通行証と一緒に所定の手続きを行えば、通常の通行税+α以外は戻ってくるような仕組みになっている。
まぁ、すぐにまた戻ってくるか、とジェルマは寂しくなった懐をポンポンと叩きながら、フィーヴを連れて、シエラ達の元へと戻った。
いつもお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字につきましても、適宜修正いたします。いつもご報告いただきありがとうございます。
感想、いいねいただけると嬉しいです!




