意外なとこから情報はやってきたり、こなかったり。
「結局、色々調べてた事は何処までわかったんだ?」
今後の方針について決まった後、コーカス達と一緒に夜食を食べ始めたところで、トーカスがジェルマに質問した。
「今のところ、何もわからないって事しかわかってねーな」
「えー……」
少しは何か進捗があったのではと期待していたトーカスは、残念そうな声を漏らす。
「何か調べてるのか?」
フィーヴがシエラの作った干し肉入りスープを受け取りながら聞いてきたので、シエラはこの辺りを調査する事になった経緯などを簡単に説明した。
「あぁー…あの煩くしていた奴らかぁ」
フィーヴの言葉に、シエラ、ロウ、ジェルマの手が止まる。
「フィーヴ、何か知ってるの?」
シエラが聞くと、彼はうーん、と少し思い出す様に首を傾げながら、大した事は知らないけど、と前置きして答える。
「オークを使って、更に別の魔物を操ろうとしていた奴らが居たんだよね。そのオークが、普通のオークに比べて魔力が多いからできるはずだ、とかなんとか」
その言葉に、シエラ達は顔を見合わせて、そいつらが何処に居るのかと、フィーヴに詰め寄ると、彼は小さく肩を竦めた。
「さぁ?知らない。そいつらなら、もうどこか行ったし」
「……もしかして、コーカスにオークを倒されたせいで逃げた、か?」
ジェルマが呟く。
だが。
「オークはピンピンしてたから違うと思うけどねー。ていうか、オークに操られたゴブリン共に襲われたせいで逃げてってたし」
「え!?」
「オークはそいつらが操ってたって…な、仲間割れでもしたってことか!?」
ロウが驚いて聞くと、フィーヴは笑って答える。
「んー、多分事故じゃない?そもそも、オークはテイムされてた訳じゃ無かったからねー。魔導具、だっけ?あれで隷属させられてたんだよ。腕になんかそんなやつ付けられてたみたいだけど、うっかり核の魔石壊しちゃったみたいで、効果が解けちゃったみたいだったよ?ウケるよねー」
ケタケタと笑うフィーヴに、シエラは少しだけ頬を痙攣らせる。
「変なことしてる奴がいるなーと思って、様子見てたけど、魔石壊れた瞬間、オークやゴブリン達の動きが一斉に変わってたさ。人間共が気づいた次の瞬間には、オークに命令されてなのか、ゴブリン共が襲いかかってたっけかなぁ」
「魔石なんてそんな簡単に壊れないはずなのに…何があったのかは知らないけど、運が悪いというか、なんと言うか…」
魔石は普通の石と異なり、魔素を含む。この魔素は含有量が多ければ多いほど、石自体の強度が上がると言われている。もちろん、魔石を使って、魔法を使ったりすると、その分、含有量は減っていく。自然回復もするが、使用量がそれを越え続ければ、もちろん、枯渇し、無くなる。
一度魔素を失った魔石はただの石ころと化し、回復には相当な時間がかかると言われている。
「フィーヴが言うんだし、そもそも嘘つく理由もないし、使ってたんだとは思うんだけど……思うんだけど、ありえないとも思うんだよねー…」
「なんでなんだ?」
不思議そうな顔をするトーカスに、シエラはううん、と唸ったあと、軽く説明を始めた。
「魔導具の中には、隷属の〇〇って呼ばれる物がいくつか存在してるのは間違いないのね。その形状はペンダントや指輪、首輪っていう風に、色々あるんだけど、とりあえず、基本機能としては、装着者を絶対服従させる、っていうもので、まぁ、主には犯罪奴隷が逃げたり、悪さをしないようにする為に使われてるの」
トーカスはこくこくと頷く。
「で、そんな代物だから、もちろん、管理は厳重にされてて、使用するには当然、申請して、許可を得る必要があるのよ。当たり前だけど。で、さっきも言ったみたいに、基本、使うのは犯罪奴隷に対してだから、基本的に取り扱いが出来るのは、認可を受けた奴隷商か、資格をもった一部のひとだけ。もし、奴隷商以外で個人的に申請する場合はお金も時間も手間もめちゃくちゃかかる仕組みになってるから、人以外、それもそんな珍しい訳でもない魔物なんかにそんな物使うとか、効率も金銭的にも割が合わなすぎて……」
「あり得ないとしか思えねーんだよなぁ」
シエラの言葉に、ジェルマが同意し、ロウも大きく頷いた。
「隷属系の魔導具は、無許可所持だけでもそれなりの罪に問われますし、無資格、無認可での売買はもちろん、使用に至っては良くて犯罪奴隷落ち、最悪極刑です」
「ああ。しかも、使用対象が魔物の、それもオークになるってんなら、テイムした方がよっぽど早いし、自分がテイム出来ないとしても、できる奴なんて少し探せば見つかるはずだ。態々魔導具使う意味がわからねぇ」
その言葉に、トーカスは唸る。
「そうなると、ちょっと割に合わない感が確かにするなぁ…んー、頑張ってテイム出来るやつを探したけど、見つからなかった、とか」
言われて、ないない、とシエラは首を横に振る。
「さっきも言ったけど、隷属系の魔導具って基本管理されてるから、市場には普通には出回らないのよ。万が一、オークションなんかで出たとしてもかなり高額だし、そもそも、コレが出る確率に比べたら、テイム出来る人見つけられる確率の方がよっぽど高いよ」
シエラが言うと、ロウがうんうん、と頷いた。
「コレの基本の入手ルートは迷宮なんです。宝箱なんかから、偶に手に入るんですが、物が物なので、出た魔導具は、ギルドで全て回収することが強制されてるんです。で、そうやって入手した魔導具は、登録のある奴隷商から依頼があれば販売して、売れた金額の八割ほどを、冒険者に渡すのが一般的な流れですね」
「因みに、ここでギルドへ渡さずに持ち出したら、その時点で無許可所持で罪に問われるし、さらにそれを誰かに売ったら、冒険者資格剥奪の上、牢屋にご案内になるわよ」
「おぉー…となるとこっそり持ち出して捌く、なんて事するのはかなりヤバい橋渡ることになるんだな」
トーカスが呟くと、ジェルマは小さくため息をつく。
「まぁ、それでもバレないかも、と思って、やる奴は毎年出るけどな」
シエラとロウはこくこくと頷く。
「高額取引されるからねー…。見つかったら、人生そこで終了するくらいの危険性があるのに、やっちゃうお馬鹿がいるのよ。いくら高額って言ったって、人生と引き換えにできるほどの額では、流石にないっていうのに」
「まぁ…、目先の欲に囚われる人間は少なくないって事だな」
そこまで黙って聞いていたコーカスが、ふと疑問を口にする。
「なら、そんなに入手困難な代物、そいつはどうやって手に入れたんだろうな?高いって事は、それなりに金がかかるって事なんだろう?」
言われて人間三人組は顔を見合わせた。
「隷属系の魔導具が盗まれた、なんて話は確か無かったよな?」
ジェルマに聞かれて、二人はこくんと頷く。
「はい、この手の魔導具が盗難にあった場合は、場所関係なく、ギルド全体に通達が流れるはずですが、そんな情報はなかったと思います。ですよね、ロウさん?」
「はい、私も中央ギルドでそんな話は聞いていませんから、間違いないと思います」
その言葉に、ジェルマはふむ、と少しだけ考える。
「て事は、だ。裏ルートで手にしたって事だと思うが、それを使って、今回の事を起こす理由だが……」
その1。
高ランクの魔物を戦力にしたいから、という理由だったとしたら?
オーク程度に使うとは考え難いし、正規の手続きを踏んで、そういうことをしようとしている奴がいる、なんて話はまわってきていない。となると無許可状態の可能性高いが、隷属系魔導具を使用しているところを他人に見られたら、一発アウトになることを考慮すると、戦力の意味がなくなる。
となると、コレはない。
その2。
バルディッドのような魔物研究に生涯を捧げていて、その研究の為だとしたら?
それなら正規の手続きをしない理由がわからなくなる。時間と金がかかるかも知れないが、危険を犯してまで無許可でやる必要がない。さらに、バレればその後の研究に支障をきたすし、そもそも、バレなかったとしても、研究成果が発表できないとなると、研究者としては耐えられないだろう。
となると、コレもない。
と、なれば。
「……やっぱり、金にモノを言わせてそれなりの地位の奴が後ろ暗い目的で使用していた、と言うのが濃厚だろうが」
そう言って、ジェルマはチラリとフィーヴを見る。
「うん?あぁ、人間たちならどっかに逃げて行ったから、その先は知らないよ?」
「だよなぁ…」
ガックリと肩を落とすジェルマ。
足取りが掴めればと思ったが、そう簡単には行かないようだと小さく舌打ちした。




