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求む、解決策

「………来る!」


物凄い勢いで自分たちに近づいてくる気配2つが、もうすぐ自分たちの元に現れることを察知したシエラは、その気配の方を向いてにやりと笑った。


「待たせたなー!!」


「…………は?」


にこやかな笑顔でサクラの背中に乗ったジェルマの登場に、シエラは思いきり顔を顰めた。


「サクラ、ご苦労だったな。いやぁ……さすがコッカトリスと言うべきか。すげぇ速さでいきなり出発したから、最初は正直驚いたが、慣れれば悪くないもんだな」


ケロッとした様子のジェルマにシエラは納得がいかず、なんで、なんで、と呟いている。


「そういや、こないだ王都に行ったときは馬車での移動だったし、俺らで移動するのは初めてだったか」


トーカスが言うと、ジェルマはそうそう、と頷いた。


「まぁ、普通の奴があの速さで移動されたら流石にたまったもんじゃねーし、こないだは馬車で移動して正解だったとは思うわ。まぁ、魔法が使えれば話は別だろうけど」


「……え?ちょ、ジェルマさん、今のってどういう…?」


「うん?魔法が使える奴なら、魔法で障壁を作って自分を覆ってやりゃ、風の勢いなんかはほぼ無効化できるだろ?」


「「え!?」」


シエラの隣で聞いていたロウも思わず驚いて声を上げる。


「おいおい、こんなもん基本だろ?」


ジェルマ曰く、魔法で張る障壁は、攻撃を防ぐことができるため、高速移動をする際の風による抵抗ももちろん防ぐことができるので、コッカトリス急行での移動の際の異常な空気抵抗も、障壁を張ることによって緩和(というかほぼ無効化)することができるということだった。


「そ、そんな……」


(そんなことであの大変さが緩和できるなんて……。でも、私、初級の回復系魔法しか使えないんだけど…。え…?ちょっと待って、てことは、結局解決策が分かったのに、私にはどうしようもない、ってこと……!?)


突き付けられた現実に耐え切れず、シエラはがくりと膝から崩れ落ちた。

ジェルマはそんなシエラの様子に、どうしたんだこいつ?と首を傾げるも、見知らぬ顔があることに気付いて、そういえば、と彼らに話しかけた。


「お前が中央ギルドの奴か?」


ロウは話しかけられて、はい、と頷くと自己紹介をした。


「中央ギルド職員のロウです」


「俺はモルト第一ギルドのジェルマだ。そっちは?」


フィーヴの方を見てジェルマが聞く。


「うん?あぁ、シエラがお前に相談した、()()()だよ」


放心状態のシエラと、なんて答えるべきか悩んでいるロウに代わって、コーカスが答えた。


「は……?いやいや、例の奴って……いや、おい、ちょっと待て。どう見ても人に見えるんだが」

(シエラから相談を受けたのは竜種についてだ。目の前の奴が竜種(例のやつ)だというなら、人の姿をしているということになるじゃねーか)


いくら何でも、冗談が過ぎる、とジェルマが頬を引くつかせながら聞くと、コーカスはこてんと首を傾げながらそれがどうした?と聞き返してきたので、まさか、とジェルマは顔面蒼白になった。


「……おい、シエラ!おま、ちょっとこっち来い!!」


「い、痛っ!!ちょ、引っ張らないでください、耳がちぎれる!!」


急に耳をぐいぐいと引っ張ってくるジェルマに、シエラは現実に強制的に戻された。

少しだけ皆から離れると、ジェルマは小声でシエラに問いただした。


「おい、あそこにいる奴が、例の竜種で間違いないのか!?」


「そうですよ。ちゃんと人の言葉もわかるし、喋れますよ」


シエラが耳をさすりながら答えると、ジェルマは愕然とした表情になる。


「あほか!!お前、意思の疎通ができるとは言ってたが、喋れるなんて一言も言ってなかっただろうが!」


「……あれ?言ってませんでしたっけ??」


シエラはおや?と首を傾げる。


「言ってねぇよ!!第一、人の姿してるなんて聞いてねーぞ!そもそも、竜種でんな芸当ができるなんて聞いたことがねぇ!」


うがぁ!!と怒りながら続けるジェルマに、シエラはぷぅっと頬を膨らませる。


「そんなこと、私に言われたって知りませんよ。私だって、龍種なんて初めて見ましたもん。お伽噺の中だけの話だとばっかり思ってましたし」


シエラの言葉に、ジェルマはぴたりと動きを止めた。


「………お伽噺?」


目撃情報が少ないとは言え、時々、ワイバーンなどの竜種は目撃されたり、討伐されたりしている。もちろん、モルトにある迷宮内での遭遇談なんかも耳にしたことはあり、素材を扱ったことだって多くはないが、過去に何度かあったし、それをシエラ自身も扱ったことが当然あった。


だが。


「ロウさんとちょっと言ってたんですけど、フィーヴから聞いた話の内容が建国のお伽噺みたいなんですよ」


そこまで言ったところで、シエラはハッとあることに気付いた。


「………あの、一応お伝えすると、フィーヴは手のない竜種ではなく、()()()()()()の方だそうです」


「嘘だろう!?」


シエラの言葉に、ジェルマは思わず叫んだ。


「いやいやいやいや、待て待て待て待て!!」


現実が理解できず、思考が追い付かないジェルマは今まで見たことの無い狼狽ぶりを見せた。


「そん……いや、え?だって……いやいや……」


オロオロとするジェルマに、シエラは思わず目を丸くする。


(……ジェルマさんでもこんなに慌てることってあるんだ)


人は、自分以上に慌てている人を見ると、逆に冷静になる、というけど、ほんとなんだなぁ、なんて暢気なことを考えていると、ガシッとシエラの肩をジェルマが掴んできた。


「り、()種ってのは間違いないのか!?」


「えぇ?はぁ……本人がそう言ってましたし、そもそも、喋ったり、人化してる時点で、竜でないのは間違いないと思いますよ」


「誰か、嘘だと言ってくれ……」


竜だと思っていたのに、蓋を開けてみたら龍でした、なんて、悪夢以外の何物でもない。しかもそれをうっかり自分の部下がテイムしている状態で、街で過ごしたいと言っているだなんて、なんの冗談だ、とジェルマは思いきり頭を抱えた。


「ジェルマよ。とりあえず、陽も傾いてきたし、腹も減ってきた。食料を調達してきたんだろう?何か出せ」


コーカスが近づいてきて、コンコンとジェルマを突いて言うと、ジェルマは何を暢気なことを、とブツブツ言いながらも、マジックバッグから買ってきた野菜をどっさりと出した。


「とりあえず、これでも食べててくれ。あー…お前、確か中央ギルドの奴だったよな?お前はちょっとこっちこい」


「あ、はい」


ジェルマに呼ばれて、ロウが小走りで二人の側へと近寄る。


「とりあえず、これからのことなんだが……龍種のことは一旦、伏せておく。忘れろ。あれは人間だ。森で迷ってた、記憶をなくした人間を、俺たちは保護したんだ」


「…………なるほど?」


「いやいやいやいや」


ジェルマの無かったことにしてしまおう作戦に、シエラは名案じゃね?と乗っかろうと思ったが、ロウがそれに待ったをかけた。


「俺も正直、ジェルマさんの案に賛成ですけど、流石に記憶をなくして森で迷ってたってのは無理がありませんか?」


ロウに言われて、ジェルマはそうか?と唸る。


「じゃ、あれだ。俺かシエラの遠い親戚だ。…身分を証明できるものが何もねーから、保証金払って街に入れる形にはなるが」


手持ちがあったかな、と財布を確認するジェルマとシエラにそれなら、とロウは首を傾げつつも頷いた。


「それなら、なんとか……?…でも、バルディッドさんにはあれこれ聞かれますよ?親戚(フィーヴ)のことは気にしないかもしれませんが、痕跡がどうだったかの結果については確実に。というか、そもそも、龍種の痕跡に最初に気付いたのはあの人ですし、うっかり近づかれたらバレませんか?」


ロウの言葉に、シエラは頷いた。


「あの人、確かにちょっとおか……へん……変わってたましたし、魔物に関しては異様な執着をみせてました。ロウさんの言う通り、バレてしまう可能性はあります」

(というか、うっかり近づかなくても、下手したらバレそうな気がする…)


三人でどうしたものかと悩んでいると、何を悩んでいるんだ?とトーカスがやってきて聞いてきたので、内容を簡単に伝えてみた。


「なんだ。なら、多少は漏れることも覚悟のうえで、各ギルドマスターとバルディッド、後はお偉いさんとかにだけちゃんと伝えて、みんなで解決策を考えてみたらいいんじゃねーか?」


彼の言葉に、三人は目をぱちくりとさせた。


「そもそも、隠し通すのが無理なのは一部の人間、というか、バルディッドなんだろ?なら、隠すのは最初からあきらめて、バラして黙っといてもらう方が手っ取り早くないか?あいつをどっか、中央ギルドとかにでも異動できるってんなら、そうしてもらって隠し通すって手もあるけど、たぶん、それは無理だろ?」


「た、確かに」


ロウが同意する。


「なら、あれこれ騒がれる前に、バラして黙らせとくのが一番じゃね?なんだったら、フィーヴの髪の毛1本でもくれてやれば、口止めにもなるだろ」


トーカスはそう言い残して、マイスのおかわりを取りに野菜の山の所へと戻っていった。


「……前から思ってたんだが、あいつ、ほんとにただのコッカトリスか?」


「やけに、人間臭い感じがしますね……」


トーカスの後ろ姿を見つめながら、ジェルマとロウが呟く。


「会ったばかりの頃は、こんな感じじゃ全然なかったんですけど……人と一緒に生活してるから、染まってきてるんですかね……?」


「……まぁ、あいつらについては、もう、深く考えるのはよそう」


そう言ってジェルマはふぅ、と息を吐いた。


「とりあえず、トーカスの案で行こうと思うが、どう思う?」


「いいと思います。とりあえず、街には親戚として、お二人のどちらか……まぁ、テイムしてますし、シエラ嬢が適任だと思いますが、保証人になってもらって彼を連れて入って、後は上層部とバルディッドさんに根回し、というところですかね」


ジェルマとロウの言葉に、シエラは物凄く辛そうな表情を浮かべながら、わかりました、と頷いた。


「ジェルマさん」


両手を組んで、真剣なまなざしを向けてくるシエラ。


「どうした」


「保証金、どうかギルドの経費で落とさせてください」


「………まぁ、しょうがない」


「よかった!!!」


両手を上げて喜ぶシエラを見て、ロウは少し、彼女が不憫になってきたのだった。

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