一難去ってまた一難
バーチ達は、気を失っているバルディッドが目を覚ましてしまう前に、と、戻ってきた調査隊の面々と一緒に手早く片付けを行って、街へと向かって行った。
ただ、ロウだけは、「仕事ですから」と、残って一緒に調査をすると、申し出たので、そのまま、一緒に行動している。
「とはいえ、やっぱり初めてだとこうなるよねー…」
トーカスに痕跡がわかる、と言っていた件について、どういうことか詳細を聞いてみたところ、サクラが例の竜種と接触している、ということだったので、サクラが今いるところまで、とりあえず移動することになったのだが。
そして現在、サクラがいる辺りまで移動してきたわけなのだが、トーカスの背中に縄で括り付けておいたロウが、白目をむいて気を失っているため、どうしたものかと思案しているところだった。
「やっぱり、初めてだと縄は必要よね」
なんでそんなことをする必要があるのかと、かなり不信感を持たれていたのだが、万が一に備えての命綱だからと、なんとか説得することができて本当によかった、とシエラが自分を褒めていると、
「とりあえず、縄をほどいてくれ!男に抱き着かれたって全然嬉しくない!」
トーカスがガスガスと頭を突いてくるので、シエラはわかったから、と、嘴をぺしんと叩いて落ち着かせた後、縄をほどいてロウを地面へとおろした。
「うーん。。。とりあえず、起こさないとだよね」
はぁ、と小さくため息をつくと、シエラはロウの体をゆさゆさと揺さぶった。
「おーい、ロウさん?ロウさーん?……全然起きないけど、これ、ダイジョブかなぁ。…ロウさん?ロウさん?大丈夫ですかー??」
「ハッ!?」
覚醒したロウに、シエラはほっと胸をなでおろしながら、大丈夫ですか?と声をかける。若干、焦点がまだ定まっていないのか、視線をふよふよと漂わせるロウに、シエラは着きましたよ?と声をかけると、彼は一言、「大丈夫」と、声を裏返しながら答えた。
(…わかる、わかりますよ、ロウさん。最初は誰だって、そうなります、絶対)
今まで、自分以外にコッカトリス急行を利用した人間がいなかったため、誰ともこの恐怖と辛さを共有出来ずにいたのだが、ここにとうとう同士が爆誕した、と、シエラは密かに心の中で喜んだ。
なんだか、微妙な表情を浮かべている気がするが、そこはあえて無視を決める。
「…ここにいるのですか?」
ロウに聞かれたので、そうみたいです、とシエラは答えると、チラリとトーカスの方を見る。
「あぁ、もうそろそろで…お、サクラ、ここだ」
トーカスの視線の先を見ると、ガサガサッと音を立てながら、森の奥からサクラと一人の男の子が一緒に姿を現した。
年のころはまだ10代前半くらいかと思われる男の子の登場に、シエラは思わずぎょっとする。
「サクラ!?ちょ、その子はどうしたの!?」
思わず叫び、サクラに駆け寄る。
(まさか、迷子?いや、でも、森ではぐれたとか、緊急の調査依頼は入ってなかったし、門を出る時も何も言われなかった…まさか、捨てられて…?)
考えたくもない可能性が頭をよぎるシエラに、サクラは頭を下げながら、答えた。
「彼の件でこちらまで来られたのかと思いましたので、一緒に連れてきました」
「……へ?」
サクラの言葉の意味が分からず、少し混乱するシエラ。
「あぁ、ご苦労。……あんたがサクラに接触して、仲間になりたいって言ってきた奴か?」
そんなシエラをよそに、トーカスがちらりと男の子の方を見て聞くと、彼は小さく頷いた。
「ここに来れば、街でのんびりと暮らすことができるって聞いたんだけど?」
「……色々とツッコミたいところだが、とりあえず名前を聞こうか」
ため息交じりにトーカスが呟くと、彼はちらりとシエラの方を見つめて口を開いた。
「俺の名前はフィーヴ。よろしくね?」
にっこりと笑って自己紹介してくるフィーヴに、シエラはハッと我にかえる。
「私はシエラ。よろしくね?フィーヴ。あの、ところで…フィーヴはどうしてこんな所にいるの?迷子かな?」
シエラが聞くと、彼はキョトンとした表情を浮かべて、こてん、と首を傾げて答えた。
「里の外が気になるからちょっと、遊びに出たんだけど、知らない間にみんないなくなっちゃってて。しょうがないから、そこの山で過ごしてたんだけど、最近、コッカトリスの仲間になれば、街でのんびり過ごすことができるって聞いたから」
「ちょちょ!」
うっかり里から離れすぎたとかそんな話かと思っていたのだが、どんどん話の方向がおかしくなってきたので、思わずシエラは待ったをかける。
「誰よ、コッカトリスの仲間になれば街でのんびりできるとか言ってる奴!なんの話よ、そもそも!」
「あぁ、その話なら、ブルーバードから聞いたよ?人に住むところと食べ物も提供してもらえるから羨ましいって」
フィーヴの言葉に、シエラは目が点になる。
「なんだ、その噂は」
呆れたようにコーカスが言うと、さあ?とフィーヴは肩をすくめた。
「でも、その話、よく聞くよ?だから、たまたま見かけたその子に、俺も仲間にして欲しいって言ってみたんだよね」
ニコニコと笑って答えるフィーヴに、シエラはただ、口をパクパクとさせていた。
「街で一緒に暮らすなら、いろいろと守ってもらうことがあるぞ?」
トーカスが言うと、もちろん!とフィーヴは頷く。
「まず、人を襲わない。これは絶対だ」
「問題ないよ」
トーカスの言葉に、彼は小さく頷く。
「次に、自分の食い扶持は自分で働いて稼ぐこと」
「うーん、まぁ、しょうがないかぁ」
ふんふん、と彼が頷く。
「最後に、先輩である俺の言葉に従うこと」
「いいよー」
「よし、なら問題ない」
「ちょっと待った!」
問題ない、とトーカスが満足げに答えると同時に、シエラが待ったをかけた。
「ちょっと、何の話してるの!?というか、今の話の流れ的に、モルトで一緒に住むってこと⁉︎」
状況が飲み込めないでいたシエラが聞くと、トーカスは何か問題でも?と首を傾げた。
「当たり前でしょ!そもそも、この子のご両親が心配して探してるかもしれないじゃない!まずは、家に送り届けないと」
さっきの会話のながれから、嫌な予感がめちゃくちゃするのだが、なんとかその可能性を打ち消したくて、シエラが叫ぶ。
「あぁ、両親はもうとっくに死んでるから気にしなくて大丈夫だよ?里にいたのも、みんな移動しちゃったみたいで、誰も居なかったから、戻ってもしょうがないんだよねー」
「あ……」
フィーヴは平気そうな顔をしているが、シエラはなんだが悪いことを聞いてしまったと、慌ててごめんね、と謝る。
「気にしなくてもいいと思うぞ?」
コーカスに言われて、シエラはそんな訳には、と言おうとした時だった。
「龍のやつらはいちいちそんなことを気にする種族ではない」
コーカスの一言に、シエラは一瞬、思考が停止する。
「どうかしたの?」
ひょこっと顔を覗いてくるフィーヴを、シエラはじっと見つめながら、恐る恐る聞いてみる。
「り、りゅうって……?」
聞かれてフィーヴはにっこりと笑って、そうだよ?と答える。シエラは一縷の望みがついに潰えてしまった、と、その場に崩れ落ちた。
※補足※
ざっくりと、竜種と龍種については、以下のような形で、この世界では分けてあります。
竜種
人化不可で人語を喋ることができないタイプ。人語を理解はできる用だが、意思疎通ができない場合が多い。
龍種
人化可能で人語を喋ることも可能なタイプ。もちろん、会話もできるので、意思疎通も可能。




