その道の権威の人だからといって、一緒に仕事がしたいかと言われると、それは別のお話です。
「本当に、申し訳なかった!」
「話は聞いてたんだけど、まさかこんなにすぐに到着できるなんて知らなくて…」
「まさか、コッカトリスの背中に乗って移動するなんて思ってもいなかったもので」
ぺこぺこと頭を下げて謝る調査員たち。ぎろり、と彼らを睨みつつも、大量に追加で出された野菜をガツガツとトーカスと取り合いながら食べるコーカスが、何も言ってこない様子に、彼らはほっと胸をなでおろしていた。
「いえ、こちらもどのくらいで到着するかをお伝えしておくべきでした」
普通に人が歩くペースで移動するとなると、合流までに丸1日以上はかかる距離にあったので、今日連絡して、この数時間で合流するなんて思うのは無理があるし、普通は思わない。
シエラはぺこりと頭を下げた。
「とりあえず、もう一度自己紹介させていただきますね。私はモルト第一ギルド所属職員で受付業務を担当しているシエラと言います。彼らは私の従魔で、こっちからコーカスとトーカス、ポチに、プルプルです」
シエラが紹介すると、調査員たちもよろしく、と頭を下げた。
「俺の名前はバーチ、王都で冒険者をやってる。パーティーでは主に斥侯として活動してる」
(……物凄く体格がいいから、てっきり盾役だと思ってた)
筋骨隆々な男性がよろしく、と手を差し出してきたので、シエラもよろしくお願いします、と手を出して握手をする。
「私はミサ。バーチと一緒にパーティーを組んでる魔法使いよ」
「僕はロウ。中央ギルドの職員で、今回のこちらの調査チームのとりまとめをしています」
いかにも魔法使いといった風貌の綺麗な茶髪のログヘアーのお姉さんと、エルフの美男子が小さく頭を下げたので、シエラも小さく頭を下げて、よろしくお願いします、ともう一度答えた。
「ところで、そのスライムも何か特殊スライムなの?」
不思議そうにプルプルを見つめるミサに、シエラは頭を横に振る。
「いいえ?ただのスライムですよ?」
「え?そうなんですか?」
驚いた表情を浮かべる三人に、シエラは苦笑する。
(……コッカトリスとシルバーウルフがいたら、ただのスライムとは思わないかぁ)
「初めてテイムした従魔だったので、このまま契約してるんです」
実際にテイムスキルの取得のため、初めて自らテイムしたのはプルプルが初めてなのだ。
嘘は言っていない。
にっこりと笑って答えるシエラに、三人は納得したように頷く。
「あぁ、なるほど。そういう方、いらっしゃいますもんね」
都合よく受け取ってもらえたので、そうですそうです、とシエラは頷いた。
「ところで……他の方たちは、今は調査に出てらっしゃるんですか?」
いくつかの箇所に分かれて派遣されている、とは聞いているが、1組3人。それも、そのうち1人はギルドの職員で明らかに非戦闘員では、どう考えても効率が悪いし、そもそもここには例の変態が一緒にいるはずなのに、姿が見えない。
そう思ってシエラが聞くと、冒険者の二人組はうんざりしたような表情を浮かべ、ロウが思いきり申し訳なさそうな表情になった。
「……実は、第4ギルドの職員が1名、昨日の夜から姿が見えなくなっていたので、今、他の調査員はみんな彼を探しに出ているんです」
「うわぁ」
その言葉に思わずシエラが憐みの表情を浮かべながら声を漏らす。声が出ていることに気付いて慌てて口をふさぐが時すでに遅く、ロウがうぅ、と泣き出したので、隣にいた2人がまぁまぁ、と慰めた。
「あなた方が来てくれることを知っていたら、たぶん、大人しくして…いや、でも、んー…まぁ、居たかもしれないのですが、来ることを知る前に、すでにいなくなってしまっていたので」
少しだけ泣いて落ち着きを取り戻したロウが説明を続ける。
「取り合えず、戻ってきたら顔合わせをしていただければと思います。あぁ、そういえば、報告は聞いていらっしゃいますよね?」
聞かれてシエラは、はい、と頷いた。
「竜種がいるかも、というお話ですよね?」
それを聞いて、今度はロウが、はい、と頷く。
「正直、我々もあまりよく分かっていないんです。彼が言うには、竜種がいる痕跡があった、ということなのですが、いかんせん、興奮した彼の話を聞いても、さっぱり要領は得ないし意味も分からないしでして」
「あぁ……なんとなくわかります。どこか突き抜けてる方は、ご自身の知識量が半端ないので、一般的な知識の範囲の認識がズレてらっしゃいますから。…会話の最中の意味が分からなかった単語について質問すると、どんどん話の方向がズレていったりすることも経験上ありましたし……」
依頼の受領をするときに、何度か似たような経験をしたことがあるな、とふと思い出しながら、小さくこくこくと頷きながら答えるシエラ。
「わかっていただけますか……」
ロウがうぅ、とまた泣き出した。
「まぁ、そう言うことなんで、詳しい説明は、奴が戻ってきてからってことなっちまうんだが」
ロウの肩をポンポンと叩いて慰めながら、喋れなくなったロウに変わってバーチが続ける。
「はい、わかりました。正直、会いたくない気持ちでいっぱいなところはあるんですが」
そう言ってチラリとコーカス達に視線を移すシエラを見て、バーチとミサは、あぁ、と頷いた。
「ん?どうかしたか?」
「え?あ、ううん。大丈夫。何でもないよ」
目の前にあった野菜を平らげて満足したトーカスと視線が合ったシエラ。話しかけられて、慌てて頭を横に振る。
「竜種の件、詳しいことを知ってる人が今いないって聞いてたところだったから」
「りゅうしゅ…龍種!」
「え、なに、急に!?」
急に叫んだトーカスに驚いたシエラ。パチパチと目を瞬かせていると、そういえば言い忘れてたことがあったわ、とトトト、と近づいてきたその時だった。
「まずい!!」
バーチは叫ぶと同時に、素早くシエラとトーカスの方へと駆け寄った。
「コッカトリスじゃないですかー!!!!」
「え?」
突如、男性の叫び声がしたかと思うと、メガネをかけたふんわり海藻ヘアの男性が飛び出してきて、トーカスへと飛び掛かってきた。だが、突然現れた男性は、バーチにガシッと羽交い絞めにされた為、トーカスに飛びつくことはできなかった。
「は、放せ!邪魔をするな!」
「やめろ!俺はまだ死にたくない!」
「……!!バルディッドさん!一体、どこに行ってたんですか!?」
バタバタとバルディッドとバーチが攻防を繰り広げているところに、ロウが叫ぶ。
(もしかしてあれが、噂の)
ところどころに白髪が交ざった赤髪は少し乱れていて、着ているローブもボロボロで、いたるところに汚れがついており、顔にも目立つような汚れがあちこちに付いていた。
その様子から察するに、話しに聞いていた通り、相当あちこちを調査して回っていたのだろう。
そして。
その後ろから、冒険者たちが姿を現したのだが、まるでゾンビのように虚ろな目をしているのを見て、どれだけ彼と一緒に調査をするのが大変だったのかを、シエラはヒシヒシと感じていた。
「君たちが例のコッカトリス君たちかね!?」
羽交い絞めにされたままの状態でバルディッドが叫ぶ。
コーカスとトーカスは、訝し気にバルディッドを見ると、そっとシエラの後ろに隠れるように移動した。
「…ちょっと、なんで私を盾にしてるのよ。そっちの方が私より強いくせに」
「ん?いや、なんとなく……」
「……あれは、たぶん、関わったらダメな奴だ」
コーカスはどうしてそう動いたのか、自分でもよく分かっていない(本能的に拒否した)ようで首を傾げていたが、トーカスはバルディッドを完全にヤバい奴と認定しているようで、ふい、と視線をそらして、そう答える。
「とにかくちょっと落ち着いて下さい!というか、一体今までどこにいたんですか!みんな探してたんですよ!?」
ロウがバルディッドに向かって叫ぶと、彼はそうなのか?と悪びれる様子もなく、首を傾げていた。
「ちゃんと、あっちの方が少し気になるから見てくる、と言って、出かけたはずだが」
「あっちだとかこっちだとかそっちだとか言われても、我々にはわからないんですよ!せめて方角で教えてください!それに、行ったら行ったで中々戻ってこないじゃないでですか!困るんですよ、1日中所在が分からなくなったりされると!」
「それは仕方がないだろう?行ってみて気になるものがあったら調査するのに時間がかかることだってあるんだ」
「だから、そういう場合に備えて何人か冒険者の人を一緒に連れて行ってくださいと、あれだけお願いしているじゃないですか!なのに誰もつけずに毎度毎度ふらふらふらふらと!」
「いやぁ、気になったらすぐにでも行かないと気が済まない性分でねぇ」
ロウがぎゃんぎゃんと叫んでいるが、バルディッドには一向に響いていないし、きいている気配もない。
「「うわぁ……」」
シエラとトーカスの声が重なる。二人とも、ロウが不憫すぎて、思わず声が漏れてしまったのだ。
「まぁそんなことより!」
「そんなこと!?」
ロウの小言もそんなことの一言で済ませると、バルディッドはキラキラとした眼差しをコーカス達の方へと向けて、つかつかと近づいてきた。
「私の名前はバルディッド。第4ギルドの職員だ。君が、噂の、第1ギルドの臨時職員のコッカトリス君たちかね!?」
バルディッドに聞かれて、トーカスはまた、シエラの後ろへと姿をササっと隠す。
「……はい、彼らは私が使役しているコッカトリス達で、コーカスとトーカスと言います。申し遅れましたが、私は」
「コーカスにトーカス!良い名前だ!それで!?君たちの身長や体重なんかを教えてくれないかね!?あぁ、研究用に抜けた羽はもらってもいいかい?もしよければ、血を少しでも分けて」
「分けるかぁ!」
「ぐはぁ!」
シエラの自己紹介を聞くことなく、矢継ぎ早に質問をしてくるが、内容がどんどん気持ち悪くなってきた為、こらえきれず、トーカスが思いきりバルディッドに蹴りを入れた。
「し、喋った!!なんて素晴らしいんだ!」
「話が進まん。ちょっと黙っててくれ」
「ぎゅ」
蹴りを入れられたことよりもトーカスが喋ったことに感激したバルディッドが、また、トーカスに飛び掛かろうとしていたので、バーチが後ろから、彼をまた羽交い絞めにし、首を絞めて落とした。
「ふぅ……これで話がやっとできるな」
「いや、この方は意識失ってるんで、大事なことが聞けませんが」
いい仕事をした、と晴れ晴れとした表情のバーチにシエラが思わず突っ込む。
「…もう、いいんじゃないか?俺、思ったんだけどよトーカスさんとコーカスさんなら、竜種の痕跡くらい、見つけられるんじゃないか?なぁ」
「うん?あぁ、別にそれは問題ない」
「え!?」
バーチに聞かれて、事も無げに頷くトーカスに、シエラが驚く。
「正直、そこのおっさんはいなくても大丈夫だし、むしろ俺の精神衛生上よくないから、早急にこの場から退場させたい」
トーカスの言葉に、バーチは任せろ!と頷いた。
「よし、なら、ここから先は君たちに任せることにして、いったん俺たちは街に戻ろう。こいつが目を覚ましたら面倒だからな、さっさと行った方がいい」
「いや、しかしそれではシエラ嬢の身の安全が」
「コッカトリス2匹が護衛についてて、これ以上の戦力はないと思うけれど?」
ミサが言うと、ロウは確かに、とシエラの周りを見て少し考えて頷いた。
「そうだな、では、申し訳ないが、後はお願いしてもいいだろうか?何かわかったら、これで連絡してくれ。バルディッドを街で監禁したら、準備を整えてまた戻ってくる」
「………わかりました」
あんな状態の人と一緒にずっといるよりはまだマシか、とシエラは小さく頷き、了承した。




