再チャレンジ!
お久しぶりの更新です。
遅くなりました。。
王都から調査団がやってきて、一週間が経った。
かなりの人数で調査に当たっていたこともあり、ある程度の現地調査も終わりが見えてきた頃。
「コーカス達を連れて、現地の調査団のところに合流?何でそんなことしないといけないんですか?」
思いきり不満そうな表情を見せながら、シエラはジェルマに言った。
「バルディッドのこと、覚えてるか?」
頭をガシガシと掻きながらジェルマに聞かれて、シエラは小さく首を傾げつつ、何度か聞かれた名前を繰り返して、あぁ!と思い出す。
「第4ギルドの変た…魔物の調査に命かけてるちょっと危ないおじさん!」
「おま……一応あいつ、あれでもその道のお偉いさんから一目置かれてるような奴なんだぞ?」
シエラの言葉に思わず顔を引きつらせるジェルマに、シエラは知らないですよ、とそっぽを向いた。
「はぁ…そのバルディッドがな、お前たちが調査してた方向を担当してる調査団に混ざって一緒に調査してたんだが、昨日報告が上がってきてな。どうも、ちょっとヤバめのランクの魔物がいるかもしれねーって話なんだよ」
真面目な顔をして話すジェルマに、シエラは興味なさそうに、はぁ、と答える。
「で、そのバルディッド曰く、気配的に会話が成り立つ可能性があるらしいんだが、人語を解すかは不明だから、人語を解して意思疎通の図れるうちの職員を寄越せと連絡がきたんだよ」
「なんですか、そのおっそろしくふわっとした曖昧な情報をもとにした依頼」
思いきり顔を顰めるシエラの、ジェルマは言葉を詰まらせる。
(当たり前じゃない。何事も事前調査や確認は必須だって散々叩き込んできた本人が、こんなに曖昧なことしか言わないなんて、絶対におかしいじゃない)
するとシエラの隣で珍しく大人しく話を聞いていたトーカスが、会話に入ってきた。
「あのさ、その魔物が何なのか、そのバルディッドってやつは見当がついてるのか?」
聞かれてジェルマはうーん、と唸り、答えるかどうか、迷っているような素ぶりを見せる。
「見当がもしついてないなら、そもそもそんなかもしれねーなんて話だけで俺らを連れて行けなんて言うはずねーよな?」
さらにトーカスに言われて、ジェルマはわかった、と腹を決めて口を開いた。
「あいつが言うには、どうやら竜種の可能性があるらしい」
「「………はい?」」
思わずシエラとトーカスの声が重なる。
「ちょっとちょっと、ジェルマさん?今、竜種って言いました?」
シエラに聞かれて、ジェルマは言った、と頷く。
「いやいやいや、何言ってるんですか!?ワイバーンの目撃情報ですら稀だって言うのに、迷宮以外で竜種なんて、いるわけないじゃないですか!?」
本気で言ってるの!?と若干心配そうな表情を浮かべながらシエラが言うと、ジェルマは特大のため息をつきながら答える。
「んなこたぁ俺だってわかってるよ。もちろん、ジェシーに確認したさ、間違いねーのか?って。でもあいつが『バルディッドは魔物がかかわることに関しては異様な鋭さと運を発揮するから、可能性は低くない』ってそう言ったんだよ」
「そうそう。ただ、竜種なんてものが近くにいたら、もちろん、目撃情報がもっと出ててもおかしくないはずなのに、そう言った情報は全くない。だから、ギルド側としてもどちらかがわからないから、結果、調査するしかないんだよ」
部屋の入り口からいきなり声がしたので、シエラが振り返ると、そこにはアオとミュシカの姿があった。
「…なら、そのままバルディッドさんが調査すればいいじゃないですか。魔物に詳しい人だってことですし、本人もそう希望するんじゃないですか?そもそも、その人って魔物の調査とかに生涯を捧げてる変…ゲフン!さ、捧げてる人なんですよね?」
シエラは小さく頭を下げた後、不思議に思って聞いてみる。
「実際、彼の魔物に関する知識やらなんやらは凄いからね。魔物学の権威でもあるし、バルディッドにそのまま調査に当たってもらえば、と、最初はちょっと思ってたんだけどね」
アオはシエラの問いに少し苦笑しながら答える。
そして、その答えの続きを、ミュシカが小さく頷きながら続けた。
「現地からの報告で、バルディッドさんについては、突発的に一人で行動していなくなったりして、同行している者たちから元々苦情が出ていたのですよ。それがさらに、竜種の痕跡を見つけた、と言い出してからは、昼夜問わずふらふらふらふらと動き回るせいで、他の者たちが碌に休息も取れない状況が続いていて、彼を外すよう、こちらに報告と合わせて要望が上がってきたんですよ」
「うわぁ……」
「完全に、アカン奴だな、それ」
シエラは心底同情するような表情を浮かべ、トーカスもうわぁ、と少し引いていた。
「そう言うわけで、彼の言う通り、本当に竜種であった場合、可能であれば対話でことを済ませたいところではあるし、もし違ってたとしても、彼が竜種と間違えるような個体がいて、最悪、討伐せざるを得なくなった場合、今派遣してる者達だけでは少々心もとないからね」
アオの言葉に、シエラは大きくため息をつきながら、両手で顔を覆った。
「……だから、戦力にもなりえて、かつ、コミュニケーションが取れる可能性が高いコッカトリス達を現場に導入、テイムしているのが私なので、私もいっしょに行け、と、そう言うことですね」
「そうそう。さすがはシエラ嬢。理解が早くて助かるよ」
あぁぁぁぁ、と大きく呻き声をあげながら、シエラはその場に崩れ落ちる。
「……あの、流石に、竜種がいるかもしれない、という現場に派遣されるのであれば、今回こそは、危険手当って出ますよね!?」
くるりと向きを変えて、ジェルマの方を見るシエラ。目が合った瞬間ジェルマはにっこりと笑って、頭を横に振った。
「出るわけねーだろ?だって、いるかもしれないってだけの現場だぞ?」
「嘘でしょう!?」
愕然とするシエラに、ジェルマはまぁまぁ、と肩をポンポンと叩く。
「冒険者の奴らだって、ちょっとランクの高そうなやつが相手の依頼だからって、態々危険手当なんて言ってこないだろ?」
「一緒にしないでくれます!?彼らは自分の判断で受けるかどうかを決めてるんです!それに、そもそも高ランクの依頼の場合は、そういった危険性も鑑みて依頼料を設定してあるんですよ。知ってるでしょう!?」
本気で言ってんのかこいつ、と思わず叫ぶシエラに、ジェルマはあははは、と笑ってごまかすことを決める。
「もう、我儘だなぁ…あ、そうだ!なら、無事に戻ってきたら、一杯奢ってやっからよ」
「いりませんー!それより手当出せーーー!!!」
鬼の形相で叫ぶシエラを見て、アオは楽しそうにケラケラと笑った。
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