代休‐1
朝日が窓から差し込んでくる。いつもその前に朝の訪れを教えてくれる目覚まし時計は、今日はいつもと違い、カチコチとゆっくりと時を刻んでいるだけだった。
「ふぁ……もう朝かぁ……」
太陽の光を感じて目を覚ましたシエラは、のろのろと起き上がると、大きくの伸びをしたあと、そのまま立ち上がってベッドを出た。
「今日はえらくゆっくりだな。仕事は休みなのか?」
机の上で何やら他のコッカトリス達と話をしていたらしいコーカスが、シエラが目覚めたのに気づいて声をかけてくる。
「おはよう、コーカス。そうだよ、明後日からとうとう始まるからねー。しばらく休みがなくなるから、みんなで交代で代休とってるって話したでしょ?私は、今日がその日」
そう答えると、バサバサとトーカスが、ちょこんと肩まで飛んできた。
「なぁシエラ、腹も減ったし、急いで食堂に行こうぜ?」
肩に飛んできた鶏をガシッとシエラは捕まえると、じっと目を凝らして彼を見つめる。
「お、おい、シエラ…?なんだよ、そんなに見つめられたら照れる」
「ねぇ、トーカス!なんだか前よりちょっと小さくなってない?」
元々は人と同じか、それよりも大きいサイズであるコッカトリス達は、普段は自分たちの体のサイズを、普通の鶏サイズまで小さくして過ごしてくれているのだが、なんだかそのサイズが、以前よりも少し小さくなってきている気がしたのだ。
「あぁ、なんだ。それなら、身体変化のスキルレベルが上がったから、前よりも調整ができるようになったんだよ。シエラ、いつも肩に乗ったら重たいって怒ってただろ?だから、ちょっと体をもうちょっと小さくしてみたんだよ」
「スキルレベルが上がったの!?」
シエラが驚いたように言うと、今度はコーカスが、当たり前だろう、と首を傾げながら答えた。
「毎日スキルを常時使っているんだ。この辺りのレベルまでなら、上がっても不思議ではないだろう」
そう言われて、シエラはこのサイズが元のサイズではないことを思い出す。
「そうでした…ていうか、なんか羨ましいスキルよね」
思い通りに体を変化させることができる、ということは、少し太ったかも?と思っても、すぐに痩せられる、ということではないか!とシエラはじっと二人を見つめた。
「ダイエットに使えると思ったら大間違いだぞ?身体変化はあくまでも見た目を変化させるだけのスキルなんだ、実際に身についてしまった贅肉が落ちるわけじゃない」
「うっ………」
トーカスにズバッと言われて、シエラはがっくりと肩を落とす。
「とりあえず、ちょっと顔洗ってくるから。先に食堂に言ってて。はい、これ、食堂で渡すカード」
コーカス達専用の食堂カードを渡すと、シエラはパタパタと外の洗面場所へと移動した。
「あ、シエラ姐さん。おはようございます」
「おはよう、オーリ。オーリも今起きたの?」
タオルを横に置き、水を蛇口から出すと、手に取ってそれをパシャパシャと顔にかけて洗う。
「いえ、私はもう、さっき食堂で朝食をとったところです。出かける前に歯磨きしてからと思って」
よく見ると、確かにすでに、服装がパジャマではなくなっていた。いまだにパジャマ姿のシエラとは大違いである。
「規則正しい生活してるねー。今日はどこか出かけるの?」
顔を洗い終え、水を止めて、タオルで顔を拭きながら聞くと、はい、とオーリが答えた。
「…明後日からあれが始まるじゃないですか。ギルドからある程度支給されるとはいえ、支給品はあくまで必要最低限なんで、今日のうちにいるものを買いそろえておこうと思って」
若干沈んだ顔になるオーリに、シエラは苦笑した。
「まぁ、そうよね…正直、代休とかって言われてるけど、他のみんなもおんなじように買い出しで潰れたって言ってたし」
「姐さんは、自分の分に加えてコッカトリスさんたちの分もだから、余計に大変ですよね」
オーリの言葉に、シエラは思わず、手に持っていたタオルをポトリと落とす。
「あ、タオル」
「忘れてた!!!!!」
叫ぶシエラに、タオルを拾おうとしたオーリは驚いてびくりと体を震わせた。
「自分の分の用意のことしか頭になかった!!やば、市場ってもうほとんど閉まってる時間よね!?まずいー!!オーリありがとう!」
「あ、姐さん!?タオル!!」
シエラはバタバタと自室へと走って行く。オーリは一人、シエラが落としたタオルを拾うと、苦笑しながら、仕方ないなぁ、と言って、タオルを部屋へと届けるため、シエラの後を追った。




