モルトギルマス会議
ジェルマとトーカスが戻ってきて、1週間が経過した。
「調べてみたが、やはり迷宮からオークが出たって線はなさそうだ。迷宮に関しては出入口のところに昼夜問わず、うちの職員が交代でついているし、そもそも、オークが迷宮から出てきてたんだとしたら、街中にもっと被害が出てるはずだ」
ジークがペラペラと資料をめくりながら言う。ジーク以外のギルドマスターたちも、確かにそうだな、と頷く。
「でも、そうなると、オークはどこから来たって言うの?まさか、オークが降って湧いて出てくる、なんて言わないでしょう?」
ジェシカの言葉に、ジェルマはため息をついた。
「わかってる。だから、今度うちで臨時生態調査を行うことになった。で、そこで相談なんだが…」
ちらり、とジェルマはジェシカの方を見る。
「第4ギルドの方から、魔物に詳しい職員を何人か回してほしいんだが、いけるか?」
その言葉に、ジェシカはもちろん、と頷いた。
「正直、そっちの生態調査に参加させてもらえるのは助かるわ。私が止めたところで、聞きやしないのが何人かいるから、そいつらを派遣するわ」
その言葉に、ジェルマの顔が若干引きつる。
「…言っとくが、シエラと同行はできないぞ?あいつは単独でコーカス達と一緒に動かす予定だからな」
釘をさすように答えるジェルマに、ジェシカは若干不服そうな顔をしながら、そんなことくらいわかってるわよ!と、座っていた椅子にもたれかかりながら答えた。
「なぁ、最近よく、お前のところのシエラって娘の名前をちょくちょく耳にするんだが、コッカトリスをテイムしてるって噂はほんとなのか?」
興味津々、といった顔で、第3ギルドのギルドマスターであるヴィクターが身を乗り出しながら聞いてきた。
「ほんとよ?しかもそのコッカトリス達、人並みに喋って意思の疎通もばっちり。会話だって問題なくできるわよ?」
「それはすごいな…」
ヴィクターがふむ、と何かを考えるように呟く。
「魔獣のテイムもしてるんだから、うちに異動させた方が絶対いいと思うんだけど、ジェルマが全然許可してくれなくて!」
信じられないでしょ?と他の二人に同意を求めるそぶりを見せるので、ジェルマは当たり前だろうが!と反論した。
「そもそもあいつはうちの受付嬢だと何度言えばわかる!本人だって断ってただろうが!」
「あら、だってそれは、ジェルマが話の最中に割って入ってきたから、あなたに遠慮してじゃないの?」
「俺が割って入る前から断られてたろうが!」
ギャーギャーと言い争いを始めたところで、今度はジークが参戦する。
「あのコッカトリスは単独でうちの迷宮のボスを撃破するくらいの実力を持ってるみたいだし、うちにいたほうがいいんじゃないか?」
「おい!?」
今度はお前かよ!とジェルマは目を丸くする。
「いや、ここのところ、新階層の探索が若干遅れ気味でなー。オルトロスを単独撃破できるほどの実力を持っているなら、ぜひ、探索に協力してもらえたらなーと思ってたところなんだが、どうだ?」
本気なのか冗談なのかわからない笑顔で聞いてくるジークに、ジェルマは勘弁してくれよ、と項垂れた。
「そういえば、こないだお忍びで来ていたボルトン家の坊ちゃんの護衛で王都まで一緒に連れてったって話だったよな?ジェルマ」
ヴィクターに言われて、ジェルマは頬がひくつく。
「護衛までこなせるなら、一匹で構わないから、うちに異動させてくれよ」
ヴィクターの言葉に、ジェルマは言葉を失った。
「お、お前ら…好き勝手なことを抜かしてんじゃねー!」
うがぁ!とジェルマが叫んで立ち上がると、他の三人は冗談だよ、とけらけらと笑った。
「冗談に思えないから言ってるんだろうが!何度も言うが、シエラはうちの大事な受付嬢なんだ!あいつがいなくなったらうちは確実に回らなくなる!だから異動は絶対にさせん!わかったな!!」
その言葉に、はいはい、と苦笑しながらジェシカは笑った。
「取り合えず、うちからそっちに派遣するメンバーについては、後でリストを送るわ。開始予定は7日後でいいのよね?」
さっきまでとは打って変わって、真剣な表情になるジェシカに、ジェルマは深呼吸をして気持ち落ち着けると、あぁ、と頷いた。
「迷宮の方でも、何か異変がないかどうか、冒険者たちにしばらくの間、確認を毎回するようにしておく」
「護衛で行き来しているときに、何か情報が入ったときは共有するようにするよ」
ジークとヴィクターの言葉に、ジェルマは助かる、と、お礼を言って頭を下げた。




