会議の後
「あれ?今日はあのコッカトリスは一緒じゃないのかい?」
もうすぐでお昼に差し掛かるという時刻に、中央ギルドのギルドマスターの部屋の主に開口一番に言われた言葉はそれだった。
「…俺たちの話聞いてもつまんねーからって、もっと面白そうなところについてくって、今日はそっちについてってるよ」
ジェルマの言葉に、確かにそうだね、とアオは笑うと、来客用の椅子にジェルマを座るように促し、自身もその向かい側に移動した。
手に持っていた書類をジェルマに渡し、昨日の会議でジェルマから報告があった内容についての、今後の方針と対応予定を簡単に報告した。
「しかし…ほんとに君のとこの職員は有能だね」
アオはそう言って、手に持っていた資料をバサッと机の上に置いた。
そこには、シエラが掲示板にジェルマ宛に記載していた内容が書かれている。
ジェルマはそれを見て、肩をすくめた。
「ったく…各ギルド内の掲示板の内容は、基本的に非公開のはずだろうに…。これだから中央ギルドの連中は。ま、そこについては否定はしねーよ。能力は申し分ないし、まじめに働いてくれるなら、俺としてはその動機がどうであれ、気にしねー」
シエラが自身の能力を上げ、仕事を頑張っているのはひとえに生活する為、且つその為の収入を効率よく稼ぐためである。
が、別にそれが悪いことだとは思わないし、それでしっかり働いてくれるというのであれば、ジェルマとして文句などあるわけもなかった。
「彼女、こっちに来てくれないかなぁ」
アオがにっこりと笑って言うと、ジェルマは笑顔で、無理だな、と答えた。
「あいつは残業が嫌いなんだよ。中央ギルドなんて来たら、定時上りなんて夢のまた夢になっちまうからな。断ると思うぜ?それに何より、あいつに抜けられたら、俺らも困るんでな?うちのギルドの大事な戦力だからな」
ジェルマの言葉に、アオはふふ、と笑いながら、今は諦めるよ、とひらひらと手を振った。
「そうそう、そういえば、さっきジェルマ宛に掲示板にまた、メッセージが記載されていたようだよ?」
アオに言われて、ジェルマはなに?と眉をピクリと動かした。
「どうやら、モルトの周辺でオークが出たらしい」
「な…!?間違いないのか!?」
ジェルマが思わず立ち上がると、まぁまぁ、とアオはジェルマに魔法板を渡した。ジェルマはそれを受け取ると、急いで掲示板の内容を確認する。
「…まじか………」
内容としては2通あり、最初の1通目はモルト周辺でオークの目撃情報が上がった、という内容で、現在、コーカスとシエラが調査に出ている、という内容。次の1通は、オークの討伐が完了し、他にはいなかった、ということと、そのオークがゴブリンを従えていたこと、今まで目撃情報がなかったオークの出現の為、生態調査を行う必要があるので、その承認を取ってすぐに戻ってきてほしい、というものだった。
「モルトはここに次いで大きな収入源になっている都市だからね。臨時生態調査についての許可証は、ここに発行してあるから、持っていくといいよ」
そう言って、アオは1枚の羊皮紙に、先ほどの内容が書かれた許可証を、はい、とジェルマに渡した。
「…用意がいいな」
何か企んでいるのではないかと、思わずジェルマが疑いの眼差しで見つめると、ケラケラと彼は笑って、下心なんてなんにもないから大丈夫だよ、と答えた。
「ま、最近、モルトの周辺が少しどうも騒がしくなってきているのが気になってたところだったから、ちょっとうちとしても注視しているところだった、ってだけだよ」
アオが言うと、ジェルマははぁ、と深いため息をついた。
「あ、そうそう。ちょっと急いで帰った方が今回はよさそうかなと思ったから、特例として、ゲートの使用の許可も出しておいたから、帰りはゲートを使って帰るといいよ」
各都市間を繋ぐゲートについては、基本的には緊急時にしか使用が認められていないため、こういった会議の為の行き来などでの利用は認められていない。
だが、中央ギルドのギルドマスターが、今回特例として、モルトに戻るためのゲート使用を認めるということは、早めに帰ってすぐにでも調査を開始しろ、と暗に圧をかけているということだな、と、ジェルマは特大のため息をつきながら、わかった、と答えた。
~宿にて~
「俺もやっぱりそっちについて行けばよかった…」
宿に戻ってきたトーカスが、ニュークの話を聞いて、がっくりと項垂れていた。
「お前、他人事だと思って…」
頭痛を抑えようと、こめかみをぐりぐりと抑えながら、恨めしそうな目でトーカスを睨みつける。
「だって、俺が言ってた通りじゃないか!新学期に予定している学園祭の打ち合わせで行ったら、婚約者である公爵令嬢がなぜか男爵令嬢と取っ組み合いの喧嘩をしていて、しかもそれにちょうど鉢合わせたエディが慌てて止めに入ったら、一緒にいた学友がうっかり男爵令嬢の肩を持ったせいで、公爵令嬢とその取り巻きがさらにヒートアップして収拾がつかなくなるとか…そんな現場、見たかったに決まってるじゃないか!」
興奮した様子でふんすか鼻息荒く力説するトーカスに、エディは思わず引いてしまう。それの何が一体面白いというのか、とジェルマも顔を引きつらせ、唯一話して聞かせたニュークだけが、げらげらとお腹を抱えて笑っていた。
「明日も学園に行くんなら、俺も連れていけ!絶対だ!ジェルマ、お前明日はアオって奴に呼び出し食らってたろ?それに俺は必要ないだろ?だからこれは決定事項だ!いいな!」
胸を張ってふん、と言い切るトーカスに、エディは抵抗しても無駄なことを悟り、わかったよ、と項垂れた。




