兄弟でした。
(いっそ、気絶でもできればよかった。)
シエラは地面に両膝をつき、傍にあった木に両手を当てて体をしっかりと支え、嘔吐いていた。
「このまま報告を続けて良いか?」
コーカスが首を傾げながらシエラに聞いてくる。シエラは返事をしようとして、込みあがってくる吐き気を必死でこらえながら、小さく頷いた。
「…スミレたちから聞いたと思うが、遭遇したオークについては、我が討伐しておいたので問題はない。念のため、魔石も抜いておいた」
そういって、首からかけていたマジックバッグから魔石を取り出すと、ほれ、とシエラの方へと放り投げた。
「あと、後ろにいる者たちは、前に群れから巣立っていった仲間なんだが、オークとやりあった後に久しぶりに再会してな。ついでなんで周辺の状況やゴブリンについて聞いたところ、元々、はぐれのゴブリンがこの辺りには散らばっていたらしいんだが、最近急に現れたオークがゴブリンを集めて群れにしようとしていたところだったらしくてな。ちょっとした、ゴブリンの集落ができ上がっていたところだったらしい」
「………え?」
思わぬ言葉に、シエラは顔を上げる。さっきまでこみ上げてきていた吐き気もどこかへ吹っ飛んだ。
「幸い、群れはまだ小規模で、この間ほどでもなかったようでな。ついでに潰しておいてもらっているから、大事はないだろう」
その言葉に、ほっと一安心するシエラ。
「だが、オークがどこから現れたのかについては、正直なところ、こいつらもわからないらしい」
「やっぱりそうなんだ…」
シエラが呟くと、コーカスはこくんと頷いた。
「オークくらいになれば、そこそこ気配が強く感じられるからな。普通は自分たちの住んでいる縄張り近辺に現れたのであれば、すぐに索敵範囲に入り次第、警戒を強めたり、群れで対処したりするものなんだが…こいつらが言うには、本当に突然、現れたらしい」
コーカスの言葉に、シエラは唸った。
「そうだよね、この辺でオークが目撃された、なんて情報は今までなかったし、近隣でオークの被害の話とかも出たことがないし…一体どこからきたんだか」
はぁ、とため息をつくシエラに、コーカスはさぁな、と小さく肩をすくめた。
「いずれにせよ、問題になっていたオークとゴブリンに関しては問題ないし、こいつらは念のため、群れで場所を移動する予定らしい」
ちらりとコーカスは、自分の後ろに控えているコッカトリス達に視線を移した。
「ケケケ」
何を言っているのかはシエラはさっぱりわからなかったが、コーカスに対して頭を下げているところを見て、たぶん、移動する予定、という点について、肯定しているということなんだろうな、とシエラは受け取った。
「まぁ、コッカトリスに関しては、ギルドとして、ゴブリンの群れやオークほど(被害予測値の観点上)危険視はしてないから村や町なんかを襲ったりしなければ、群れを作ってても、どこで生活してても大丈夫。まぁ、冒険者と遭遇したら、追い返す程度にとどめて置いてもらえると、個人的には嬉しいかな」
シエラの言葉に、コーカスは小さく笑った。
「魔物にそれを望むな。勝てないと思ったなら、冒険者の方が逃げればよいだけのことだ。まぁ、死なないよう、希望する者は我が鍛えてやるくらいの手は貸してやる」
「上から感がすごいけど、お願いします」
苦笑しながらシエラが言うと、コーカスがケケと小さく鳴いた。すると、後ろにいたコッカトリス達が、そのままもと来た方へと戻っていった。
「あ、もう行っちゃうの?」
「あ奴らも、安心して暮らせる場所を探しているところだからな。暇ではないんだよ」
コーカスの言葉に、思わずシエラは目を見開いた。
「…そんな彼らに、ゴブリンの調査させて、しかもその群れを潰させたの?」
(なんてえげつない。)
信じられない、という表情でシエラがコーカスを見ると、コーカスは不思議そうに首を傾げた。
「今は群れを離れているとはいれ、元は我の庇護下にいた者たちだ。我に従うのは当然であろう?」
『職場を辞めた後も上司面してきて、ほんとにウザい。』
外でご飯を食べているときに、ふと、傍で食事をしている別のグループの人たちの会話で聞こえてきた言葉を思い出した。
「…あんまり、無理言っちゃだめだよ?」
「どうした?急に」
怪訝そうな視線を向けてくるコーカスに、シエラは意を決して、コーカスが極悪人にならないよう、正してあげるのも主人の務めだと思い、諫めようと決意する。
「コーカスさ、群れを離れて独立した人たちはさ、もう、コーカスの群れとは関係なくなってるわけでしょ?そういう人に、無理言ったらだめだよ?」
「…何を言っている?群れを離れようが、我の家族には変わらぬだろうが」
意味が分からない、という風なコーカスに、シエラは、やはり魔物と人間とでは、何か根本的な考え方の違うのか、と、どう伝えればいいのかを必死で考える。
正直なところ、魔物は魔物の文化やルールがあるだろうし、そこに対して人間の考え方なんかを強制する必要はない、とはシエラも思っている。だが、人と一緒にコーカスが生活をすることを選択している以上、人間社会ではそういうことをするとどう思われるのか、なんかはキチンと理解させる必要は、少なからずあるはずだ、と、感じた以上、魔物だから仕方がない、ではだめなのではないだろうか、と思ったのだ。
「…いや、ま、群れが家族のように大事って言うのは理解するけど」
「奴は我の息子だぞ?」
コーカスの言葉に、シエラは言葉に詰まった。
「……………………え?」
シエラが目を点にする。
「奴は、我の息子で、トーカスの兄にあたるやつだぞ?」
コーカスの言葉に、シエラは今度は目を大きく見開いた。
「お、お兄ちゃん!?!?!?」
シエラが叫ぶと、コーカスはけろっとした表情でそうだが?と肯定した。




