お迎えにいきましょう
「本当に、乗って行かれなくてよいのですか?」
門を出て暫く歩いたところで、陽は完全に沈み、あたりは薄暗くなっていた。今日は月が大きく欠けておらず、月明りでも歩くには差支えはなかった。だが、それも草原地帯は、というだけの話であって、森の中に入るとやはり足元は暗く、光のトーチで視界を確保しているとは言え、見落としてしまうこともあるわけで。
森に入って数分。二度あることは三度ある、ではないけれど、足を何かにひっかけて倒れてしまったシエラに、サクラもまた、三度目の正直とばかりに、シエラに乗らないのか?と確認をした。
「…光魔法が使えればいいのに」
歩いて移動をすることを条件に、シエラはサクラの背中に乗り、そして言い訳のように呟いた。
暗い森の中を、小さな明かりを頼りに移動した経験くらい何度もある。日中と全く同じように歩けるか、と言われればさすがにそれは厳しいが、普通に注意して歩いていれば、特に問題ないくらいには動けるし、その自負もある。
だが、今日持ってきたギルドの備品の光のトーチは、魔石の蓄積魔素が残り少なくなっているようで、いつもより光が弱く、視界が確保し辛かったのだ。
「冒険者の人に貸し出ししたりすることもあるから、やっぱり定期的に備品の確認はした方がよさそうだなぁ…。あぁ、なんで全然関係ないはずのところで仕事が増えるんだろ」
ただ、コーカスを迎えに行くというだけのはずだったのに、なぜかギルドでやるべき仕事が一つふえていることに、シエラはがっくりと肩を落とした。
「コーカス様も我々に気付いてこちらに向かってきているようですね。もうそろそろで合流できそうです」
サクラに言われて、シエラは索敵スキルを展開する。
「…あ、ほんとだ。もうそろそろって…ん?」
索敵にコーカスと思われる反応が引っ掛かり、近くまできていることをシエラも確認する。だが、それと同時に、コーカス以外にも複数の反応が一緒にこっちに近づいてきていた。
「まさか、オークがやっぱり複数体いたの…!?」
このままではコーカスが危ないかもしれない。最悪、自分の身は何とか頑張って護るとして、コーカス一人より、サクラも一緒の方が、オークへの勝率は上がるだろう。そう判断したシエラは、物凄く口に出すのが嫌だったが、コーカスの命には代えられない、と、サクラの首のところに手を回し、しっかりと固定して、サクラに指示を出した。
「…私が耐えられるくらいでなら走っていいから、コーカスのところに急いで」
シエラに言われて、サクラはかしこまりました、と頷くと、思いきり地面を蹴って高く空へとジャンプした。
「なななななななんなぁ!?」
突如かかる体への負荷に、とっさにシエラの手に力がこもる。
サクラはシエラに言われたことを自身の中で考えた結果、コーカスの元へ急ぐには、障害物の多い森の中を行くよりも、空を飛んだ方が早いし安全だと判断した。そして、これならば、シエラが嫌がる走るという行為にも当たらないので、シエラも安心するだろうと、そう、彼女なりの優しさも込められていた。
「まさか」
「行きます」
ほんの僅か、空中で静止していたかと思うと、今度は一直線にコーカスのいる方向へ向かって滑空する。
シエラは嫌な予感が的中し、絶望に包まれる。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
体にかかっていた負担が一瞬溶けたかと思うと、今度はふわりと浮遊感が全身を襲い、そして次の瞬間、高速で落ちていく。
暗い森の中でまた、シエラの叫び声が響き渡り、そして、薄桃色の鶏に乗った女性は、森の中へと吸い込まれるように消えていった。
個人的にジェットコースター大好きなんですが、シエラさんはきっと苦手ですね。




