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所属変更-1

閑話休題

「あんたギルドの職員なんだろ!?なら、困ってる俺らのことを助けるのも仕事だろう!?」


ジェルマが不在にして約一週間が経過したある昼下がり。昼休憩を終えてシエラがギルドに戻ってくると、見覚えのない冒険者にアヤが詰め寄られていた。アヤも受付嬢歴が長いので、うまく対処できるから大丈夫だろう、なんてことを考えていると、アヤが手招きをしてきたので、どうしたのだろうかと、首を傾げながらアヤの側に駆け付けた。


「…どうかしましたか?」


シエラが声をかけると、冒険者達に少しお待ちくださいね、と断りを入れ、シエラをカウンターの奥に連れて行き、小さな声で事情を説明した。


「それが…彼ら、所属ギルドが潰れたとかで、こっちに所属を変更してほしいって来てるんだけど、今すぐその対応をしてくれって言ってきかないのよ」


「えぇ?所属の変更対応は、ギルド間で確認を取らないとだめだから即時対応はできないのに」


基本的に、冒険者は自身の所属するギルドを1つ決め、そこのギルドへ登録をすることが義務付けられている。これは、ギルドが冒険者たちの身元保証人となることで、依頼主が安心して依頼をかけることができるようにするため、という対外的な目的と、ギルドに所属する冒険者たちへの仕事の斡旋手数料をどこのギルドがいくらもらうのか、という部分で揉めないようにするという対内的な目的がある。

その為、所属を変更するとなると、自身のギルドで身元保証を行う必要が出てくる、というのと、所属変更に伴う、ギルド内の登録変更対応が必要になるため、即時対応はできない、となっている。


「説明しても、聞いてくれなかった、と?」


シエラが聞くと、アヤは困ったような顔で頷いた。


「身元保証義務が発生することだから、即時対応はできないって何度も説明してるんだけど、その間、いつもと同じ条件で仕事が受けられなくなるのは死活問題だから困る、ギルドが潰れたのはギルド側の都合なんだから、そっちがどうにかするのが筋だろうって言ってきいてくれないのよ」


困ったようにふぅ、と息を吐くアヤ。シエラは、仕方がない、と引き継ぎます、と答えて、冒険者たちの方へと向かった。


「お待たせして申し訳ありません。所属ギルドの変更手続きをしたい、ということでしたよね?」


シエラが聞くと冒険者の内の一人が、イライラした表情を浮かべながら叫ぶ。


「さっきっから何べんも説明してんだろ!?わかってんならさっさと対応しろよ!ったく、でけーギルドの受付嬢も使えねーのな!」


冒険者の男の言葉に、シエラはかちん、とくるも、表情に出さないよう気を付けて、にっこりと笑ったまま、答える。


「申し訳ございませんが、先ほどあちらの受付嬢からも説明をさせていただいたかと思いますが、所属変更の手続きは時間がかかりますので、即時対応はできかねます。まずは、こちらの変更手続き依頼書に内容を記載していただけますか?」


シエラが言うと、ダン!とカウンターを男は叩いた。


「さっきの奴から話聞いてなかったのかよ!?こちとら所属ギルドが潰れちまったせいで仕事が受けられなくなってんだよ!ちったぁ事情を考慮するくらいしろや!」


「申し訳ございませんが、できません」


表情を変えることなく、シエラが言う。


「おま…!俺らに路頭に迷えっていうのかよ!!」


後ろにいた男が叫ぶと、シエラは首を傾げる。


「では聞きますが、あなた方は逆に、私共に路頭に迷え、と。そうおっしゃるのですか?」


「は?何言って」


「あなたが仰っているのは、そういうことだと、理解していますか?」


シエラはそういうと、笑顔を解いて真顔で彼らを見つめる。


「冒険者の身元保証は、所属ギルドが行う。これはご存じですよね?」


「それがなんだってんだよ」


カウンターを叩いた男が思いきり不機嫌そうに顔を顰めながら答える。


「貴方たちの行動の責任を、うちが持たなくてはならなくなるんです。身元確認もできていない人間の責任をとれ、と、あなた方は今、私たちに言っているんだと、理解していますか?」


相手をできるだけこれ以上怒らせないよう、そして、相手のペースにならないよう、自分は感情的にならないように気を付けつつ、いつもと変わらない様子の、どこか諭すようなシエラの言葉に、男は言葉を詰まらせた。


「…その表情から察するに、自分たちはまっとうな人間だ、問題ないと、そう、おっしゃりたいのだと思いますが、それはあくまでもあなた方の主観です。逆に聞きますが、あなた方は見ず知らずの人間に、自分は善良な人間だから、助けると思って仕事をとにかく引き受けてほしい、と言われて、引き受けますか?引き受けないですよね?」


「それは…」


「それと同じことですよ、あなた方が仰っていることというのは。もしここであなた方の確認もそこそこに、所属変更対応をしてしまい、何か問題が起こったらどうなると思いますか?その責任は所属ギルドで被ることになり、それこそ内容によってはギルドの信用が落ちるだけにとどまらず、ギルドの運営ができなくなる可能性だってあるんです。そうなったら、今度は路頭に迷うのは私たちを含めたここの全ギルド職員になります。それを承知の上で、あなた方は、あなた方の都合を最優先として、自分たちの所属変更対応をすぐにしろ、自分たちが路頭に迷っているんだから、それを助けるのはギルドの責任だ、とおっしゃいますか?」


シエラは、目の前の冒険者たちが反論してくる様子がないのを確認すると、ふぅ、と息を吐いて続けた。


「それに…ギルドが潰れた、ということですが、ギルドが潰れる場合、まず事前告知を1か月間行い、潰れた後も1か月間は所属変更手続きを行うため、開けていたはずです。所属場所をはなれていたとしても、各ギルドでギルドが潰れるため、所属変更を行うよう、必ず告知がなされていたはずですし、その告知を受けた時に所属変更対応をそのギルドで対応してくれたはずですが、その間、あなた方はどうされていたのですか?」


シエラが言うと、うっ、と冒険者の一人が気まずそうな顔をした。


「確かにギルドが潰れたのは、ギルドの事情だと思います。ですが、いきなり潰れて冒険者の方に不利益を被らせる、ということはないように必ず何かしらの対応は行います。所属している冒険者の方たちに迷惑がかからないように、必ず、です。ですが、それに対して行動を起こすかどうかは冒険者の方たち次第です。必要かもしれないが、面倒だからと後回しにしていた。いざとなれば何とかしてくれるだろう、なんて思っていませんでしたか?」


シエラに言われて全員が下を向く。


「先ほども申し上げましたが、私共は所属冒険者の方の身元保証を行うという義務と責任があります。これについては、私たちの信用問題にもかかわることになりますので、なんと言われても、はい、わかりました。と簡単に所属変更登録を行うことはできません。お待ちいただける、というのであれば、こちらの書類に必要事項をご記入ください。できる限り、急ぎでは対応させていただきます。ですが、どうしてもお待ちできない、ということであれば、申し訳ございませんが、他のギルドを当たってください。先ほども申し上げましたが、私共も慈善事業を行っているわけではありませんので」


にっこりと微笑むシエラを見て、リーダーと思しき男が小さく舌打ちすると、そのまま行くぞ、と小さく呟いて、そのままギルドを出て行った。


「…大丈夫かしら?ごめんね、対応を任せてしまって」


アヤが声をかけてきたので、シエラは苦笑いしながら、大丈夫と答えた。


「どっちにしても、ああいう人たちって最終的には上を出せって言いだすし、その場合、くじ引きに負けた私が結局出ることになるって考えたら一緒だから気にしなくて大丈夫です」


遠い目をするシエラに、アヤは苦笑した。

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