新人冒険者-1
今日もこの日がやってきたか…
ふぅ、と息を吐き、ギルドの受付カウンターで腕を組んで仁王立ちをしているこの女性は、ギルドの受付嬢、シエラだ。
「…シエラ、今から戦地にでも行くの?」
あきれ顔のルーを、シエラはキッと睨む。
「ルー、わかってるでしょ?今日がどういう日なのか!」
「…わかってるわよ。あんたの言うところの、絶対に定時上りができない日、でしょ?」
その一言に、シエラは膝から崩れ落ちた。
「あ、あんた…なんて言い方するのよ!定時上りができない日なんて、そんな日、認めないわよ!絶対に!」
ぶんぶん、と頭を振るシエラに、ルーははいはい、と手をひらひらとさせながら、放置してそのまま自分の受け持ちカウンターへと向かった。
「ほら、シエラ。解錠時間よ」
「うぅぅ。。。」
シエラはがっくりとうなだれながら、自分の持ち場へと移動する。
そして。
入り口が解錠されると同時に大量の子供たちがギルドの中に入ってきた。
ちょ、ちょっと!?!?
去年より多くない!?
昨日はこの国のお祭りだった。その名も成人の儀。
この国では、毎年決まった日に、その年、12歳を迎える少年・少女たちが成人の儀を教会で受けることになっている。成人の儀をうけると、一人の大人として認められ、自分たちの意思で仕事を探して、就職することもできるようになる。
そしてここ、モルトの街では、成人の儀を受けた子供たちに人気の職業が【冒険者】であった。
特に、孤児院などで育てられていた子供たちは、この成人の儀を迎えた後は、ハイ・スクールへの進学が決まっていない限り、その年のうちに就職先を見つけて独り立ちをし、施設を出ていかなくてはならないという決まりもあって、この、成人の儀の翌日は、晴れて大人の仲間入りを果たした子供たちが、我先にと大量にギルドに冒険者登録をしにやってくるのだ。
当然、通常の業務がなくなるわけではないため、受付嬢たちは、年に一度、この、成人の儀の翌日に関しては、食事をとる時間も無くなるくらい忙しくなる日であり、この日だけは、よっぽどの理由がない限り、有休も認めてもらえない日となっている。
シエラにとっては、地獄の一日が、幕を開けた。