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【閑話】トーカス達の珍道中~その1~

一方その頃、的なトーカス達のお話です。

「ちょっと、治安が悪すぎるんじゃないのか?」


はぁ、とため息をつきながら、先ほど石化させた盗賊の頭と思われる男の顔を足でゲシ、と踏みつけながら、トーカスが言う。


「確かに、ちょっとこの遭遇率の高さは異常ではあるな」


持っていた剣についた血を払いながら、ジェルマが答える。


「おーい、大丈夫かー?」


馬車からひょこっと顔を出してくるエディに、トーカスは大丈夫だ、と答えた。


「あー、これで連絡用の狼煙が最後だ。次の街で補充しないとだめだ」


「わかりました。もう少しでバウモアに到着するので、陽も暮れてきましたし、今日はそこで宿をとりましょう」


御者をしていたハルが、ひょこっと顔を出して答える。


「あぁ、わかった。小さな町だが、ギルドに連絡用の狼煙はいくつか用意があるはずだから、そこで調達しておく」


トーカスとジェルマがハルの隣に戻ってくると、ハルはお願いします、と頷いて、馬車を出発させた。


モルトの街を出て初日は、特に魔物や魔獣、野盗といった類のものに遭遇することなく、順調な滑り出しだった。だが、モルト領を出た2日目、魔物や魔獣に遭遇することは相変わらずなかったのだが、初めて野盗の襲撃にあい、3日目の今日にいたっては、午前中に2回、そして先ほど午後3回目の襲撃を受けたところだった。


「この辺りは確か、ディジオ伯領だったか。特にギルドに、治安悪化の連絡なんかは来ていなかったはずだが」


剣の手入れをしながらジェルマが呟くと、ハルも少し考えて、往路で通ったときに、こんな襲撃ありませんでした、と答える。


「とりあえず、町に着いたら俺はギルドに行ってちょっと調べてくる。あそこは宿が一軒しかなかったはずだし、調べ終わったら、宿で合流するわ」


「わかりました」


ジェルマとハルのやり取りを聞いていたトーカスは、ふむ、と少し思案した後、コケ、と小さく鳴いた。



*****


「なんだかやけに暗い雰囲気だが…ここはそういう町なのか?」


門で身元確認を終えて入ったバウモアは、モルトの4分の1の大きさの町で、ここに住む人たちの数も比例して少ない。だが、時間はまだ夕方を過ぎたばかりで、若干空もうっすらと明るい程度の時間帯であるにも関わらず、人影がほとんどない。店もほとんどが閉められており、宿とその隣の食堂と思われる店以外、明かりがついていない。活気あふれるモルトの街とはまるで正反対の雰囲気が漂っており、トーカスが町に入ったときに述べた感想は、ジェルマも違和感として感じていた。


「なんかありそうだな、おい」


はぁ、と小さくため息をつくと、馬車からジェルマは飛び降りた。

情報を収集するならば、一番手っ取り早いのはギルドに行くことだな、と判断し、「ギルドに行ってくる」と言い残して、その場を去っていった。


「では、とりあえず私は門のところで馬車を預けてきますので、トーカスはニュークと一緒に、エディ様を連れて、先に宿に向かってください。空きがなかったらちょっとこの感じだと困ったことになりそうですしね」


ハルはそういうと、馬車の扉を開ける。エディとニュークが馬車から降りたのを確認すると、では後程、と言い残して、馬車を門で指示された場所へと向かって行った。


「まずは宿に行くか」


宿屋に到着し、大部屋が1部屋だけ運よく空いていたので、そこを取って部屋へと移動する。部屋は通常の2部屋分くらいの大きさに、ベッドが6つ並んで置かれているだけの、質素なつくりだった。


「おい、飯はジェルマが戻ってきてからか?」


ベッドにゴロンと横になり、硬い、と不満そうにつぶやくエディに、トーカスが聞くと、ニュークがそうだな、と答えた。


「なら、ちょっと俺はラピと一緒に町を少し見てくる」

「え?なら、俺も」

「断わる。何のために宿に先に来たと思ってんだ。護衛対象連れてとか、万が一襲撃でも受けたら面倒だろうが。お前はニュークと一緒に宿で大人しくしていろ」


トーカスが呆れたような声色で答える。エディはその言葉に不満そうな表情を浮かべる。


「…ニューク、お前、エディがうろつかないよう、見張っとけよ」

「へいへいー」


ニュークの軽い返事を聞いて、トーカスはラピを連れて部屋の窓から外へと出た。


「前々から思っていたが、夜でも視界が問題ないというのは不思議なものだな」


トトトト、と町の建物の屋根の上を、まるで忍者のようにかけていきながら、様子を見て回るトーカスが小さく呟くと、ラピは首を傾げながら、そうなのですか?と聞き返してきた。


「鶏は夜目が効かないものだとばかり思っていたからな」

「……トーカス様、我々は鶏ではありませんよ」


ラピの返答に、トーカスはそうだったな、とくつくつと笑った。


「いや、このサイズだと見た目が鶏そのものだろう?つい、鶏の感覚でいた」

「はぁ…」


若干、ラピから、こいつ何言ってんだという雰囲気を感じ、トーカスは小さくコホン、と咳ばらいをした。


「夜に外出する人間が極端に少ないな。まぁ、だからと言って怪しげな奴が町中がうろついてるわけでもなさそうだ。これは一体、どうしたもんだろうな」

「そうですね、人間のことはよくわかりませんが、少なくとも、モルトに比べると」


ラピが言いかけた時だった。2匹はバッと頭を上げて耳を澄ます。

微かではあったが、悲鳴のような声が聞こえた気がしたのだ。


「…聞こえたか」


トーカスが聞くと、ラピはこくりと頷いた。


「……!あっちです!」


小さな小さな悲鳴に続いて、助けて、とか細い声が聞こえてきた。ラピは駆け出し、トーカスもその後ろを追う。


「いた、あそこだ!」


2つほどの屋根を超えた先の路地裏で、ぐったりとしている少女を連れてどこかへ行こうとしている人影を発見したトーカスは、いくぞ!と叫び、そのままケケー!と叫んで人影に思いきり蹴りを入れた。


「ぐはぁ!!」


空からの急襲に、少女を抱えていたこともあり、人影はそれを避けることができず、思いきり蹴り飛ばされて地面へと縫い付けられた。その衝撃で、その人物はそのまま意識を失い、抱えられていた少女はそのまま地面に放り出されかけたが、ラピが素早く少女を受け止め、事なきを得た。


「おい、大丈夫か?」


倒れた人影に石化魔法をかけて両手両足のみ石化させると、トーカスは少女の方へと近寄り、頭をコツコツと嘴で突いてみる。だが、反応が全くないため、どうしたものかと困っていると、見知った気配を近くに感じたので、ラピに指示して、その人物を呼びに行かせた。


「…おいおい、これはどういう状況なんだ?」


数分後、ラピに連れられて姿を現したジェルマは、頭をポリポリと掻きながら、一部石化した状態の人間と、倒れている少女、そして両の翼を広げて、さぁ?と答えるトーカスに、はぁ、とため息をついた。

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