少年冒険者の相談-2
「だからシエラ姉ちゃん、スノーラビットがどこに行けば買えるのか、教えてほしいんだ!」
「……んん?買う??」
ターナーの言葉の意味が分からず、思わずシエラは首を傾げた。
「あの時見つけたスノーラビットが、どうやら怒ってた冒険者の従魔だったらしいんだ。それを知らずに、スノーラビットを狩ったせいで怒られてたから…。だから」
「スノーラビットを買ってかえせば、冒険者たちの怒りも収まって、お友達とも仲直りができる?」
シエラが続けると、ターナーはこくこくと頷いた。
「俺、すぐに助けてやれなかったから…。俺が話かけようとしても、あいつら、俺のこと怒ってるから、避けて口もきいてくれなくて。でも、心配でこっそり後をつけてたら、あの冒険者たちに、スノーラビットの代わりだって働かされてるのを見て、俺、どうしたらいいか必死で考えてたんだ」
ターナーの言葉に、シエラは顔をしかめた。
「ちょっとまって、それは間違いない?」
「え?それって?」
「スノーラビットの代わりだって、働かされてるって。ターナー君の憶測じゃなくて?」
シエラの言葉に、ターナーは頷いた。
「間違いないと思う。そう、あいつらの一人が言ってたから。だから、俺がスノーラビットを連れて行けば、ニック達も代わりに働かなくてすむようになるだろ?だから」
ターナーに言われて、シエラは小さく唸った。
「…ターナー君、ちょっと聞きたいんだけど、スノーラビットを見かけた時、こういう認識票ってついてたかどうかって覚えてる?」
シエラはポケットから認識票を取り出して見せる。
「え?いや…うーん…覚えてない。見てない気がするけど…見落としただけかもしれないし」
ターナーの言葉に、シエラはわかった、と頷く。
「この件、ちょっと私に任せてもらえるかな?」
「え?」
シエラの言葉に、ターナーは目を見開いた。
「ちょっとね、ターナー君が思ってる以上に、問題が起こってる可能性があるの」
「も、問題?」
シエラの言葉に、不安げな表情を浮かべるターナー。
「そんな心配そうな顔をしなくても大丈夫だよ。捕まったりとか、そういうことはないから。まずは、ターナー君のお友達を助けよう」
「た、助けてくれるの!?」
シエラの言葉に、ターナーは思わず両腕をつかみ、縋りつく。手に持っていたコップが落ちて、水が床にこぼれた。
「ちゃんと正確な状況が確認できたわけじゃないから、お友達がお咎めなしとなるかは約束はできないけど。でも、少なくとも、今みたいに従魔の代わりに働かされることはなくなるようにはしてあげる。これは約束するよ」
シエラの言葉に、ターナーはありがとう、とまた、涙をこぼしながら、消えそうな声で呟いた。
「今から、他の受付嬢の人を呼んでくるから、ちょっとここで待っててくれるかな?ターナー君が聞いた会話の内容とか、さっき話してくれた経緯をもう一度、話てほしいんだ」
シエラの言葉に、ターナーはグイっと涙をぬぐって、頷いた。
「よし。それじゃ、ちょっと待っててね?」
シエラはそう言って、ターナーを部屋に残して外に出ると、急いで受付カウンターの所へと移動した。
「あ、ちょうどよかった。オーリ、ちょっとごめん。頼まれてくれる?」
「どうかしたんですか?」
書類整理をしていたオーリに事情を説明し、会議室にいるターナーから調書を取るようお願いする。オーリがわかりました、と紙とペンを持って会議室に向かうのと入れ替わりに、今度はアミットがやってきたので、アミットに事情を説明し、従魔の討伐被害届が出ていないかを各ギルドに確認してもらうようお願いした。
「コーカス、ごめん。ちょっと起きてくれる?」
カウンターの下ですよすよと眠っているコーカスの体をゆすって起こす。
「何かあったのですか?」
邪魔にならないようにと、カウンターの裏の隅の方で素振りをしていたサクラが、トトトと近寄って聞いてくる。
「うん、ちょっと問題が起こったっぽいから」
「なんだ、何があった」
顔を起こして目をシパシパさせながらコーカスが聞いてくるので、シエラはターナーに聞いた内容を伝えた。
「で?何が問題なんだ?」
コーカスに聞かれて、シエラは話を続けた。
「そもそも従魔は、テイムされてるかどうかの見分けがつかないから、基本的に、目につきやすい場所に認識票をつけておくことを義務付けられているの。コーカスもサクラも、首のところに着けてもらってるでしょう?」
そう言って、シエラは二人の首輪についている銀の認識票を指さした。
「ターナー君に聞いたら、覚えてない、って言ってたの。一瞬だから、見落としたかも、って。でもそれ自体がそもそもおかしいのよ」
「何がおかしいのですか?」
サクラが聞くと、シエラは頷いて続けた。
「さっきも言ったように、目につきやすいところにつけておくことが義務付けられているの。魔獣や魔物に、コーカスやサクラみたいな首輪がついてたりしたら、絶対にあれ?ってなるでしょう?」
「あ、なるほど」
「だから、一瞬だったとしても、まず、それが目についてない時点でおかしいのよ。安全ですよ、っていう意味とは別に、従魔だから狩ってはいけませんよ、っていう意味もあるからね、認識票には。確かに、この辺りに生息していない魔物がいた、っていう時点で、あれ?と思わなかったターナー君たちにもちょっと問題があったとは思うけど、そもそも、認識票をもしつけていなかったのだとしたら、従魔であったとしても、狩られても文句は言えないのよ」
シエラの言葉に、サクラは小さく、これにはそういう意味もあったのですか、と呟いた。
「で、しかも。狩られたから、という理由で、こちらになんの届も出さずに、狩った側をそれを理由に働かせてる、となると」
「そもそも、元々そういうこと目的としている連中である、という可能性があるわけか」
コーカスがシエラの後に言葉を続け、シエラはその言葉にこくりと頷いた。
「あ、シエラ!アミットから伝言がきてたわよ。言われてたスノーラビットの従魔討伐被害届は1件も確認できなかったって」
ルーがカウンターにいたシエラを見つけると、そう報告を入れてきた。
「ありがとう!ルー!」
「ちょっと話聞いたけど、なんかまた、やらかしてくれちゃってるやつがいるみたいね?」
言ってため息をつくルーに、シエラも、そうみたい、と肩を落として答えた。
「とりあえず、万が一に備えて、こないだ知り合った衛兵のシモンとノアにもちょっと話通しておくわ。そのまま各所に話を伝えてもらうよう、お願いしといたげる」
「助かる!!それじゃ私は、ちょっと森まで様子を見に行くことにするわ」
「わかった。なるべく早く戻ってきなさいよ?」
ありがとう、と拝むシエラに、ルーはふふっと笑って、貸し1つだからね?と言って、その場を後にした。
「…相変わらず、ルーの交友関係の広さには驚かされるわ」
そもそも、どこでどうやって知り合っているのだろうか、と疑問に思ったシエラだったが、そんなことは今は考えても仕方がない、と考えることを止めた。
「さて、と。それじゃコーカスとサクラ。今から森に行くから、ついてきてくれる?」
「ああ、護衛として行けばいいのだな?」
コーカスの言葉に、シエラはこくんと頷いた。




