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少年冒険者の相談-1

トーカス達を見送った後、いつもとおなじくらいの時間にギルドに出勤したシエラは、他の受付嬢たちと一緒に業務開始作業をこなしていく。


「それじゃ、今日も1日頑張りましょー」


『はーい』


今日の解錠担当のルーの言葉に、みんな元気に返事をする。ドアのカギを開けると、冒険者たちがいつものように次々とギルドの中に入ってきた。


「おはようございます。今日は…」


いつものように受付業務をこなしている時だった。何人目かの冒険者の受付を終えた時、ふと、見慣れない冒険者が見覚えのある少年冒険者たちと何かを話しているのが見えた。


「シエラちゃん、おはよう!今日はこの依頼で頼むわ」


「あ、ジェフさん、おはようございます!こちらで…」


冒険者の依頼受付業務はまだまだ終わりは見えていない。せっせと受付をさばいていき、最後の一人を終えた時には、先ほど視界にうつった冒険者たちの姿はなかった。


(そんなに気にすること、ないかな?)


と、そんなことを思った時だった。


「あれは…ターナー君……?」


壁際の椅子に座って、何か考え込むような顔をしている少年冒険者。以前は、一緒に冒険者になった他の子たちと一緒に活動をしていたと認識していたのだが、今の彼は一人だった。

周囲をみても、いつも一緒に居た他の子たちの姿がなく、何かあったのだろうか、と気になったシエラは、ターナーに声をかけた。


「おはよう、ターナー君。あれ?今日は一人なの?」


急に声をかけられて驚いたターナーは、声の主がシエラであることに気付き、少し目に涙を浮かべた。


「え、え??ど、どうしたの??」


その様子に慌てるシエラ。とりあえず、こっちにおいで、と、シエラは自分の受付カウンターに離席中の札を出して、ターナーを会議室へと連れて行った。


「はい、これ。お水」


「…ありがとう、シエラ姉ちゃん」


ターナーは差し出されたコップを手に取り、一口水を飲んだ。


「何かあったの?」


シエラが言うと、ターナーはびくりと肩を震わせた。


「気のせい、ならいいんだけど。もし、何か話したいことがあるなら、聞くよ?」


シエラが、ターナーの前に腰を下ろして微笑みながら言うと、ターナー不安げな瞳でシエラを見つめた後、重く閉ざしていた口を開いた。


「シエラ姉ちゃん。いつも、冒険者は自己責任だ、って言ってるよな?」


突然どうしたのだろうか、と思い、シエラは首を傾げながら、そうだね、と答えた。


「…自己責任だって、わかってるんだけど…助けてほしいんだ、お願いします!」


ターナーはがばっと頭を下げてシエラに泣きながらお願いする。


「え?ど、どうしたの!?」


シエラはとりあえず、ターナーに話を聞くから、落ち着いて、と彼を必死でなだめる。


「まずは、詳しく話てもらえるかな?」


泣いて少し落ち着いたのを見計らって、シエラはターナーに優しく話かける。彼はこくんと頷いて、話を始めた。


「この間、少し前にいつもみたいに依頼を受けて森に行ったら、スノーラビットを見つけたんだ。依頼対象はいつもと同じラージマウスだから、スノーラビットを狩るやつと、ラージマウスを狩るやつに分かれようって話になったんだ」


「スノーラビット?珍しいね!」


スノーラビットは主に雪原地帯に生息する魔物で、モルト近辺では見かけた、という出没情報は聞いたことがなかった。


「うん。俺たちも、この辺にいるなんて思ってなかったからびっくりした。でも、スノーラビットの皮は売れるって聞いてたから狩れるならと思ったんだ」


「うんうん、なるほど」


確かに、スノーラビットの皮はひんやりとした肌触りなので、夏服の素材として使われることがあり、彼らが狩っているラージマウスよりも高収入が得られる。


「それでみんなでじゃんけんして、負けた俺はラージマウスを狩に行ったんだけど」


ターナーの表情が暗くなる。


「ラージマウスを狩って、みんなのところに合流しようと思ってたら、なんか知らない大人がいっぱい一緒にいて、すげー剣幕で怒られてたんだ」


「…怒られてた?」


てっきり、ラージマウスが狩れず、依頼失敗して喧嘩でもしたのかと思っていたシエラは、思わぬ話の展開に、眉を顰める。


「俺、すげー怖くて…あいつらを助けにいけなかったんだ」


まだ12歳の少年だ。それが、大人たちに怒られれば、怖くて動けなくなっても仕方がない。


「そのあと、俺、あいつらに話しかけられなくて…。次の日も、あいつら、俺を避けて話してくれなくなったんだ。…きっと、怒られてるのに俺が助けてやらなかったから、俺だけ怒られなかったから。あいつらきっと怒ってるんだ!」


ぽろぽろと涙をこぼしながら叫ぶターナーに、シエラはうーん、と唸った。


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