受付嬢のお仕事-6
「それに、そもそも、魔素をたっぷりと含んだ魔石なら、ちょっとやそっとのことで、傷なんてつかないんですよ。オーリが言った通り、表面に細かな傷がついたりしていることからも、魔石の魔素がほぼなくなっているということがわかるんです」
通常、魔物や魔獣を倒したときに、心臓部からとれる石のことを魔石と呼ばれていて、それには魔物や魔獣の魔素が大量に含まれており、魔法道具等の材料としてとても重宝されている。そして、その魔石は、魔素が含まれていればいるほど、硬度が高く、傷がつかないのだ。
強力な魔物や魔獣になるほど、魔石は大きく、その分、魔素の含有量も増えてくるのだが、もちろんその分、魔物たちの強さも比例して強いため、なかなか安定して大きいサイズの魔石は流通していない現状を利用し、大ぶりの魔石と偽って、ただの石や、自然死を迎えた大型の魔獣の魔石を何食わぬ顔をして素材として売りさばこうとする悪党もいたりするので、特に大きなギルドでは、受付嬢の鑑定レベルや、素材に対する知識は高度なものが要求されていた。
「そういうわけで、こちらの提示額は銅貨20枚が限界です。それ以上を希望されるのであれば、どうぞ他のギルドへ持ち込みしてください」
にっこりと微笑むシエラに、男は小さく舌打ちし、二度と来るか!と叫びながら、ギルドを走り去っていった。周りにいた仲間と思われる男たちも、慌ててカウンターに残った魔石を回収すると、そのあとを追って出て行った。
「おー!シエラちゃんお疲れー!」
男たちが出て行ったと同時に、周りにいた冒険者たちがぱちぱちと拍手する。
「ふぅ。オーリ、大丈夫だった?」
声をかけると、オーリははい!と笑って頷いた。
「ちょっと怖かったですが…姐さんが助けてくれたので、大丈夫です!」
「…その、姐さんっての、やめて」
こめかみをぐりぐりさせながら、もう大丈夫と判断したシエラは、自分の持ち場に戻る。
ちょうど、待っていた残りの2組のパーティーも戻ってきたところで、報告を受け、受付業務を完了させる。
「あー!終わったー!!」
時刻は19時半。
書類作業等すべてを終わらせ、ギルドを施錠し、机の上を片付ける。
結局、今日も定時には上がれなかったが、昨日のことを考えると、まだ早く終われたほうだ、と少しホクホク顔になる。
「お、シエラ。まだ残ってたのか」
ぽん、と肩を叩かれる。シエラはぎぎぎぎ、と首だけを後ろに向けると、そこにはジェルマの姿があった。
「ちょうど上がるところだな?よし、今から飲みに行こうと思ってたんだけど、今日に限って誰も捕まらなくってよー。お前、ちょっと付き合えよ!」
「い、嫌ですー!今日はもう、帰ってゆっくり休むんです!」
「おー、それならいっぱい飲んでから帰ればぐっすり眠れるぞー?」
話を聞かないジェルマに、シエラは叫んだ。
「ジェルマさんの言ういっぱいは、一杯じゃなくてたくさんの方でしょう!?やだ、昨日も遅かったんだから、今日はもう、おうち帰るのー!」
「おーおー、飲んで帰ればいいじゃねーか、よし、ほら行くぞ!」
「いーやー!!!」
こうしてシエラが家に帰ったのは、もう少しで日付が変わろうかという時間だったという。