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指名依頼‐1

「それじゃスミレちゃん、気を付けて行ってらっしゃい。コーカスも、スミレちゃんをよろしくね?」


「行ってきます!シエラさん!」


「スミレのことは任せておけ」


久しぶりに朝一からギルドに出勤したシエラは、いつものように他の受付嬢たちと一緒にギルドを開ける準備を行った後、受付作業を行っていき、最後にいたスミレから、コーカスの同行依頼を受け、その手続きを終えて見送った。


「護衛の仕事を依頼したいんだが」


丁寧にセットされた綺麗な赤毛に金色の瞳の青年が、にっこりと笑ってシエラに話しかけてきた。だが、シエラは彼の方を見ることなく、きっぱりと答えた。


「お断りいたします、エディ様」


「え!?」


驚いた声を上げるエディ。だが、シエラは知らん顔をして、受付を行った控えを手早くまとめていった。


「つれないじゃないか、シエラ。そんなこと言わずに」


諦めずにシエラに話しかけるエディ。傍から見れば、まるで口説いているかのようだ。


「…エディ様の護衛ならすでにいらっしゃるじゃないですか」


小さくため息をついて、エディの後ろに控えている2人の男性を見やる。ニュークとハルだ。

彼らはシエラと目が合うと、どうも、とにっこりと笑って手をひらひらとさせてきたので、シエラは小さく頭を下げた。


「うん?あぁ、今回の依頼は、王都に戻るから、その道中の」

「第4ギルドへご依頼くださいねー。あ、オーリ!昨日の鑑定品のことなんだけど」


スパっとエディの言葉を遮って断り、その後ろを通りかかったオーリに声をかけて話を始める。


「…なぁ、トーカス。俺と一緒に王都へ行かないか?」


今日の午後に訓練場でサクラとラピの能力査定を行うので、その時にトーカスのステータスチェックも一緒に兼ねることになっていたので残っていたたトーカスに、エディは身を乗り出して声をかけた。


「言っているだろう。俺はシエラの騎士だ。シエラの側を離れるつもりはない」


「…前から思っていたのだが、その、騎士ってどういうことだ?」


あっさりと振られたエディは、トーカスを不思議そうに見つめて聞き返した。


「む?騎士というのはだな、大切な者をこの命に代えてでも守る」

「いやいやいやいや、そうじゃなくて」


急に『騎士』の説明を始めたトーカスに、慌ててエディは止めに入る。

これは、早いうちに止めておかないと絶対に面倒くさいパターンだ、と、なんとなく察知したからだ。


「トーカスは、どこで騎士なんて知ったんだ?」


エディに聞かれて、トーカスは首を傾げた。


「どこで、と言われてもな。騎士のことくらい、誰でも知っているだろう?普通」

「え?いや、それって人間の」

「どうでもいいですが、うちのギルドは貴族様の護衛依頼は請け負ってませんので、依頼があるならさっさと第4ギルドに行ってくれますか?仕事の邪魔です」


自分のカウンターで雑談が始まりそうだったため、いったん離れていたシエラが再度会話をぶった切りに戻ってきた。


「いやいや、護衛の依頼なんてどこのギルドでも請け負えるだろう?」


エディの言う通り、護衛の依頼は第4ギルドでなければ請け負っていない、というルールは存在しない。


「基本的に、都市間をまたぐような長距離護衛に関しては、第4ギルドの方で依頼をすべてまとめてもらっています」


そう、ただの護衛依頼であれば、第1ギルドでも依頼を請け負っていることもある。だが、シエラが説明した通り、長期間にわたっての対応が必要になりそうな依頼の場合については、第4ギルドの方ですべてを請け負うという、暗黙のルールが実はモルトでは存在している。

これは、長距離護衛の場合、いろいろと道中でのトラブルが発生する可能性が高くなることもあるため、やらなくてはいけない手続きがたくさんあるのだが、各ギルドでの月の請負件数自体はそう多くないため、一か所に集約してしまったほうが、担当者が手続き内容を覚えやすくていいのでは、ということから、以来、じゃんけんで負けた第4ギルドが長距離護衛に関してのみ、一手に引き受けている状況なのだった。


「あぁ、そういうことか。だが、今回は指名依頼だ」


「……はい?」


エディの言葉に、シエラは思いきり顔をしかめた。

一体、誰への指名依頼だというのか。


「今回の護衛は、コーカスとトーカスにお願いを」

「2人はただの従魔です。ギルドの雇われ講師です。冒険者じゃありませんのでお受けできません」


サクッと会話をまたしてもぶった切る。


(コッカトリスに指名の護衛依頼とか。一体、何を考えてるわけ?)


特大のため息をつくシエラに、エディはいいじゃないか!とぷりぷりと怒り出した。


「王都に戻ったら、また窮屈な学園生活が始まるんだ!最後くらい、一緒にいさせてくれてもいいだろう!?それに、依頼料なら奮発するし、宿代だってこっちで持つし、良いところに泊めてやる!悪くないだろう!?」


「良い悪いじゃないんですよ。コーカスもトーカスも、コッカトリスなんですよ?討伐推奨ランクはBランクとか世間じゃ言われてるコッカトリスですけど、二人は明らかにAランク以上の実力を持ってると断言できる、魔獣なんですよ!?しかも、テイムしてることになってるのは私なんです。私から長期間離れて仕事をさせるわけにはいきませんし、何かあったときに責任を負いきれません!」


額に青筋を立てながらシエラが言うが、エディはなおも食い下がる。


「戻る間、何かあったとしても、一切責任は問わないと約束する!何だったら、俺がテイムしてもいい!」


なぜにそこまでコーカス達と一緒に居たがるのかと、シエラは不思議でならない、という顔をしていると、そっとハルがシエラに耳打ちしてきた。


「…エディ様、学園に友達がいないんですよ。公爵家の跡取りなんで、群がってくる人間は大勢いるんですけどね。今回こっちに来たのも、学園でちょっとひと悶着あって落ち込んでたエディ様の、心の療養の意味もあったんです」


ハルの方をシエラは思いきり睨みつける。


「…もしかして、私の良心に訴えようとか思ってます?」


この話を聞いて断ってしまったら、物凄く自分が酷い人間みたいじゃないか、とシエラは思いきり頭を抱えた。

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