久々のデスクワーク
「ちょっとシエラ?さっきお願いしてた報告書の最終確認おわった?今日中に提出しないといけないんだけど」
「姐さん!この買取依頼品、ちょっと気になることがあって、一緒に見てもらえませんか?」
「あ、シエラ戻ってきた?第2ギルドから、ダンジョンのマップ内容の確認依頼が来てたから、優先してお願いねー」
「来月の講習の日程を教えてって依頼が増えてきてるんだけど、これって調整って今どこまで進んでる?」
医務局から戻ってきたシエラは、机の上に山積みになっていた書類と、同僚たちから振られる大量の仕事に忙殺されながら、今やってるから!と叫んでいた。
(…わかっている、わかっているのよ!!
でも、理解するのと納得するのは別の問題なのよー!!!)
うぅ、と目に涙を浮かべながら必死に書類に目を通して判子を押し、冒険者の対応を行いながら、オーリに聞かれた買取依頼品の鑑定をしつつ、休む間もなく仕事を夜まで続けた。
「お、終わった……」
シエラが机の上で突っ伏していると、お疲れさん、と声をかけてくる人物がいた。
「…今日はもう疲れたので、飲みには行きませんよ」
顔を上げ、声をかけてきた人物であるジェルマに言うと、彼は苦笑しながら、さすがに今日は誘わねぇよ、と答えた。
「ほれ、これ」
差し出された1枚の紙を手に取ってみる。それは、シエラが求めていたポチを寮で飼うことの承認書類だった。
「…あれ?種族がシルバーウルフって」
ジェルマの方を見ると、ジェルマはあぁ、とため息交じりに答えた。
「フェンリルの存在は、今や伝説級、幻だといわれてるんだぞ?そんなのをテイムしているから、寮で飼いたいです、なんて馬鹿正直に申請できるわけないだろうが」
言われてシエラは、確かに!と頷いた。
「そもそも、んな申請上げちまったら、下手したら王都のギルドから呼び出し食らうか、最悪、問答無用で王都ギルドに異動になるぞ」
ジェルマに言われて、シエラは顔を真っ青にしながら、ひぃ!と叫んだ。
「まぁ、幸い、こいつがフェンリルだってことを知ってるのは、俺とクロードとお前の3人だけだ。他の奴らにも言ってないんだろう?」
聞かれてシエラはこくこくと首を縦に振った。
「他のメンバーには、迷宮内で保護した犬だって言ってるので、魔獣だって気づいてる人はいないと思います」
「ならいい。幸い、見た目はシルバーウルフでも通らなくはないしな。しばらくはただの犬ってことにしとけ。一応、意思疎通が図れるようなら、シルバーウルフに擬態するように指示出しとけ」
ジェルマに言われて、そんなことができるんですか?とシエラは首を傾げた。
「少なくとも、オルトロスを仲間か何かに勘違いさせることができる程度には、擬態ができてたんだろう?どこでうっかり、鑑定されちまうかわかったもんじゃねーしな。できるできないはこの際置いておいて、念のため、そう指示を出しておいても問題はないだろう。あぁ、コーカスなら意思疎通ができるみたいだったし、あいつ経由ででもそう指示を出しとけ。うまくいけば、低レベルの鑑定持ち程度なら、何とかできるだろう」
「わかりました」
シエラが足元ですやすやと眠っていたポチを抱き上げると、目を覚ましたのか、シエラの顔をペロペロと舐めてきた。
「わ、もう、くすぐったいなぁ」
くすくすと笑いながら、シエラはポチをよしよし、と撫でる。
「ポチともコーカス達と同じように話ができるといいんだけどなー。ポチー、シルバーウルフに擬態しておいてくれる?って、言って伝わるわけないか―」
あはは、と笑うシエラに、トーカスがむくりと体を起こし、コツコツと足を突いてきた。
「仕事は終わったのか?」
言われてシエラは、お待たせ、と答える。
「ま、気を付けて帰れよ?体に異変があると思ったらすぐに医務局に行け。わかったな?」
「わかりました」
シエラはお先に失礼します、と頭を下げると、3匹を伴って、寮へと帰った。




