受付嬢のお仕事-5
「すみません、どうかされましたか?」
取り合えず、伝え聞いた状況でしかないため、まずはきちんと双方から話を聞く必要がある、と思ったシエラは、いつものようににっこりと笑って、冒険者たちに声をかけた。
「あ、シエラ姐さん…!」
少し泣きそうな顔でシエラを見てくるオーリに、シエラは大丈夫、とポンポン、と肩を叩いて微笑む。
「どうしたもこうしたもねーよ! このねーちゃんが、俺らが持ち込んだ素材がたったの銅貨20枚にしかならねーって言うから怒ってんだよ!」
カウンターに置かれている素材を見ると、そこにはキラキラとした輝きをを放っている大ぶりの魔石が4・5個置かれていた。
通常、魔石であれば、小ぶりのものでも1個で銅貨30枚、カウンターに置かれているくらいの親指サイズの魔石なら、銀貨1枚(=銅貨100枚)での買取が相場だ。
「このくらいのサイズなら、銀貨1枚はくだらねー、最低でも銀貨5枚はもらえるはずだろうが!」
冒険者の言ってくる相場は、そうおかしな相場ではない。適正値だ。
だが。
「オーリ、これが銅貨20枚になる理由を、ちゃんと伝えた?」
シエラがオーリに聞くと、オーリはすみません、とふるふると首を振った。
「お伝えしようとしたんですが、話を聞いてくれ」
「ふっざけてんじゃねーよ! なんでこれが銅貨20枚になるってんだ! 理由なんてあるわけねーだ
ろうが! ちゃんと鑑定もできないようなクソ受付嬢なんて、とっとと辞めさせちまえよ!」
男の言葉に、シエラはピクリ、と眉を上げた。
「…申し訳ございません、今、なんておっしゃいました?」
「何度でも言ってやるよ、そんなクソ受付嬢なんて…!? ひぃ!!」
シエラの顔を見て、思わず男は悲鳴を上げた。
にっこりと笑っているはずなのに、明らかに怒りのオーラを放っているシエラに、思わず男は後ずさった。
「…この魔石、どうやって入手されましたか? 何を倒して入手されましたか?」
じっと相手の男を見据えて、シエラが言う。
「オーリの鑑定はあなたなんかの足元にも及びませんよ?なんせ、この子、こう見えても鑑定スキルのレベルはすでに5に到達してますから」
「な!?」
補助系のスキルレベルは基本、MAXが10まで。オーリの鑑定スキルは、その半分の5に到達していた。これは、16歳の少女が持っているスキルとしては、かなり異例で、このスキルレベルがすでに5に到達していれば、ダンジョン由来の素材等、未知の素材でなければ、ほぼ問題なく対象を鑑定することができるのだ。
男はその事実に、思わず汗を流す。
「うちの受付嬢を舐めないでいただけますか? この魔石、そもそも、劣化がひどすぎて、含有魔素がほとんどありません。そのため、魔石としての使い道がほとんどないため、ただのクズ石同然です。ただし、サイズが大ぶりで元々が魔石だったので、その見た目から、宝石には劣りますが、アクセサリーの加工品としての需要が見込めるため、買取提示額が銅貨20枚になっているんです。そうよね、オーリ?」
オーリに聞くと、彼女はこくんと頷いた。
「正直なところ、表面にもいくつか傷が入っているので、加工の際にはそのあたりを削る必要があり、実際に使用できる範囲としては一回り近く小さくなるので、銅貨20枚がギリギリの買取価格になるかと…」
オーリの言葉に、男はふざけるな! と叫んだ。
「てめーら、さては俺らを騙そうとしてやがるな! 大体、魔石の含有魔素なんてわかるはずが」
「わかりますが、何か? 私の鑑定スキルはMAXの10ですよ?」
シエラの言葉に、男は絶句した。
「はい、これ。私のスキルボードです」
男に見えるように、ポケットに入れているスキルボードを提示して見せる。
そこには、鑑定:Lv 10 と出ていた。




