子犬の正体
「ふ、フェンリル…」
鑑定結果はこうだった。
名前:
種族:フェンリル
年齢:5歳
スキル:咆哮 Lv3
爪牙撃 Lv3
火魔法 Lv2
雷魔法 Lv3
身体強化 Lv5
固有スキル:擬態
テイム:シエラ
(もう、いろいろ突っ込みどころがありすぎでしょ、どういうことよ!)
そもそもまずは種族だ。
フェンリルという種族に関しては、文献で読んだことはあった。大昔、狼型の魔物が進化し続けた結果、強力な魔獣となって、群れを率いていた、と。
だが、ドラゴンが実在していたころの話で、今となっては、そのフェンリルも絶滅した、と言われていて、フェンリルやドラゴンについては、お伽噺の中に出てくるだけの、伝説上の生き物だ、という人間も少なくない。
「そんな、だって…え、もしかして、オルトロスもフェンリルなの?いや、でも見た目全然違ってたし」
双頭に金の鬣、獅子のような大きな体躯に蛇のしっぽ。どちらかと言えば、キマイラと呼ばれるAランクの魔物にオルトロスは近かった。間違っても、狼の見た目と言われているフェンリルとは思えない。
「固有スキルの擬態を使って、オルトロスに仲間だと思わせてたのかもしれねーな」
ジェルマに言われて、シエラはなるほど、と頷いた。
擬態というスキルは、本来の姿を何か別のものに似せるスキルである。よくあるのが、特殊スライムに分類されているスライム種や、自然などの周囲に溶け込み、身を隠す虫系の魔物が保有していることが多い。
「でも、そんな擬態を使ってまで、なんでオルトロスのもとに?」
そう呟くと、シエラは子犬、もといフェンリルをちらりと見た。
「くぅーん?」
「う……」
キラキラとまるでどうしたの?と言わんばかりの表情で見つめてくる子犬に、シエラは、あれ?フェンリルとか、そんなこと、どうでもいいか?なんてことを思い始める。
「それより、またお前がテイム済みってことになってるが」
「は!そうだ!私、テイムなんてしてないのに、なんでまた!?」
ジェルマの一言でハッと我に返るシエラ。すると今度は、コーカスが口を開いた。
「なんだ、そ奴がシエラと共にいる方法がないかと聞いてきたのでな。テイム契約を結べばよい、と教えておいたぞ?」
「は!?」
何を勝手なことをしてくれちゃっているのかしら!?と思ったものの、ただの子犬ではなく、魔獣であることが分かった以上、確かにテイムをしていない場合、街の中に連れ込んだ時点で、シエラは捕まることになる。
「…ていうか、話できるの?」
シエラが聞くと、コーカスは問題ない、と答えた。
「意思疎通のスキルレベルが上がったようでな」
コーカスの言葉に、シエラは、なんて便利なスキルなの、と呟く。
「…とりあえず、そいつは寮で飼えるように申請はこっちでしておいてやる」
ジェルマの言葉に、シエラは目を輝かせる。
「ほ、ほんとですか!?」
やったぁ!と喜ぶシエラに、ジェルマは大体の事情は分かったから仕事に行け、と促した。
「では、私はこれで失礼しますね!」
ルンルン、とスキップしながら、シエラは部屋を後にした。




