報告
食事を終えると、クロードが第1ギルドに自分も行く予定があるからということで、シエラを馬車に乗せて、一緒に第1ギルドへと移動した。
馬車の中でいろいろ聞かれるかと思っていたのだが、体におかしなところはないか、とか、朝食は足りたか、とか、昨日とは関係のないことをあれこれと聞かれたので、シエラは少し戸惑いつつも、それに答えていた。
「さ、まずはジェルマの所だな」
「はい」
シエラとクロードは、裏からギルドの中に入ると、そのままジェルマの執務室へと直行した。途中、何人かの受付嬢たちにあったのだが、皆、後で教えて、とだけ言って、そのまま仕事へと向かって行った。
「ジェルマさん、シエラです」
コンコン、とドアをノックすると、短く、入れ、と声がしたので、失礼します、と言ってシエラは中に入った。
「…なんだ、お前も来たのか」
クロードの姿が一緒にあったのに気づいたジェルマが言うと、ひどい言い草だなぁとクロードは笑った。
「まぁいい。座れ」
そういってソファに座るように促されたので、クロードが座ったのを確認して、シエラも向かい合うようにして座った。
「まずは、ダンジョン内での出来事を報告してくれ」
ジェルマに言われて、シエラは必死で思い出しながら、ダンジョンに転送された後から帰還装置を使って戻ってくるまでの経緯を報告する。
「…お前、索敵とマッピング、両方同時に使ったのか!?」
ジェルマの言葉に、シエラは小さく、はい、と答えた。
「なんて無茶するんだ!下手したら、死んでたかもしれないんだぞ!?」
ジェルマの言葉に、鼻血がそういえばでたな、とふとそんなこと思い出す。
「…わかってます。でも、仕方ないじゃないですか!そもそも、飛ばされた場所がどこなのかがわからない以上、正確で、かつ、詳細な周囲の状況を知る必要があったんです」
索敵でわかるのは、主に周囲の状況。生物に分類される者たちがどのあたりの位置にどの程度の人数がいるのかなどに加え、設置されている罠の類なんかも一緒に確認することができる。
マッピングは、周囲の地図情報がわかるようになるのだが、いずれも目に見えない部分を魔力を飛ばして情報を集め、自身の必要な内容に落とし込む、というスキルになっている。
この2つを常時同時使用させることができれば、敵や犯罪者からの不意打ちをなくすことができる、と考えた冒険者が一定数いつもいるのだが、実際にそれができるようになった冒険者はいるのかと言えば、答えはノーだった。
先ほども述べた通り、索敵もマッピングもどちらも大量の情報をすべて取込み、それをさらに、自身の頭の中で再現・理解を行うというスキルだ。ほんの一瞬だけだったり、極小範囲内のみであれば、まだ問題ないのだが、範囲が大きくなればなるほど、その情報は膨大な数になっていき、人の脳では処理が追い付かなくなる、というのが現状の為、実際にそれを行うものは誰一人としていなかった。
実際に、両方のスキルを同時に使用した結果、脳が損傷を受け、そのまま廃人となった例もいくつかあるほどだ。
「…わかった。ただし、お前、後で医務局へ行って検査を受けてこい」
「え?大丈夫ですよ、問題な」
「行け」
有無を言わせない、とばかりに、ジェルマが睨みつけて圧をかけてくるので、シエラは小さくわかりました、と頷いた。
(別に、もう今は何ともないんだし、そんなに心配する必要ないんだけどなぁ…)
「行けよ」
「い、行きますよ!」
まるで思っていたことを見透かされたかのように、また、圧をかけられたので、シエラは慌てていきます、とまた答えた。
「で、そこのそれ。今度はどういう理由で拾ってきた」
ジェルマに言われて、シエラはあぁ、と子犬を抱き上げて答える。
「さっき言った、階層主の避難部屋にいた子犬です。たぶん、冒険者の誰かが連れて行ったはいいけど、連れて戻れなかったんじゃないかと…。なので、元の飼い主なり、新しい飼い主なりを探そうかと思ってるんですが、取り合えず、暫くは私の方で」
「おい、ちょっと待て」
シエラが説明を終える前に、ジェルマに遮られた。
「お前、そいつが何かわかってないのか?」
聞かれてシエラは、何がですか?ときょとんとした顔をする。
その様子を見て、気づいてないのか、と、ジェルマは天を仰いで顔を手で覆った。
「え?なんですか、どういうことですか?」
シエラが聞くと、ジェルマは、ため息交じりに、鑑定してみろ、と言ってきたので、シエラは何を急に、と思って子犬を鑑定してみた。
「………は?」
シエラは鑑定結果に、思わず目を丸くした。




