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60階層

「おい、シエラ!」

「はっ!?」


ぺしぺしと顔を叩かれて、意識を取り戻したシエラは、目の前にある大きな石造りの扉に、さぁっと血の気が引いていった。


「気がついたか?」


トーカスに声をかけられて、シエラはハッと我に返り、頷いた。


「ていうか、また、いきなり私のことつまみ上げて走ったでしょう」


じっと睨め付けるような目でトーカスを見ながら小さな声で言うと、トーカスは悪い悪い、と軽く返す。


「もう…ほんとに、次からはほんとにやめてよ?」


思っていたよりあっさりとひいたな、とトーカスが思っていると、シエラは視線を目の前の石造りの扉へと移したので、トーカスもそれに倣う。


「ここが、階層主の部屋か?」


トーカスの言葉に、シエラは頷いた。


「うん。そうだと思う」


階層主のいる階は、他の階と異なり、階段を下りて少し行った場所に、石造りの扉があるだけとなっている。また、その扉はすべてどの階層でも同じ模様が刻まれている、ということで、その扉の絵も一緒に資料には載っており、目の前の扉には、そこで見たものと同じ模様が刻まれていた。


「ねぇ…オルトロス、倒せそう?」


シエラがぽつりと聞く。


「…さあな、わからん」


「え?」


いつものように自信満々の答えが返ってくるかと思っていたので、思わぬ答えにシエラは驚いた顔をする。


「…なんだよ、そんな驚いた、みたいな顔して」


トーカスに言われて、シエラは思わず苦笑した。


「いや、だって…あんなに自信満々に行くぞ、とかって58階層を出発してたし。いつものトーカスなら、楽勝だ、くらい言いそうって思ってたから、そんな答えが返ってくると思わなくて」


シエラの言葉に、トーカスはチッと小さく舌打ちした。


「失礼だな、おい。まぁいいさ。シエラだけは何があっても絶対に守ってみせる」


そういって、トーカスは軽く飛び上がると、シエラの肩に乗り、そのまま頭を撫でた。


「…いや、肩に乗りながら頭撫でないでよ…」


いちいち、これが同じ人間であれば、ドキッとときめく場面ではないのだろうか、と思ってしまうようなことをしてくる黒い鶏に突っ込みを入れつつ、シエラはふぅ、と息を吐いた。


「でもありがとう。頼りにしてるし、信じてるよ」


シエラが言うと、トーカスは任せとけ、と言って、シエラの肩から降りた。


「よし、では行くぞ。扉を開けてくれ」


「あー、そか。うん。行こう」


最後の最後まで格好がつかないなーなんてことを思い、苦笑しながらも、シエラは石扉を開けた。

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