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鑑定のお仕事

「ギルドへの依頼でもないのに、悪いね」


クロードはそういって、シエラの前に小さな手のひらサイズの、真っ黒な四角い正方形の物を置いた。


「いえ、あんな豪華な食事までご馳走になりましたし。お気になさらないでください」


次から次へと運ばれてくる料理をコーカス達と共にきれいにぺろりと平らげきったシエラは、食後の紅茶を飲んでいるときに、クロードにある品の鑑定をお願いされたので、私にできる範囲であれば、と二つ返事で承諾したのだった。


決して、コッカトリス達が食べる野菜の量に、メイドや料理人たちが顔を青ざめていたからとか、そういった事情からではないらしい。


「それにしても…今まで見たことがないものですが、どういった経緯でこれを?」


鑑定を行っていない状態で、まじまじとその物体を見る。形からして、何かが入っていそうな箱のようにも見えるのだが、どこかから開けられるようにはできていないのか、どこにも継ぎ目が見当たらない。


「ウィルクに所属している冒険者が、領内の魔獣を退治しているときに拾ったものらしいのだが、珍しいもののようだからと、私に送ってきたのだよ」


「………え?」


ちょっと待って、とシエラは頭の機能が一瞬停止するが、次の瞬間、ぶわっと一気に汗が噴き出てきた。


(ちょちょ、待て待て待て待て!ウィルク?今、ウィルクって言った!?)


シエラはまさか、と思いながらも、クロードに確認をする。


「…ウィルク、と今おっしゃいました?もしかして、そのウィルクというのは、ここから少しばかり離れた場所にあるウィルク領のこと、だったりしますか?」


恐る恐る聞いてみると、クロードはそうだよ、とにっこりと笑う。


「ウィルク候の息子のミッシェルは僕と同級生でね。面白いものがあると、こうやって送ってくるんだ」


にこにこと笑いながら答えるクロードの後ろで、ほんの僅かだが、スティーブの眉がピクリと動いたのをシエラは見逃さなかった。そして、彼も被害を少なからず受けているんだろうな、とシエラは心の中で合掌した。


ウィルク領を収めている領主、サミー・パラドは、侯爵の中でも上位に位置する貴族で、かなりの権力を持っていた。領主はとても人格者であり、領民からも厚い信頼を置かれているのだが、人格者の子供も人格者である、という都合の良いことはやはりそうなく、その息子であるミッシェル・パラドは、領主に似ても似つかぬドラ息子として有名だった。

そして。

そのミッシェルは、在学中から何かと理由をつけてクロードのことを嫌っており、また、それは現在進行形である、ということを、モルトの街の住人は誰もが知っていた。


理由は単純でよくあるありふれたものなのだが、彼は在学中、クロードに一度も勝てたことがなかった。座学においても、剣術や体術においても。しかも、すでに自分の父親と同じ、侯爵の地位に今はついている。そのことが気に入らいなミッシェルは、時々、モルトの街を訪ねてきてはいろいろと()()()()()帰るので、街の住人に、今や彼を知らないものはいない、という状況なのだ。


「…ちなみに、先方で鑑定は行われなかったのでしょうか?」

(シエラ的要約:絶対、裏がありますよね?)


「一応、鑑定書はもらったよ。ギミックボックス、と書いてあった」


クロードはそういって、一枚の紙を渡してきた。それは確かに、鑑定師のサイン入りの鑑定書で、鑑定結果の所には、ギミックボックス、とだけ書かれてあった。


「たぶん、これを開けてみろっていう彼の挑戦状じゃないかな?昔から、彼は勝負するのが好きだったから」


ほんわかと答えるクロードに、シエラはあぁ、となんとなく察した。


(きっと…在学中もこんな感じで、突っかかっては反応が薄く、いざ勝負しても勝てず、彼に興味を持たれることもなく、イライラが募って…ってとこだったんじゃないかな、もしかして。…思春期かよ!)


ちょっとくらいは哀れだな、と思わないでもないが、街で彼がいろいろとやった後の後始末はすべてギルドに依頼という形で回ってきていることを考えれば、その気持ちも一瞬で消えてしまった。


「わかりました。では、取り合えず。まずは鑑定してみますね」


そう言って、シエラはふぅ、と深呼吸を一つすると、箱を手に取り、小さく、鑑定、と呟いた。


くるくると何度も箱を動かして見ていく。鑑定しながら、解除手順を確認していっているのだった。最後まで解除手順が確認できたところで、シエラは最後に出てきた鑑定内容に眉を顰めた。そして、信じられない、と小さく呟くと、箱を置き、はぁ、と大きく息を吐いた。


「…ギミックボックスですが、ちょっと厄介なものかもしれません。至急第2ギルドの職員を呼んでください」


まじめな表情で言うシエラに、クロードは目を少し見開いたが、すぐにそばに控えていたスティーブに目をやると、彼は小さく頭を下げて、そのまま部屋を出て行った。

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