お誘い
もう、報告も終わったし、帰っていいかな?なんて、ソワソワしていると、外が薄暗くなってきたのに気づいたクロードは、あぁ、と申し訳なさそうな顔になった。
「もうこんな時間か。遅くまで突き合わせて、申し訳なかったね」
時計を見ると、時刻は18時を回ったところだった。
(これも業務と考えると、今日も定時に上がれなかったけど…でも、この時間に上がれるのであれば上々よ!)
いつもならまだ戻ってきていない冒険者を死んだ魚の目で待っている時間だが、このままもう帰れると思うと、うきうきが止まらなかった。
「それでは、私はこれで」
「シエラ、この後何か用はあるか?」
失礼します、と言いかけたところで、エディがそれを遮るように聞いてきた。
「…いえ、特には」
まさか、と一瞬、嫌な予感がよぎったが、さすがに、今日の朝こっちに戻ってきてそのまま仕事をし、ここにきている、ということを説明したうえで、まさかまさか、コーカスに会いたいなんて言うことはさすがにないだろう、と思い直し、答えるシエラ。
「なら、夕食を一緒にどうだ」
「お断りいたします」
にっこりと微笑みながら、即座にスパッと断るシエラ。
エディはなぜだ!?と叫び、その後ろでニュークがお腹を抱えつつも、必死で笑い声が漏れないようにこらえている様子が視界に映る。ハルも、平静を装ってはいるが、肩がプルプルと小刻みに揺れている。
「話、聞いてました?私、街に戻ってきたのは今朝なんですよ?昨晩寝ずに仕事をして、戻ってきたのが、です」
「いや、しかし、夕食くらいは食べるだろう?」
なおも食らいつくエディに、そんなにコーカスに会いたいの!?と、心の中で盛大な溜息をつく。
「食べますよ?お腹がすいてますから」
「なら、食事ぐらい、一緒にいいじゃないか!コーカス達も一緒に食べるのだろう?」
エディの言葉に、思わずジト目になる。
だが。
「…では、本日一晩、コーカス達の面倒も見ていただける、ということであれば、構いません」
「本当か!?」
今朝、寮の自分の部屋に彼らを連れて行ったところ、自分のベッドがコッカトリス達で占拠されてしまったのを見てしまったシエラ。たまにはゆっくり、一人でのんびりと眠りたい、特に今日は徹夜明けなのだ、と考えた時、コーカス達をエディに一日くらい、押し付ければいいんじゃないか?という悪魔のささやきが聞こえたからだ。
「コーカス達は一日、寮でゆっくり休んでましたから、もう元気だと思いますし。では、それでいいですか?」
コーカス達に何も言っていないのだが、そこは契約者権限として、主人の強権を発動させよう、と、シエラはフフっと小さく笑う。
「それでいい。時間はどうする?俺はすぐにでも構わないが、シエラが戻って支度するなら、1時間後とかでも」
「すぐで結構です。コーカス達を回収するだけなので」
一刻も早く、ゆっくりしたいシエラはエディの言葉を遮って答える。
すでに不敬罪を言い渡されてもおかしくない態度になっているのだが、シエラはそこまですでに頭が回らなくなっていたので、気づかない。
ニュークがその様子に耐え切れず、笑いだした。
「…とりあえず、今からコーカス達を迎えに行ってきます。この間のお店でいいですか?よければ」
「なら、うちで食べていくといいよ」
話をさっさと進めよう、と淡々と提案していたシエラに、クロードが割って入った。
「…え?」
クロードの言葉の意味が一瞬わからず、思わず聞き返す。
彼はにっこりといい笑顔でもう一度言った。
「うちで食べていくといい。元々、夕食にこのまま招待しようと思っていたところだったしね。コッカトリス達は、うちの者が迎えに行っているところだから、もうすぐ戻ってくるんじゃないかな?」
「………え?」
言葉の意味が理解できず、シエラは思わずもう一度、聞き返してしまった。




