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「お疲れ様でございました」


馬車が止まると同時に、ハッと意識が覚醒したシエラは、開かれた扉からこけないように気を付けつつ、ゆっくりと馬車を降りた。


(よ、涎ついてないよね…?)


口の周りをペタペタと触って確認し、大丈夫、とわかったシエラはほっと息をつきながら、男性の後に続いて屋敷の中へと入っていった。

以前にも一度来たことがあるお屋敷ではあるのだが、やはり大きな屋敷だなぁ、なんてことを思いながら男性の後に続いて歩いていくと、見覚えのある大きなドアの前で彼が止まったので、シエラは襟を正した。


「旦那様、お連れ致しました」


「入れ」


コンコン、とノックし、男性が声をかけた後、中から許可が下りたのを確認すると、そっと扉を開けてくれた。


「シエラ様、どうぞ」


「ありがとうございます。失礼いたします」


シエラは男性に軽く頭を下げてお礼を言い、そのまま部屋の中に向かって一礼し、中に入っていく。


顔を上げた瞬間、中に侯爵以外の人物が座っているのに気づいたシエラは、一瞬、以前の飲みの席のことを思い出し、無の表情になる。


「モルト第一ギルド受付嬢のシエラです」


自己紹介をしながら頭を下げる。侯爵ではない男性が、きょろきょろとシエラの周りを確認しているので、小さくため息をつき、シエラは続ける。


「コッカトリス達は寮におりますので、私だけで参上させていただきました」


「なに!?」


「エディ様」


侯爵よりもさきに声に出して反応したことを、従者のハルに窘められて、慌ててすまない、と小さく謝るエディ。


「シエラ、忙しいところ、わざわざ申し訳なかったね。顔を上げて。どうぞ座って」


侯爵の言葉に、シエラは頭を上げ、失礼いたします、と促されたソファに座った。


「今日の朝早くにモルトに戻ってきたもので、コーカス達は本日、寮で休ませておりまして。ご説明だけであれば、私だけでよいかと思ったのですが、連れてきたほうがよろしかったでしょうか?」


ちらりとエディの方を見ながら、侯爵に聞くと、彼は苦笑しながら、大丈夫だ、と答えた。


「では、早速で申し訳ないが、経緯から説明してもらってもいいかな?」


「かしこまりました。きっかけは---」


コーカス達と離れていた他のコッカトリス達が鉱山に巣があることに気付いたのがきっかけであることや、巣の調査兼殲滅を兼ねた最終雇用テストに鉱山へ行き、そのまま巣の中にいたマインアントを殲滅したこと、マインアントの上位種もいたこと、生まれたばかりのクイーンが逃げてしまったことなどを簡単に説明した。


「「「「………」」」」


話の内容を聞いたエディとその従者2名、そして侯爵は、その話の内容に絶句する。


「お茶のおかわりはいかがですか?」


彼らをしり目に、侯爵の執事、スティーブがにっこりと微笑み、空になったカップを下げ、新しく紅茶の入ったカップを持ってきてくれた。


「あ、ありがとうございます。いただきます」


素敵なおじさまだなぁ、なんてことを考えながら、目の前に置かれたカップを手に取り、そっと紅茶を一口飲む。さすが侯爵家、出てくるお茶の味も違うね、なんてことを考えていると、渡すものがあったのを思い出し、そうだ、と言ってバッグの中から地図の書かれた紙を取り出し、スティーブに渡した。


「それは今回のマインアントの巣の地図になります。一応、全部屋チェックし、最後に生体反応がないことも確認したうえでのマッピング情報の地図の写しになると思いますので、正確性については保証できるかと」


スティーブから地図を手渡されて我に返ったクロードは、その地図を見て少し眉を顰める。


「これ、は…かなりの大きさだったんじゃないかい?」


エディもその言葉にハッと我に返り、クロードが持っている地図を見に行き、目を見開く。


「本当に、昨晩だけで殲滅できたのか?」


聞かれてシエラは頷いた。


「少なくとも、巣の中にいたアント種とアントの卵はすべて殲滅して壊しておきました。トーカスが先行して殲滅していってたので、正確には、残りがいないかのチェックと解体を行っていただけではありますが」


シエラの言葉に、ふむ、とクロードは唸る。


「とりあえず、坑道としても十分機能させられそうな状態のようだし、ここはそのまま新しい坑道として使ってしまうことにしよう。少なくとも、マインアントが巣を作っていた、ということであれば、何かしらの鉱石が取れる可能性が高いからな」


マインアントは主に、鉱物を食べることで有名で、彼らの巣があるところには、豊富な資源がある、と一般的に言われている。


「しかしこうなってくると、ビガー鉱山自体も一度、再調査を進めたほうがよさそうだ」


ビガー鉱山は元々ビガー地方と呼ばれる平地が広がった場所だった。だが、ある時、近くに突如迷宮が現れ、その時、平地だった場所に大きな山になった、と言われている。当時、山を調べた際に鉱石が豊富に取れることがわかり、そのままビガー鉱山と名付けられた。そしてその後、鉱山の資源が尽きる様子が全くなかったため、特にこれといった調査を実施されないまま、今に至っている。


「あとでギルドに調査依頼を出しておくよ」


クロードに言われてシエラは小さく頭をさげ、かしこまりました、と答える。


「しかし、それにしても実に興味深いね」


クロードの言葉に、シエラは頷く。


「そうですね、正直なところ、コーカス達に関しては、私の知っているコッカトリスの範疇から大きく外れておりますし、初めて知ることも多いので」


答えるシエラに、クロードは苦笑する。


「コッカトリス達もそうだけど、君もだよ?シエラ」


にっこりと笑うクロードに、シエラは首を傾げた。


「私、ですか?」


言って、あぁ、と苦笑した。


「まぁ、貴族令嬢でこんなのは流石にいらっしゃらないでしょうから、物珍しいとは思いますが。案外、平民であれば、ゴロゴロいると思いますよ?」


シエラは肩をすくめながら言う。

実際、シエラのいた村には、同年代で、シエラよりも狩が上手だったり、罠を仕掛けたり、解除するのが手早く正確にできる者は何人もいた、とシエラが答える。


「まぁ、要は慣れと継続だと思います。私の場合は、たまたま、仕事として日々行ってきたので、スキルに昇華し、レベルが上がった、というだけですから」


にっこりと笑うシエラに、クロードは苦笑しながら、そういうことにしておこう、と頷いた。

久々にエディ登場。

決して、存在を、忘れていたわけではないんですよ?

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