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夢の時間

受付嬢を初めて早数年。一度として、定時に上がれたことがなかったシエラの夢はもちろん『定時上り』だった。


「なんか…妙にご機嫌ね?」


朝、出勤してきたときは、調査任務が大変だったんだろうな、というのを、彼女の目の下のクマや表情が物語っており、受付嬢たちは、サポートをしなくては、と少し気合を入れていたところだったのだが、ジェルマの部屋から大きな叫び声が聞こえたのち、戻ってきた彼女の表情はとても明るいものになっていて、そこからは目にもとまらぬスピードで、鼻歌交じりに業務をどんどんとこなしていっていた。

もともと、シエラの処理能力は、受付嬢の中では群を抜いて正確でかつ早いともっぱらの評判なのだが、今日はさらに一段と、その処理能力が向上しているのではないか、と、驚きを隠せなかったルーは、彼女に声をかける。


「ふふ~ん♪実はね~??」


シエラが喜々として伝えると、ルーはそれだけ!?と思わず目を見開いた。


「そ、それだけとはなによ!定時に上がれるかもしれないのよ!?すごい奇跡だと思わない!?」


うっとりとした表情を浮かべるシエラに、ルーは苦笑しながら、あんたらしいわ、と答えた。

本来なら、金一封くらいでてもいいレベルの話なのではないだろうか、と、彼女は思ったのだが、こんなに嬉しそうにしているシエラに、わざわざ水を差すこともないだろう、とその言葉はそっと胸の中にしまう。


「なら、仕事を残さず終わらせてってね?」


冗談でルーが言うと、シエラはご機嫌ではーい!と答えた。


「…ほんと、残業したくないのねぇ」


苦笑しながらも、シエラに負けていられない、とルーも自分の仕事に戻った。


***


時計がちょうど、16時を示し終えたころ、ギルドに一人の男性が入ってきて、ルーへと声をかけてきた。


「すみません。シエラ様はいらっしゃいますか?」


声をかけてきた男性の身なりから、侯爵の使いであるとすぐに分かったルーは、小さく頭を下げる。


「今、席を外しておりますので、少しお待ちいただけますか?」


ちょうど裏に書類を取りに行ったところだった為、ルーは待ってもらえるよう伝えた。

5分もしないうちに、戻ってきたシエラは、男性の姿を見て、ぱぁっと表情を明るくした。


「急なことで大変申し訳ございませんが、一緒に来ていただけますでしょうか?」


「はい、大丈夫です」


シエラは自分のカウンターに業務終了の札を立てて、自分の机の上を手早く片づけていく。


「それじゃみんな、お疲れ様!」


他の受付嬢たちににっこりと笑って挨拶をする。


「お疲れさま、(いろんな意味で)気を付けて行ってらっしゃい」


「お疲れさまでしたー」


受付嬢たちは温かい目でシエラを見送ると、今までで一番、いい笑顔をしていたなぁ、と皆一斉に笑いだしていたのだが、念願の定時上りがすぐ目の前まで来ていることに浮かれていたシエラは、全くそのことに気付かなかった。

男性の後に続いて、ギルドを出ると、そのままギルドの前に止めてあった豪華な馬車までエスコートされる。


「足元にお気を付けください」


男性に促され、シエラはありがとうございます、とお礼を言って乗り込む。


「おぉぉ…」


乗合馬車と違って、少人数用に作られた馬車ではあるが、中の空間は想像以上に広々としていて、乗り心地がよさそうだった。思わず感嘆の声を上げるシエラに、男性は小さく笑いながら、失礼します、と言って馬車のドアを閉めてくれた。


「では、出発いたします」


御者側についている小窓から声がした。と同時にがたがたっと馬車が動き出す。


「なんて乗り心地がいいの…椅子もふっかふかだし、振動も乗合馬車なんかと比べ物にならないほど少ない」


その乗り心地に、出発してすぐ、うつらうつらと睡魔に襲われたシエラは、あっという間に意識を手放し、馬車に身を委ねていたのだった。

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