退治は終わったのだけれど
鉱山内を半分を過ぎたあたりから、マインアントやマーダーアントの他に、ナイトアントやメイジアントと呼ばれる特殊個体の残骸が現れ始めた。シエラは最初の内、特殊個体の残骸があるたびに、何度も何度も索敵で近くに他の仲間が残っていないかを確認していた。だが、特に戻ってくる個体もおらず、出会うことなく先に進めていたので、今ではレア素材ゲット!程度にしか思わなくなってきていた。
「あと少しでトーカス達の所につくかな?」
メイジアントの解体を終え、本日3個目のマジックバッグがパンパンになったところで、シエラは水を飲みながら、ふぅ、と一息つきながら声をかけた。
自身が外からマッピングした内容を思いだしながら、これまで進んできた道のりと照らし合わせ、現在の位置を確認する。実際に千里眼を併用したマッピングではないため、若干のずれはあるものの、そう、大幅にマッピング内容が異なってはいないことを、これまでの道のりで確認できているので、最奥部分までは、あと一息、といったところだった。
「…コーカス?」
反応がないので、もう一度声をかけ、彼の方に視線をやる。すると、そこにはフフっと小さく笑っているコーカスの姿があった。
「え、なに?気持ち悪い…」
思わず本音が漏れたシエラに、コーカスは失礼な、といいつつ、コホンと小さく咳払いをした。
「どうやら、トーカスが殲滅を終えたようだぞ?」
コーカスの言葉に、シエラは目を見開き、慌てて索敵スキルを展開した。
「…ほんとだ……」
最奥の部屋と思われる、地下にあった大きな空間。そこにあった、ひと際大きな反応が、完全になくなっていることに気づく。
「こ、これで帰れる…!!」
思わずこぼれる本音に、コーカスは苦笑した。
「後始末が終わったら、なのだろう?さっさと片付けにいくぞ」
「うん!」
シエラはよし、と気合を入れなおし、4個目のマジックバッグを取り出して、コーカス達と先へと急いだ。
***
「えぇっと…これは一体…」
最奥の部屋にたどり着いたところで、その部屋の中の様子に、シエラは顔を引きつらせていた。
シエラの3倍くらいはありそうな大きさがあったと思われる蟻が、手足がばらばらになった状態で、ぴくぴくしながら横たわっており、そのうえに、漆黒の体毛を持つトーカスが、体を小さくした状態で、グーグーと寝ていた。
(たぶん、これがクインアント、だよね…?)
サイズ的にも間違いないだろう、と、シエラはトーカスの下でピクついている物体を鑑定した。
クイーンキメラアント
状態:死亡。ただし、腹の中にある、次代のクイーンの卵は、間もなく孵化する見込み。
「コーカス!今すぐおなかの中の卵を壊して!!」
シエラが叫ぶと同時だった。
その声に驚いて目を覚ましたトーカスはバランスを崩し、クインキメラアントの上から滑り落ちる。
そして。
クイーンのお腹がボコン!と大きく内側からの何かの衝撃で大きく波打った。
「チッ!」
コーカスが風切り羽でおなかを真っ二つにする。
だが、お腹の中からはドロリとした液体が出てきただけで、それ以外は特に何もない。
何が起きたのかと、体を起こし、シエラ達に気づいたトーカスが駆け寄ってきたので、コーカスはトーカスに「詰めが甘い」と説教を始めた。
そんなコーカス達をよそに、シエラは再鑑定行う。だが、そこには、状態が死亡、となっているだけのクイーンの亡骸があるだけで、鑑定に出ていた、次代のクイーンに関する情報は何も出てこなくなっていた。
不味い、と、慌てて索敵スキルを展開すると、猛スピードで離れていく反応が一つあり、それは、クッティ・サーク山脈の方へと消えていった。
「…しまった、逃げられた…」
しかもその先は、不可侵条約が結ばれているクッティ・サーク山脈。
「うぅ…これ、戻ったら怒られるかもしれない…」
こちら側からクッティ・サーク山脈を通って逃げたということは、その先にある隣国の都市、バーサックが被害を被る可能性がある、というわけで。
報告しない、という選択肢は当然、なく。
「考えたくないよう!!!」
シエラは大声で叫んだ。




