再認識-1
サクラに案内されて、一番奥の行き止まりの部屋に入ったところで、シエラはちょっとした、違和感を覚えた。
「ん……?」
これまでの通路や部屋の様子と、何かが違う。
けれど、その何かがわからない。
シエラは首を傾げながらも、床に散らばっているマインアント達を手早く一か所にまとめていった。
「ねぇ…なんか、ここの部屋、変じゃない?」
考えてみても、違和感の正体がわからなかったシエラは、何の気なしに、コーカスに問いかけた。コーカスは剥ぎ取った顎を嘴から外し、何がだ?と聞き返す。
「んー、なんていうか、その…うまく言えないんだけど、なんかこの部屋だけ、他の部屋と感じが違うっていうか、違和感があるっていうか…」
違和感の正体がわからず、しどろもどろになりながらシエラが言うと、コーカスはあぁ、と何か思い当たったように頷いて答えた。
「卵の色が違ってるからじゃないか?」
「色?」
シエラは言われて、あたりに散乱している卵の残骸を見て、あ!と声を上げた。
「確かに…さっきまでは真っ白な卵だったけど…これ、全部色が黒いね。だから、何か変な感じがしてたのか」
シエラはそういって、粉々になっている卵を鑑定し、そして絶句した。
「どうした、シエラ?」
コーカスが声をかけると、シエラは顔面蒼白状態で呟いた。
「マーダーアント…」
「ん?」
小さくて聞こえなかったのか、コーカスが聞き返すと、シエラは、大きな声で「マーダーアントの卵だよ!!」と叫んだ。
「それがどうした?」
やれやれ、といった様子のコーカスに、シエラはそれだけ!?と反応の薄さに驚く。
「いやいや、マーダーアントだよ!?討伐推奨ランクBランク!コーカス達と(一応今はまだ)同じ討伐推奨ランクの魔物だよ!?」
繁殖力が強く、一体一体の能力値も高いマーダーアント。その外殻は硬くて並みの武器では傷もつけられない。
マーダーアントは基本群れで行動するため、討伐難度が高く、しかも、1匹見つけたら10匹は近くに潜んでいるって言われており、一度獲物を見つけたら、仕留めるまでどこまでも追いかけてくるっていう習性まで持っている。
その為、この魔物は駆逐指定魔獣と呼ばれる、ギルド指定の特定魔獣に分類されており、見つけた場合は即座に殲滅することが、国で義務付けられていた。
シエラの言葉に、コーカスはため息交じりに答える。
「それがどうしたというのだ。ここにあるのは卵だろう?孵化する前にすべて潰したんだ。問題はなかろう?」
コーカスの言葉に、シエラは問題大有りだよ!と続けた。
「マーダーアントの卵があるってことは、マーダーアントの卵を産んだ個体がいるってことだよ!?ここまでに、マーダーアントの死体はなかったし、もちろん、そんな気配もなかった!ってことは、外に出てたってかの、う、せい、が…」
口にしたらフラグとして成立しますよ?シエラさん。
なんて誰かが呟いた声が聞こえた気がしたシエラ。ちょうど通路の方から赤茶けた体色のシエラより少し大きいくらいのサイズの蟻が、姿を現し、ギチギチギチギチと顎を鳴らし、両手の大きな鎌を振り上げながら威嚇している。
(あ、これは死んだ)
ただそれだけを脳が理解した次の瞬間、ヒュっと風が室内に巻き起こり、思わずシエラは飛ばされないようにとその場にしゃがみ込み、目を瞑った。




