大盤振る舞い-3
薄桃色、もとい、サクラが殲滅してきた、という場所は、最終的に行き止まりになっていた、ということだったので、まずはそちらから処理していくことにしたシエラ達は、サクラに案内してもらって、鉱山内を歩いていく。
「それにしても…卵の数がエグい」
ある場所では壁に叩きつけられたようにして割れていて、ある場所では大量の卵が固まっている場所で、無残に割れてボロボロの状態になっている。
「これ、全部サクラが?」
「はい、私と彼で処理いたしました」
「え?彼??」
サクラしかいないけど?と、きょろきょろとあたりを見回していると、背後から、ここに、と急に声が聞こえてきた。
「にょあー!!!」
思わず叫び、光の速さでコーカスの陰に隠れるシエラ。その様子に、コーカスは思わず(シエラに対して)身構える。
「な、なに!?」
そっと声のした方を見ると、黒みがかった深い紺色の体毛をしたコッカトリスの姿がそこにはあった。
「気づかなかった…え、いつからいたの?」
「最初から」
短く答えると、その個体もまた、コーカスの前で跪いた。
「詳細はサクラに聞いた。ご苦労だったな」
「いえ」
サクラが喋れるようになっている。しかも、現れた個体の体毛も有色。となれば、やっぱり喋れますよねー、と、シエラは驚かないんだから、と小さくブツブツ呟いていた。
「ところで主、我も、その…」
濃紺色がちらちらとシエラの方を見ながら、コーカスに言う。コーカスは苦笑しながら、シエラ、と声をかけると、名付けてほしい、とお願いしてきた。
「え?あ、うん。わかったそうだねー…」
(サクラの時は体毛が薄桃色で桜の木を連想したからサクラにしたんだけど…この子は…)
「うん、よし。君の名前はラピ。どうかな?」
「ラピ」
ラピ、と呼ばれたコッカトリスは、ふむ、と頷き、感謝する、と小さく呟くと、シュッとその場から消えた。
「えっと…?」
体毛がラピスラズリと呼ばれる石に近い色をしている気がしたので、ラピ、と名付けたのだが、気に入らなかったのだろうか?と、シエラが首を傾げると、コーカスは気に入ったようだぞ?と少し笑いながら教えてくれた。
「奴はどうやら、隠密系のスキルを取得したようだな。あとは氷魔法を覚えているようだ」
「…すごいね、普通、そんなにポコポコとスキルとか魔法って覚えられるものなの?」
サクラやラピのように、サクサクとスキルや魔法を覚えたり、習得したりした、という話は、あまり聞いたことがない。エルフのように、生まれつき、魔法が得意な種族だと、魔法の習得が早く、割と簡単にいろんな魔法を覚えることができたり、ドワーフのように、幼いころから鍛冶関連の仕事が身近にあふれていて、鍛冶に関するスキルがすぐに一定レベルまで上がったり、習得したりする、という話は聞いたことがあるのだが、あくまでも、もともとの種族の特性によるところが大きく、人族ではそういった話はほとんど聞いたことがなかったので、不思議で仕方がなかった。
「今回に関しては、環境が良かったのかもしれんな」
コーカスの答えに、シエラは首を傾げる。
「通常、ここまで大量に狩りができることがない、ということだ。鉱山内という閉鎖空間で、かつ、敵の巣だ。卵にも微量ではあるが、魔力がある以上、壊せばそれだけスキルなんかのレベルが上がる可能性はある」
コーカスの言葉に、シエラはまた、目を丸くした。
「まさか、スキルや魔法を使って卵を壊すだけでも、そのスキルとかのレベルが上げられる、ってこと?」
恐る恐る聞くシエラに、コーカスは小さく頷いた。
「ただの卵だったり、数が少なければ難しかっただろうが…この数だ。対処したのもあ奴らだけならば、さすがにレベルが上がってもおかしくない」
言われてシエラは、粉々に砕けた卵を見て納得する。
(確かに…ここに来るまでにみた壊れた卵の数はすでに1000を超えてる。その数を壊したってことなら、あり得る、のかな?)
そして、その事実は、同時に危険性もはらんでいる情報であることに、シエラは小さく唸った。
(こんなこと、今まで誰も気づいてないし、知らなかったはず。…うん、知ってたら、絶対に話題になってるはず。でも、ギルドで把握していないってことは、出回っていない情報ってこと。…ローリスクハイリターンなんて…冒険者たちが知れば、確実にこの方法を使う人が続出することは目に見えてる)
生き残ることを考えれば、自身の持つスキルやレベルは、もちろん上げておいたほうがいい。だが、簡単に上げたスキルやレベルは、その人の身の丈以上に成長を遂げる可能性が非常に高く、そしてそれは、時としてその身を滅ぼしかねない。
「…しかも、こうなってくると弱くて大量に卵を産む魔獣や魔物が駆逐されていっちゃう可能性が高すぎる」
魔獣や魔物の数が減ることは歓迎すべきことではあるのだが、世の中は絶妙なバランスで保たれている、ということも事実で、いきなり特定の種の数が減ったり、絶滅したりすれば、それは、自然界におけるバランスが崩れる、ということでもある。
過去に、フェンリルと呼ばれた狼族最強の種族が、その毛皮欲しさに、人の手によって絶滅に追い込まれたことがあった。そしてそれは、フェンリルがいたことによって保たれていた魔獣達のバランス崩壊を招くきっかけとなり、彼らの縄張り付近にあった街が3つほど、地図から姿を消す結果となったという文献もあるのだ。
「はぁ…また、心の内にとどめておくことができちゃった…もう、ほんとヤダ」
シエラは項垂れながら、歩き出したコーカス達の後を追った。




