受付嬢のお仕事-2
「お、今日は一番乗りだ」
受付カウンターに到着したシエラは、他にまだ誰も来ていないことに気づき、小さく呟いた。
「さてと、まずは昨日の残りをやっておかないと」
昨日残してしまっていた、コッカトリスに関する報告書と剛腕の稲妻たちへの処分内容の確認とその通達書の作成。そして、ジャイアントボアの報告書のまとめをせっせと作成していく。
時刻が7時半を過ぎたころ。
「よし、こんなもんかな」
「おはよーございまーす」
ちょうど書類の作成が終わったところで、他の受付嬢たちが続々と出勤してきた。
「あ、おはようございますー」
机の上を片付け終えたら、出勤してきた他の受付嬢たちと一緒に、ギルド内・周辺の掃除を始める。毎日掃除はしているので、そこまで汚れたりはしていないのだが、これを怠ると、後々面倒なことになるので、みんな真剣に掃除をする。
8時。
ギルドのオープンの時間だ。
入り口を解錠すると、何人かの冒険者たちが、ぞろぞろと中に入ってきた。
「おはよう、シエラちゃん。今日は何か、いい仕事入ってる?」
ギルドでの仕事を受ける場合、掲示板に貼ってある依頼書を見て、自分で選ぶパターンと、受付嬢に仕事を斡旋してもらって受注するパターンの主に2種類で、どちらもメリット・デメリットがもちろん存在している。
前者の場合、自分たちである程度好きな依頼が選択できる、というメリットがある反面、自分たちの力量に見合わないものを受けてしまい、結果、依頼を失敗して違約金を支払わなくてはならなくなることが多々ある、というデメリットがある。後者の場合は、受付嬢に失敗しにくい依頼を斡旋してもらえるというメリットがある反面、冒険者たちのことをきちんと把握・理解している受付嬢でなければ、適正な依頼を紹介してもらえないというデメリットがある。
「あ、おはようございます、ダエルさん。んー、そうですねー、ダエルさんの所なら…あ、これなんかどうですか?フレイムウルフ。どうも、はぐれが群れを作っちゃってるみたいで、ビガー鉱山の方から討伐依頼がきてるんです」
冒険者側としても、命を落としてしまう危険がある依頼もあるし、失敗は違約金のこともあるが、信用問題にもかかわってくるため、できる限り、適正な依頼をある程度稼げる額で依頼を受けたい、と思うもの。そのため、ランクが上がるほど、受付嬢に依頼を斡旋してもらう場合が多くなる。
受付嬢になったばかりの頃のシエラは、モルトに異動したての頃、この斡旋する仕事を選別する作業に四苦八苦していて、いつも通常業務に着手できるのが遅くなっていた。どう考えても、それが残業に一番直結していると思っていた彼女は、残業したくない一心で、冒険者たちの特性を覚えることと、依頼と依頼達成に必要な特性のリスト化を行うようにし、効率化を目指した。
その効率化はもちろん効果があり、最初の頃は残業時間も目に見えて減っていっていた。
まぁ、彼女の仕事の斡旋能力がなかなか優秀である、という噂が冒険者たちの間に広がり、依頼をお願いする人が増えていき、気づけば残業時間が元に戻っている、というのはご愛嬌だ。
差し出された依頼書をダエルは手に取り、ふむ、と思案する。
「確か、エマさん、水と土系の魔法が得意でしたよね?フレイムウルフなら、相性がいいかなと思って」
シエラが言うと、そうだな、とダエルが頷く。
「よし、日程的にも少し余裕が持てそうだし、報酬も悪くない。これにするわ」
「ありがとうございます」
シエラはにっこりと笑って頭を下げると、さっそく受付手続きに入る。受付書類を3枚取り出し、内容を確認してもらい、報酬等について問題がなければ3枚すべてにサインをしてもらう。そして、すべての書類にサインをしてもらった後、受付作業を行った証明として、自身の職員印を押す。
「はい、では、こちらはダエルさんの控えになります。なくさないように、お願いしますね?」
3枚の書類のうち、1枚は冒険者の控え、1枚はギルドの控え、最後の1枚は、結果報告用に依頼主へ渡すためのものとなっている。
「では、お気をつけて。いってらっしゃい」
ダエルを見送り、書類を机の引き出しに片づける。
「おはよう、シエラちゃん。今日も可愛いね~。何かいい依頼、入ってる?」
「おはようございます、ジェイクさん。実は、ジェイクさんにお願いしたい依頼がありまして…」
こうして、シエラの受付嬢の一日が始まった。




