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第十六話

 女装で店内を歩き回るとか、俺からすれば生き地獄に等しい行為だ。

 とはいえ友人にバレないほどの女装であれば、これからは堂々と凛香と街に出かけられるかもしれない。

 ……女装を堂々と呼んでいいのか分からないけども。


 胡桃坂さんたちに見送られた俺は、斎藤と橘が入店した本屋にコソコソと背中を丸めて踏み込む。

 不幸中の幸いと言うべきか、客は少ない。


 ……これも凛香のためか。

 泣きそうなほど恥ずかしいが、勇気を振り絞って店内を練り歩く。

 さり気なく斎藤と橘の視界に入るように歩き……五分ほどで本屋から出て行った。


「あー、まじでキツい……」


 未だに心臓がバクバク鳴っている。

 友人に女装バレとか、本当に避けたい事態だからな……。

 俺は胡桃坂さんたちと合流するべく、通りを歩き出そうとする。


「おい、綾小路か?」

「えっ――――」


 名前を呼ばれ、咄嗟に振り返ってしまう。

 キョトンとした顔の斎藤と橘がそこに居た。


「やっぱ綾小路だろ! どうしたんだよそんな格好して!」

「ほらね、僕の計算したとおりだよ。綾小路くんの確率は20%だと分かっていた」

「めっちゃ低いじゃん! ……あー、いや、これは……その」


 どう誤魔化すか……。と考えるが、もう誤魔化せないと判断する。

 今までバレなかったので、なんだかんだで彼らにもバレないだろうと、どこか楽観視していた。

 意外と彼らは鋭かったらしい。


「綾小路、お前……女装して、俺たちの後をつけていたのか?」

「ち、違う違う! これには事情があってだな……」

「いいんだぜ綾小路。全部言う必要はねえ」

「え?」


 優しく微笑んだ橘が、俺の肩に手を置いてくる。


「お前がどんな趣味を持っていようが、俺たちは友達として受け入れてやるよ」

「誤解だ! 説明させてくれ!」


 へへっと照れくさそうにする橘に、俺は半ば絶叫染みた声で訴える。


「分かってるよ綾小路くん。僕は分かっている」

「斎藤……?」

「実は以前から思っていたんだよ。綾小路くんには、そういう趣味があるんじゃないかってね」

「ないよ!? 頼むから俺の話聞いてくれる!?」


 二人はどこか優しい視線を俺に向けてくる。

 まるで全てを受け入れてやるよと言わんばかりの慈愛に満ちた瞳をしていた。

 ……ビンタしてやろうかな。

 まったく俺の話を聞いてくれないんだけどっ。


「綾小路くんの女装は完璧だね。僕の計算によると、正体がバレない確率は98%だよ」

「……じゃあなんでお前たちにバレたんだ」

「綾小路くんの振る舞いが不自然すぎたんだよ。もっと自然に振る舞っていたら、さすがの僕たちも気づかなかっただろうね」


 斎藤の言葉に橘もウンウンと頷く。

 くっ……これはこれで貴重な意見かもしれない。

 いくら化粧や服装が完璧だったとしても、不自然な行動を繰り返せば目立って当然だ。

 今後のことを考えると、改善すべきポイントだろうな。


「……」

「なんだよ橘」


 どうしたんだろう。

 橘がボーッと俺の顔を見つめてくる。


「なあ綾小路。俺、思うんだよ」

「……なにを?」

「なぜか俺はモテねえ。とことん女にモテねえ」

「あ、あぁ……?」


 一体橘は何を言いたいのだろうか。


「だからよぉ、いっそのこと……男もアリなんじゃねえかって思う」

「あぁ…………あ!?」

「なあ綾小路。見た目が女ならよ、中身は男でもいいよな?」

「よくないだろ! 何言ってんだお前!?」


 橘の視線に妙な熱が込められる。

 俺は本能的に嫌な予感がした。

 どうにも胡桃坂さんと清川のコーディネートが完璧すぎたらしい。

 モテない男に新たな扉を開かせた様子……! 


「綾小路……今からその、どうだ?」

「何が!?」


 まるで恋する乙女のように恥じらう橘。彼の儚く潤んだ瞳からは、甘酸っぱい恋の始まりを想像させる――――。


「ごめん! 用事思い出した! じゃあな!」

「待てよ綾小路! まだ俺の話は終わってねえぜ!」


 これは本気でヤバい。

 橘たちに背中を向けた俺は、死ぬ気で駆け出した。


 ☆


「ヤバい……あれは本当にヤバいって……」

「良いお友達をお持ちですね。羨ましいです……ぷぷっ」

「それ皮肉だよね? ちょっと笑ってるじゃないか」


 人気の少ない街の一角。息を整える俺に、清川が笑いを堪えるような面白い顔でそう言ってきた。この後輩、生意気すぎない?


「ねえカズくん。もし橘くんとカズくんが付き合ったらね、どっちが攻めでどっちが受けになるのかな?」

「ごめん胡桃坂さん。ちょっと黙ってくれる?」


 BLゲーム好きの胡桃坂さんからすれば、気になって仕方ないことかもしれない。

 まあ俺がそれに応える義理はないし、応えたくもない。

 たとえ『もし』だったとしてもな……!


「これで今後の課題が見えましたね」

「そうだな……。もっと普通に振る舞う必要がある」


 もし俺が女装に慣れることができたら、凛香と花火大会に行くことも夢ではなくなる。

 まさに斜め上すぎる発想だが、現状最も現実的な作戦…………かなぁ? 

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― 新着の感想 ―
[一言] 女装大変ですねw 安心してください、私はゴールデンウイーク終わりました…………休み5までだったので! 皆さんが羨ましいです。 久しぶりの投稿ありがとうございます!
[一言] やべぇ押しが凜香から橘になりかけたふぅ危ない危ない これからも体調に気を付けながら頑張って下さい
[一言] 現実的ではあるが非現実な作戦w
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